旅立ち
男が異世界に召喚されてから三ヶ月がたった。男はもはや迷ってはいなかった。魔王を倒さなければ元の世界には戻れない。一種の諦めであった。王は魔王を倒すために必要な装備を整えさせ、男は三ヶ月間厳しい修行に明け暮れた。三ヶ月。長い長い日々であった。体術、剣術、槍術、弓術、馬術、隠密に至るまで、それぞれのプロフェッショナルから学んだ。肉体を追い込み、精神を追い込み、限界を超える修行の日々であった。魔王を倒し、元の世界に帰るため…。男は耐え続けた。そして、旅立ちの時は来た。
「…いよいよじゃの」
巨大な門には王と兵士と民衆。
「よくぞ今日まで過酷な修行に耐え抜いた…。お主なら魔王も倒せるであろう…」
三ヶ月にわたる修行は、男に凄まじい変化を与えていた。体の厚みが増し、逞しく、屈強な肉体を手に入れた。眼光は鋭く、威圧感があった。
「…魔王が完全に力を取り戻すまでは、あと半年ほど時間が必要のはずじゃ。半年以内。半年以内に魔王の息の根を止めるのじゃ」
「…分かってる」
装備を確認しながら男は応える。三ヶ月の前のやつれきった姿はそこには無かった。
「…さて、出発だ」
男は馬にまたがった。
「うむ…」
王はごほんっ、と咳払いをした。
「行け、勇者カクロー。…世界はお主にかかっておる」
かくして、泰田格郎の冒険は始まった。