志望動機は
ビルを出て2人はしばらく歩いた。
どこか座れる場所は……と探したが、すぐには見つからない。
周は駿河の様子を見た。胃の辺りを手で抑えている。
「ひょっとして、調子悪いのか?」
胃の調子が悪い時に、お好み焼きの匂いはキツい。
とにかくこいつを休ませる場所。ふと目についたのは、すぐ近くにあった大型ショッピングセンターであった。
階段の踊り場にはベンチが設置されている。
周は駿河をそこに座らせた。
「……無理すんなよ……」
それから自動販売機を探し、ミネラルウォーターとジュースを買ってきた。
周は彼の隣に腰を下ろし、ジュースのプルタブを開けて口をつけた。
「……悩みというのは何だ?」
礼を言ってから水を一口飲み、駿河が言った。
「そんな調子で、人の心配より自分の心配しろよ」
「問題ない」
そう言い切られて周は迷った。
すべてを打ち明けたところで、却って彼を苦しめることになるだけかもしれない。
しばらく、沈黙が降りた。
「……俺も、高二だからさ。悩みっつったら進路のこと以外ないだろ?」
周はジュースの缶を手の中で弄びながら思いついたことを言った。
「県警に入るんじゃないのか?」
やや疲れたような声が問いかけてくる。
「俺は、そのつもりだったよ……けど……やっぱり滑り止めっていうか、浪人はしたくないから……選択肢をいろいろ……」
「慎重なんだな」
バカにされた気がして周はムッとした。
「そういうあんたはどうして、警察官になったんだよ?」
駿河は少しの間黙りこんで、それから答えた。
「……他に選択肢はなかった」
「え……?」
「僕は、父親が敷いたレールの上を走ってきただけだ」
驚いた。
正義感に突き動かされて、とか、一般市民を守りたいと思ったとか、そんなありきたりだがごく当たり前の理由だと思っていたからだ。
「そのことに疑問を持ったことはなかった。それ以外、僕が生きていく道はないと思っていたからな……」
どういう家庭で育ったのだろう?
何となくお坊っちゃま育ちだろうな、ということぐらいしかわからないが。
周は駿河の横顔をじっと見つめた。
「刑事になりたいと思ったのは、警察に入ってからだ。初めて自分で考えて決めたことだった。だから、希望がかなった時は嬉しかった……」
姉もきっと喜んだに違いない。
刑事になるためにどんなプロセスが必要なのかを周は知らない。
ただ、そう簡単に誰でもなれるわけではないであろうことぐらは、容易に想像がつく。
ふと、周は空腹だったことを思い出した。
「なぁ、何か食う? 何にも食べない訳にはいかないだろ。胃の調子が悪いんだったら……あんまり負担がなくてそこそこカロリーがあるもの……」
そこで待ってろ、と周は言い残して食料品売り場へ向かった。
何がいいか考えた末に、プリンと蒸しパン、それから飲み物などを購入した。
先ほどの場所に戻ると、駿河は電話で誰かと話していた。
「……はい……いえ、それはまだ……」
周は邪魔にならないよう気を遣いながら、再び隣に座る。
「……ご心配をおかけして申し訳ありません」
たぶん、高岡さんだな。
ほら、と駿河が通話を終えたのを確認してから、周はプリンのカップを渡した。
彼はポケットから財布を取り出した。
別にお金はいい、と言いかけたが、どうせ無駄だろう。




