こんにちは!
「……ほんっと、女って生き物を知らねぇよな。お前は」
前にもそんなようなことを言われた記憶がある。
「いけませんか?」
また何かからかわれるのだろうか、と駿河は身構えたが、返ってきたのは思いがけず質問なのであった。
「殺人事件の動機、8割はなんだと答える?」
「……怨恨、です」
「怨恨の理由は」
「痴情のもつれ、です」
わかってんじゃねぇか、と友永は溜め息をつく。
何が言いたいのだろう?
「お前はどちらかというと、善意で他人を見ている。けどな。人間ってのはしょせん、エゴの塊なんだよ。他人の不幸が面白くてたまらないんだ。特に男女関係の絡んだ事案っていうのは余計にな。さっきの娘ども、彼氏がバッグを買ってくれたって自慢していた女の連れ二人、どういう表情をしていた?」
「……笑顔に見えましたが……」
再び、溜め息。
「そりゃ、嫌な顔を表に出したりしたら、負けを認めるようなもんだからな。表面上はいいなぁ~って笑いながら、腹の中じゃ、しきりに呪いの言葉を吐いてんだよ」
「そういう……ものですか?」
「そういうもんだ、覚えておけ」
駿河は友永の横顔をちらり、と見つめた。
「友永さんは……女性心理をよく理解しておられるのですね」
「まぁな。だから俺も、若い頃は相当モテたんだぞ? それこそ……」
相棒が口をつぐむ。
二人から約数メートル離れたところを、探していた西島進一が歩いていたのだ。
すると、
「あ、こんにちは!」
こちらに気付いた進一が、思いがけず向こうから近付いてきたのである。
「どうしたんですか? 何か、アレックスの事件のことでわかったんですか?」
ニコニコと童顔に笑顔を浮かべ、何の警戒心も見せていない。
我々はあなたに疑いをかけている。
駿河は胸の内で呟く。
「少し、お聞きしたいことがあります」
僕に? と進一は不思議そうに首を傾げる。
「ねぇ、ここじゃなんだから移動しません? 僕、車で来てるから……」
その申し出はありがたかった。刑事達はここまでバスと徒歩で辿り着いたのである。
そこへ、女性の声が割って入った。
「あら、葵? 葵じゃないの!!」
長い金髪を揺らしながらこちらへやって来たのは、ビアンカである。
彼女とはあのパーティーで出会って以来、二度目に会うのだが、まるで旧知の仲のような笑顔で近づいてくる。
それが少しも不快に感じないのは、親しみやすい笑顔のせいだろう。
「どうしたの、こんなところで」
「ねぇビアンカ。刑事さん達、アレックスの事件のことで僕に話があるみたいなんだ。一緒に来てよ」
ビアンカはなぜかはっとした表情になり、そうして何か言いたげにこちらを見つめてくる。
「わかったわ。そう、京橋川沿いに美味しいケーキ屋さんがあるの。そこでいいかしら? そしたら車……」
「僕が出すからいいよ」
駐車場に向かい、北島進一が乗り込んだ車はトヨタのレクサスであった。
こりゃいよいよ、北島義雄の息子っていうセンが濃くなったな……と友永が、駿河に耳打ちしてきた。息子ではなくたぶん、孫だろう。
それから車は京橋川ではなく、もっと郊外の、行ってみれば山奥のような場所へ向かって走りだした。




