どこから漏れたのやら
かまわず駿河は質問を続ける。
「29日の午後9時から、12時の間、どこにいた?」
「……それ、こないだも別の刑事さん達が聞きに来たから答えたわよ。お仲間なんでしょ? そっちから聞いたら」
「君から直接答えを聞きたい」
「その日は同僚の送別会だったの。仕事が終わって7時過ぎぐらいかな?流川の居酒屋で大騒ぎして、そのあとカラオケに行って……帰ったのは翌朝よ」
結衣達が聞き込んだ情報と相違はない。裏も取れている。
「ほんとうに、こっちの男性に見覚えはないんだな?」
駿河は西島進一の写真を手に持って、彼女の目の前に掲げた。
「しつこいわねぇ。そんなんじゃ彼女に嫌われるわよ?」
「……」
「ねぇ、そう言えば聞いたわよ?! かくいう駿河君こそ、結婚詐欺に遭ったんですってね? やだぁ、かわいそう!!」
森川紗代は写真を払いのけ、テーブルに肘をついて顔を近づけてきた。
「式の直前にドロンですって?! いくらぐらい盗られたの?!」
まわりの客達が何事かとこちらを注目する。
彼女の声は元々よく響く。
「駿河君って純情だもんねー! ちょっとぐらいブスでも、相手が口の上手い女だと男ってコロっと騙されるのよね~。ねぇ、どんな女だった? どうせ、たいした美人じゃないくせに、舌先三寸で生きてるような女でしょ?」
「あんたは男にモテるだろ?」
ずっと黙っていた友永が口を開いた。
「え?まぁ……ね」
「もっとも、下半身だけで生きてる男限定だろうがな」
森川紗代は少しだけ、言われた事を理解するのに時間がかかったようだ。
それから顔を真っ赤にすると、
「何よ、あんたの元カノだって似たり寄ったりでしょ? 駿河君のこと、お金目当てだったんじゃない!そりゃそうよね、あんたみたいなつまらない男、女から好かれる訳ないもの!!」
友永は立ち上がる。「いくぞ」
駿河も彼に倣った。
コーヒーショップを出る時、他の客達の視線が少し痛かった。
「あんなのには耳を貸すな」
わかっています、とだけ答える。
「……の、わりには泣きそうだぞ?元気出せ。まったく、世話の焼けるお坊っちゃまだぜ」
友永は大きな手で駿河の頭をかき回した。今度は子供扱いにムッとする。
「世話してくださいなんて頼んでいません」
すると相棒は苦笑しながら、
「あー、俺の言い方が悪かったな。お前はいろんな意味で女どもが放っておかないタイプだよ。母性本能をくすぐられるってやつか?」
「……友永さんに言われると、気持ち悪いです」
「……」
しばらく無言で歩き進んだ。
やがて先に友永が口を開いた。
「西島進一を知っているな、あの女」
「なぜです?」
するとなぜか、相棒は溜め息をついた。
「お前な、こないだもっと人を疑えってジュニアに言われただろうが? それにさっきの女、嘘をつく時の人間の特徴を見事に顔に出してたぜ。お前も警察学校で習っただろ? 忘れたのか」
面目ない。駿河は返す言葉も見つけられなかった。
「気を取り直せ。にしたって、いよいよ怪しくなってきたな……西島進一」
森川紗代も言っていたが、確かに西島進一はまだあどけない、可愛らしい顔立ちの青年である。
だが、人は外面だけでは何もわからないのも事実だ。




