危うい街
このアルマという大陸には大国と呼ばれる国が五つある。格郎はその内の一つ、ドマルンマ国に入った。
「旅の人、寄ってお行きよ」
商業で栄えるこの国は様々な商売があちらこちらで行なわれていた。食べ物、武具、書物、美術品、家畜…人もまた例外ではなかった。
「大安売りだぁ、一匹10万ラークからだよぉい」
人売りが陽気な声で叫ぶ。だが今の格郎には街を冷やかす時間すら惜しかったので、早々に馬を乗り換えるべく宿まで急ぐのだった。
「…おっとゴメンよっ」
小汚い身なりの少年とぶつかりそうになる。体をひねって避けると、少年は面喰らって前のめりに倒れた。明らかにぶつかりに来ていた。
「あでで…」
格郎の目から見て、彼がスリを働こうとしたことは明白であった。この国に入ってから、浮浪児らしき少年や少女の存在はちらほらと見受けられたから、彼らが生計をたてるために犯罪を働くのは想像ができた。人買いから逃げたのか、捨てられたのか。
「…気をつけろよ」
格郎は少年を一瞥してそう告げると、再び馬を引き、歩き出した。ぶつかってきたことに対してだけでは無い。その危うい生活に対しての忠告も、含めたつもりだった。彼がそれに気付くかどうかは、格郎にはわからなかったが。
暫くして宿に着いた。もう日が落ちていたので、格郎は宿で休むことにした。夜が更けても、街は明るく、喧噪は止まなかった。