あっという間に解決した件
「ところで、猫は元気か?」
たぶん、プリンを見ていて思い出したんだろうな。
「元気だよ。ああそうだ、プリンの首輪……姉さん喜んでた」
少し前、三毛猫の方を連れて駿河の家を訪ねた帰り、彼はプリンに首輪をプレゼントしてくれた。
淡いブルーのリボン。
いい色ね、と姉は喜んだ。
首輪、でなんとなく周は思い出した。
「そういえばさ……髪に挿すかんざしってあるじゃん?」
駿河が手を止める。
うちの姉にプレゼントしたことある? なんてことを訊けるほど、周も無神経ではない。
「あれって、買うといくらぐらいするのかな」
少しの間、彼は無言だった。
何か悪いことを訊いたのだろうか?
それからしばらくして返ってきた答えは、
「さぁな」
と、至って素っ気ない。
割と最近の話だが、姉が大切にしていたかんざしを失くしたと、ひどく落ち込んでいた。
「うちの姉さんがさ……大切にしてたかんざしを失くしたらしくて」
「……大切にしていた?」
駿河はすっかり手を止めている。
「え、あ……うん。この世の終わりみたいな顔で落ち込んでたから……それで、代わりを買ってやろうかと」
「どんなものだ?」
なんか尋問されてる?!
「確か、金色の棒の先にピンク色のパールみたいな……」
見なかった? と、姉から何度も同じことを訊かれて、周もいい加減、見たこともないかんざしの形状を覚えてしまった。
「本当なのか?」
「嘘なんかついてどうするんだよ」
「……なくなったのは、いつからだ?」
そう言われて記憶を辿ると、思い出した。
「なんとか先生を励ます会、とかいうパーティーに行った日かな」
周は釈然としないものを感じた。
だが一方の駿河はどこか嬉しそうな、ほっとしたような様子である。
それから、
「ありがとう……」
ありがとう? なんでお礼を言われるんだろう。
不思議に思ったが、悪い気はしなかった。
「なぁ……」
周は無表情な男の横顔をじっと見つめていて、ふと思ったことを口にした。
「仕事、忙しいのはわかるけど……あんまり無理すんなよ?」
姉さんが心配するから、と声には出さなかったが胸の内で呟いた。
俺もだけど。




