油とソースの
水彩色鉛筆で描きました
三者面談は二日に渡って行われる。
昨日、既に面談が終わった生徒は午前中で解放されて下校できる。
周と同じようにやはり昨日の内に面談を終えた智哉は、一緒に帰ろうと言ってくれた。
お好み焼きを食べて帰ろうと。
まったく気が進まなかった。
智哉は明らかに気を遣ってくれている。
朝から気分が優れなかった。兄のせいだ。
なるべく顔に出さないよう気をつけていたつもりだが、長い付き合いの智哉にはすぐにバレてしまったようだ。
姉は確か今日、出かけると言っていた。
家に帰っても一人なら友人と一緒に昼食を食べて帰るもの悪くない。そこで周は了承して、友人と共に下校した。
学校を出て歩くこと約10分、市内中心部の商店街に出る。
お好み焼き屋が集まった観光客向けのビルには、平日だというのに、今日も大勢の人で賑わっている。
雑多で狭いビルの中にはお好み焼きを焼く音と匂いが溢れている。
時刻は昼時の一番混雑する時間を少し過ぎた頃。
周はビルの中に入ろうとしたが、智哉がちょっと待って、とそれを止めた。
「なんだよ?」
「……もうちょっとだけ待って」
なんなんだ?
しばらくして、
「あ……!」不意に智哉が嬉しそうな声をあげた。
周が顔を上げると階段の上から知った顔が二人、こちらに近づいてきた。
一人は友永という刑事だ。いつもだらしない印象が強く、どうして智哉はこんなのに懐いたのだろう? と周は不思議でたまらない。
そしてもう一人は駿河だ。
「友永さんも一緒に来てくれたんですか?」
「おぅよ。一応仕事のついでにな……こいつとはコンビ組んでるし。それに何より、俺が智哉に会いたかったからな」
友永はくしゃくしゃと智哉の頭を撫でた。
「……なんのつもりだ?」
周は思わず友人を睨んだ。
「おい、そんな顔すんじゃねぇ。智哉はな、お前さんが最近ずっと元気がないって心配してたんだぞ?」
やっぱりそうか。
「じゃ、そういうことで」
友永はなぜか智哉の背中を押して、どこかへ行こうとする。
「えっ? 智哉?!」
「駿河さん、それじゃあとはよろしくお願いします」
智哉も軽く手を振って去って行く。
取り残される二人。
「……中に入るぞ」
「あんたが奢ってくれんの?」
返事はなかった。なんだよ、と周は呟いた。
どの店も一番比較的空いていた。周は黙って駿河の後をついて歩く。
なんとなく、その背中を見つめていて感じた。
元気がない。
そうして彼は一番空いている店を選んで腰かけた。
「お仕事中にすみませんが、少しお訊ねしてもよろしいでしょうか?」
駿河は水を差しだした店員に内ポケットから写真を取り出して見せた。
「この男性を見かけませんでしたか?」
店員はしげしげと写真を見つめたが、さぁ? と首を横に振った。
誰の写真だろう? 周が好奇心から覗きこもうとしたのを察した駿河は、さっと写真をポケットにしまいこんだ。
「……好きなものを注文しろ」
「奢ってくれるつもりなんだ?」
とは言っても、たかがお好み焼きでは値段も知れている。
刑事の給料がどれほどかを詳しくは知らないが、周は中間ぐらいの値段のメニューを選択した。
「あんたは?」
駿河は黙っている。
それどころかひどく顔色が悪く、手で口元を覆っている。
「すみません、今の注文キャンセルしてください!!」
周はそう言って、彼の腕をつかんで立ち上がらせた。
思いの他、抵抗はなかった。
と言うか、彼も本当は一刻も早くこの場を立ち去りたかったに違いない。




