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午後のミルクティ

 うわっ、と声が聞こえた。

 

 そして、

「てめぇ、何しやがる?!」影山の怒号。

「わりぃわりぃ。つい、手が滑っちまってな……」

 駿河が顔を上げると、影山は頭からポタポタ、ミルクティの滴を落としていた。


 どう考えたって『手が滑った』というのはあり得ない気もするが。


 要するに、友永が自分の飲んでいた紅茶を影山の頭にぶちまけたということだ。


「わざとだろうが?! このスーツ、いくらしたと思ってるんだ!! 弁償しやがれ!!」

「いくらしたかだって? お前さん、俺よりも階級が下だから……懐具合なんてたかが知れてんな。どうせ洋服の青山の吊りスーツだろ」

 階級のことを言われたのが気に障ったのか、影山はさらに顔を真っ赤にし、友永の胸ぐらを掴んだ。


 騒ぎに気付いた、所轄の刑事課長が走り寄ってくる。

「おい、お前達!! 何をしている?!」

「すみません、課長」

 友永は如才なく、ごく一部の真実を綺麗に脚色し、本当に『手が滑った』ことにして説明を終えてしまった。

 納得する課長。


 相棒の口八丁ぶりに、影山さえ呆気に取られているようだ。


「では、これから我々は引続き鑑取りに出かけますので」

 行くぞ、と友永は駿河の手を引っ張って会議室の外に連れ出す。


挿絵(By みてみん)


 鑑取りとは、被害者の交友関係を洗いだすことである。

「おもしろいから、その森川沙代って女に話を聞きに行くぜ?」

「おもしろいって……」

 とは言うものの、いずれにしても彼女からは話を聞く必要があった。


 廊下に出て少し進んだ先に、班長と和泉が向き合い立っていた。


 最近しばらく和泉の姿を見ていないと思ったが、どこで何をしていたのだろうか?

 あの人は本当に意味がわからない。


 それから、森川紗代とは広島駅前のコーヒーショップで落ち合った。

 連絡をすると即、これから会えると応じてくれた。


「嬉しい、駿河君から連絡くれるなんて!」

 隣にいる友永のことはまるで眼中にないらしく、彼女はうきうきとはしゃいだ様子で向かいに腰かける。

 前回会った時は、つまらない男だとくさしていなかったか?

「ねぇ、見てこれ!ボーナス出たから思いきって買っちゃった」

 彼女は耳に揺れるピアスを指差した。


 事件のことを切り出すタイミングを探しているのだが、森川紗代は間断なく自分語りをつづけ、駿河が口を挟むのを許さない。

 友永は紅茶に飽きたのか、今度は熱いコーヒーをちびちびと飲んでいる。


「聞きたいことがあるんだ」

 しびれを切らして、駿河は話の腰を折った。

「え、何?」

「この男性二人を知っているな?」

 アレックスと西島進一の写真をテーブルの上に乗せる。

「あら、アレックスじゃないの」

 彼女はアレックスの写真を手に取ってまじまじと眺めた。

「こちらの男性は?」西島進一の写真を近付ける。

「……え、どうして? こんな可愛い男の子なら、一度会ったら忘れないけど」

 嘘をついている気配は見えない。

 だからといって、全面的に信用していいとも思えないが。

 

 森川紗代は溜め息をつきながら飲み物を飲んだ。

「アレックス、殺されちゃったのよね。可哀想に」

 駿河は黙って彼女の表情を観察した。特に大きな変化はない。


「……君も詐欺被害に遭ったんだろう?」

「私? やぁね、私は別に被害なんて……実際、英会話をタダで教えてもらえたし。もちろんお礼はしたわよ……」

 その先に続く言葉が予想できて、駿河は先手を打った。

「だったらなぜ、被害届を出したんだ?」

 答えはない。


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