序の口
格郎が城を後にしてから一週間程がたった。魔王の城のある秘境トハクゥルへは、真っ直ぐに馬を走らせても四ヶ月はかかるという。半年以内に魔王を倒さなければならない格郎にとって、時間に余裕は無かった。日が沈むまでは馬を走らせ、道中の町で馬を交換しながら先を急いだ。王都からはかなり離れ、人気のない森の中を走ることも多くなった。人気の無い場所を一人で走れば、邪な輩や人ならざるものと出会うのは道理であった。
「あぅおっあぁぁぁぁッ」
右腕を砕かれた男が悲鳴を挙げる。
「よくもっよくもっよくもっ…あぁぁぁぁ‼︎」
「…」
「ころっころっころっころじでっころじでっ」
血走らせた目を見開き、長髪の男は手斧を振り回した。
「…」
格郎は剣を抜かなかった。剣は消耗品である。なるべく使いたく無かった。だから男の手首を掴んで引き寄せ、顎に掌底打ちを食らわせた。
「うんっ」
男は後ろに仰け反って倒れた。格郎は男に歩み寄り、後ろに回って首をがっちりとホールドした。
「…」
腕に力を込めた。一瞬で終わらせるためだ。
ゴキン
格郎が人を殺したのはこれで五回目。魔物は二匹殺した。人の様な緑色の肌をした魔物だった。逃がせばまた人を襲うだろうし、人を襲わなければ生きていけないのだろう。こうした方が良いと思った。
後少しで日が落ちる。格郎は野宿のための支度を始めた。これからもっと殺すことになるだろう。そんなことを思った。