刺客
五日間。格郎は五日間魔物と戦い続けた。
「ふぅ…ふぅ…あぁぁ…くそ」
格郎はもうボロボロだった。衣服は裂け、魔物の返り血を浴びていないところなどなかった。格郎は疲れ切っていた身体を大地に預けた。しかし大地にもまた、魔物の血が大量だった。
「くそったれ…時間が…ねぇんだよ」
魔物の屍。血。肉片。臓物。糞尿。鼻がおかしくなりそうな悪臭。もうたくさんだった。
ガサッ
何かが近づいてきた。格郎は体勢はそのままに神経を張り詰めた。
「人間か」
格郎は男の声で問いかけられた。誰だかわからない。
「誰だ」
瞬間、格郎は今まで感じたことのないような殺気を感じた。
「…強いんだな。アンタ」
格郎が男に告げる。
「そうだな。強いよ。私は」
格郎は傲慢だとは思わなかった。それだけの実力を、こいつは持っている。
「やるか。私と」
男はぶっきらぼうに言い放つ。
「…今は勘弁して欲しいな」
格郎が言い終わるより早く、男の貫手が格郎の胸を抉る。
「…」
筈だった。間一髪、格郎は男の手首を掴んだ。
「ふぅぅぅ…」
力を込める。
「お前もなかなかやるね。並みの力じゃないよ」
男が呟くように言う。
「…嫌になるよ。魔物の次はバケモノだ。勘弁してくれ」
「勘弁?今から殺す奴に勘弁なんかしないよ」
格郎は男を蹴り上げる。男はふわりと浮き上がり、数メートル先に着地した。だが格郎は足に手応えを感じなかった。男は自ら跳躍したのだ。
「あんた何者だ。魔王の手先か」
格郎が問う。男は首をコキコキと鳴らした。
「そうだよ」
ぶっきらぼうに告げる。
「それじゃあ、魔王のところにはアンタみたいなのがもっと居るのか?」
「まぁね」
「…まいったね」
こんなに強いのがもっといるのか。全くうんざりだ。
「魔王のことなら安心しな。城に着く前にお前は死ぬから」
男は相変わらずぶっきらぼうな言い方だが、身を裂くような殺意が込められていた。
「おっかねぇな…」
男がゆらりと動き出す。そして一瞬で間合いをつめた。素早く、正確な突き。格郎はかわし、突き返す。恐ろしく素早く正確な突き合い。一瞬でも気を抜けば、たちまち急所を突かれて絶命するだろう。
「…ちっ」
格郎の突きが男の顔をかすめた。男は後ろに飛び退いた。男の 頬から血が滲む。
「…なんだ。全然弱ってないじゃんか」
男が呟く。
「楽に殺れるとおもったんだがな」
男は体の力を抜いた。
「ちょっと本気出すぞ」
格郎は構えを解かなかった。一瞬も油断はしなかった。だが、次の瞬間、格郎は強い衝撃で弾き飛ばされた。