お坊っちゃまのファッションセンス
大学のキャンパスに到着した。
市の中心部からやや離れた郊外にあるそのキャンパスは、山を切り開いたような不便な場所にあり、それだけに敷地面積はやたらに広い。
周囲には見事に何もない。
普通は大学のまわりと言えば、学生向けに飲食店が軒を連ねているものだが、そう言った店もほとんど見かけない。
あるのは学生向けの下宿と思われる、こじんまりとしたワンルームマンションばかりだ。
この大学の生徒はきっと毎日、学生食堂で昼食を済ませているのだろう。
などと、どうでもいいことを考えながら駿河達は西島進一の姿を探した。
まわりは過疎地でも、校内は華やかであった。
お洒落に着飾った若い女子大学生達が、きゃあきゃあ言いながらすれ違う。どの女性もファッション雑誌から抜け出したかのような外見である。
刑事達はまず、事務窓口に向かった。
西島進一を呼び出して欲しいと頼むと、ものすごく嫌そうな顔をされた。
「そういうの、対応していないんですよね……」
直感的に嘘だな、と駿河は感じた。
だが、そう決めつける材料もない。
幸いなことに大学構内は開かれた場所である。駿河達はそこを離れて、しばらく構内を歩き回ることにした。
「なぁ、ちょっとあそこで座って奴が通りかかるのを待たないか?」
友永はもう歩くのに疲れたのか、近くのベンチを指差す。
「……通りかからなかったら、どうするんです?」
「そん時はそん時だ」
庭に植えてある桜の木の下に、いくらかベンチが設置されている。
確かに、無闇に動き回るよりは効率がいいかもしれない。
駿河は友永と並んで腰を下ろした。
二人の前を三人組の女子大生が、楽しそうにしゃべりながら歩いている。
「これ~、彼氏が買ってくれたんだー」
「えー、いいなぁ~羨ましい!」
女性の一人が自慢げに、手に持っていたバッグを指差す。
明るく染めてゆるくカールした長い髪、異様にふさふさした長いまつ毛、病人かと思うような不自然に白い顔色。
そして駿河はその内の1人を見ていて、ふと思った。
もしかして朝、あまりにも急いでいたので、スカートなりズボンなり、ボトムを穿き忘れてきてしまったのだろうか……?
あれはきっと裾丈の長いシャツに違いない。
彼の中に【ミニ丈ワンピース】などという概念はない。
「彼氏が買ってくれた……か」
そう言いながら友永は鼻を鳴らす。
怪訝に思って彼の横顔を見ると、
「彼氏に何か買ってやった、って自慢する女はいねぇよな」
確かにそうだ。
「もしそんなことを口にすれば即刻、あんたその男に騙されてんのよ!! ってなるだろうな……」
女性心理について、やはりよく理解できていない自覚のある駿河は、自分の中であれこれ考えるのをあきらめ、相棒と論議することを選択した。
「もしかして詐欺被害者達は、心のどこかで『何かおかしい』と感じたことがあるのでしょうか?」
「……そりゃ、あるだろうな」
「被害者によっては何百万もつぎ込んでいる女性もいます。まわりの誰も気付かず、止めようともしなかったのでしょうか?」
すると友永は、最近また伸び始めてきた髪をかき回しながら、おかしそうに言った。
「お前、今まで何人の女と付き合った?」
信じられないかもしれないが、そういう相手は後にも先にも、美咲だけである。
答えると確実にバカにされる、と感じ取った駿河は黙っていた。




