非情な召喚
「落ち着いたかの?」
立派な玉座に腰掛けている初老の男…王は男に尋ねた。衛兵二人に連れられて、制服姿の男は王の間に来ていた。
「えぇ…まぁ…」
男はだいぶやつれていた。
「まったく…なんだってこんな事に…」
「うむ…その事については、話しておこう」
王は玉座の腰掛けたままごほんっ、と咳払いをした。
「ワシはこのアルマ大陸を統治するヴァンヘイル国の国王じゃ。まぁこの国の話はおいおいするとして…お主を何故召喚したのかじゃな」
ごほんっ、とまた一つ咳払い。
「…この大陸には以前、魔王と呼ばれる存在がおったのじゃ。千年ほど昔のことじゃがの。魔王は魔物を生み出し使役したり、疫病を流行らせたり、人の心を操る力を持っていた。絶大な力じゃ。魔王はその力を使ってこの大陸を支配した」
王はよく通る声で語り始めた。
「だが魔王に反発する者も残っておった。その中でもワシの先祖に当たる戦士タンヤヌは腕利きの戦士で、魔王に反発する者達をまとめ上げ、魔王と戦い、遂に魔王を封印する事に成功したのじゃ」
そこまで話したところで王は目を細めた。
「…だが魔王は復活した。何者かによって封印が解かれたらしいのだ。これは深刻な問題じゃ。魔王は現在、長い封印により失われた力を回復させるために自らの城に身を潜めている…」
王は目を瞑り、ゆっくりと開けた。
「仕留めるなら今しかないのじゃ」
ゆっくりと、だが強く、ハッキリと言った。
「…」
「ちゃんと聞いとる?」
男は腕を組みながら斜めを向いていた。
「えぇ…聞いてますよ」
男はあからさまに不機嫌で、イラついている人間特有のトゲトゲしい態度で応えた。
「そうか…なら良いのじゃが」
ごほんっ、とまた一つ咳払い。
「うむ…かつての戦いでは戦士タンヤヌと魔王は凄まじい死闘を繰り広げた。だが、魔王はこの世界の法則すら捻じ曲げる程の力をもっておった。この世界の人間であれば、この世界の法則に囚われるのが道理…。それはタンヤヌとて同じ。魔王を完全に倒すことは出来なかった…。だがタンヤヌは秘術を使い、自らの命と引き換えに魔王を”封印”したのじゃ…」
「…」
「…そこで、タンヤヌの仲間の魔術師は魔王を完全に倒すべく、この世界とは異なる世界から勇者を召喚する秘術を編み出したのじゃ。この世界とは異なる世界の人間であれば、この世界の法則に囚われることなく魔王を倒せるかもしれんと考えての」
「…で、俺が呼ばれたと?」
「うむ。そういうことじゃ」
「…冗談でしょ?」
やつれた顔で男が問う。
「冗談などではない。お主は勇者として召喚されたのだ。この窮地を打開すべく、勇者として選ばれたのだ」
「じゃあ、人違いだ。俺はそんな魔王だとか言うのを倒すような、そんな大層な力は持っちゃいない。元の場所に戻してくれ」
「…それは出来ぬ」
「何故だ‼︎」
「お主には魔王を倒してもらわんと困るのじゃ」
「…こっちの都合はまるでお構いなしか」
「悪く思わんでくれ。これもこの世界のためじゃ」
「…もしこの話を断ったら?」
「うむ…再び召喚の儀を執り行ない、別の者を召喚する。お主には死んでもらうほか無くなるがな」
「…何故だ」
「この世界の許容量とでも言うべきかの…。異世界のからの人間が二人以上存在する場合、世界のバランスが崩れ、崩壊する怖れがあるのじゃ…」
「…」
「お主以外の勇者を召喚することになれば…悪いがお主には死んでもらう。だがワシはそんなことは望んどらん。魔王を倒してくれるのなら、全力をもって支援する」
王は厳格な声で告げた。
少しの沈黙。
「なんだってんだ…ちくしょう」
男はうなだれた。