目撃証言
だいぶ体調は回復した。
自分が思っていたよりもずっと、身体はストレスに苛まれていたらしい。
和泉の言ったことは本当だった。
昨夜、美咲の名を騙って駿河宛に送られてきたかんざしは、本人からではなかったのだ。
周のおかげで確信を持てた。
それは今朝の話である。
何の嫌がらせか和泉が、かんざしのことを持ち出して話しかけてきた。
『あれ、ホントに美咲さんから送られてきたと思ってる?』
『……』
『葵ちゃんはさ、刑事のくせに疑いが足りないんだよ。それに、美咲さんがそういう陰湿なことするタイプだと思う? 気持ちはわかるけど、もう少し冷静になりなよ。誰かがこっそり盗んで、美咲さんの名前を使って嫌がらせした、っていうのが刑事の考え方だよ。ねぇ、ひろみさん』
『ひろざねだっつーの。ま、いかにも和泉らしいヒネた思考回路だよな。実はお前が犯人なんじゃねぇの……ってコラ待て! 人のお茶に何入れ……あーっ!!』
『もっと、他人を悪意の目で見た方がいいよ』
だが、今にして思えば和泉の言うことはもっともだった。
私情に流されて、冷静に考えることができなかったのは失態だ。
ここからは少し名誉挽回しなければ。
駿河は携帯電話を取り出し、友永の番号にかけた。
『……よぉ、少しは落ち着いたか?』
「おかげさまで。聞き込みを再開しましょう」
相棒と落ち合い、駿河達は聞き込みを再開した。
それから何軒目かでようやくヒットした。市の中心部のお好み焼き屋である。
「ああ、この外人さん。いつもよく来ていましたよ」
店長と呼ばれた男性は答えて言った。
「29日の夜はいかがですか?」
「ああ、来ていましたね。その日は自分の誕生日だったからよく覚えていますよ」
「誰か連れはいましたか?」
すぐに反応があった。
「ええ、いつも一緒に来てる男の子がいました。その日も一緒でしたよ。いやぁ、あの日は何があったのか知らないけど、急に口ゲンカをはじめちゃって……」
「男の子……?」
「年齢はでも、成人していますよ。アルコールを注文されて……童顔だったから、一度免許証を見せてもらったことがあるんです。立派な成人でした」
「その、男の子というのは……?」
はやる気持ちを抑えつつ、駿河は答えを待った。
※※※※※※※※※※※※
「西島進一……?」
お好み焼き店で得た証言は驚くべきものだった。
被害者と最後に会っていたのは、遺体の身元確認に来ていた彼だった。
そんなことは一言も言っていない。
少なくとも、供述調書からは。
西島進一に会って事実確認をしてこい、上司からの命令に従って駿河は、相棒である友永と一緒に広島経済大学に向かっていた。
「お前、顔にも口にも出さないけど、空気には出してるよな。思い切り」
助手席の友永が呆れたように言った。
「……何がです?」
「隣にいるとびんびん伝わってくるぜ? お前の内心ってやつが。今、ものすごく落ち込んでブルーなのか、それともすっきりして晴れ渡った青なのか」
漫画のキャラクターじゃあるまいし。
それにしても、マンガというのは同じ顔でも背景で悲しそうに見えたり、嬉しそうに見えたりするから不思議だ。
「西島進一……ねぇ。まさかとは思うけど」
「まさか、なんです?」
友永は白けた顔で言った。
「お前、根っからの地元民のくせにピンと来ないのかよ? まぁそりゃ、めずらしい名字でもないからあれだけどよ」
相棒が何を言おうとしているのか駿河にはわからない。
「元民自党幹事長の、西島義雄の縁者じゃないだろうな?」
元民自党幹事長。それはつまり地元が生んだ名士であり、政治家である。
警察組織が一番相手にしたくない厄介な相手。
「そうだとしたら、捜査に圧力がかかると考えられるのですか?」
「そりゃそうだろ。ま、そうなった時にどうするかは班長の判断次第だがな」
友永は頭の後ろで手を組んで天井を見上げた。
「俺は、高岡警部に従う」
「自分もです」




