悪夢
ピピピ…ピピピ…と目覚まし時計の音が部屋に響く。
「ん…」
格郎は寝た状態のまま目覚ましのある方向に手を伸ばした。目覚ましを止めてしばらくそのまま。少し唸って起き上がる。そのまま寝ぼけ眼で部屋を見回す。部屋は広くは無いが、物が少ない分広い印象を与えていた。格郎は時計を見ると、時刻は7時を少し過ぎた頃だった。格郎は立ち上がって背伸びをすると部屋のクローゼットを開け、制服を取り出した。いつも通りの朝。いつも通りの行動。何も変わったことは無い。格郎はいつも通りスウェットから制服に着替えて、洗顔をし、朝食を摂り、マンションを出た。
次の瞬間には格郎は森の中に居た。
「…なんだ…ここは…」
格郎が理解できないでいると、目の前に棍棒を構えた二匹の緑色の小人がいた。飛びかかってきた二匹に、格郎はそれぞれ拳を叩き込んだ。一匹は頭部がひしゃげて目玉を飛び出させながら吹き飛んだ。もう一匹は首を持っていかれた。更に奥から奇声を発しながら何かが近づいてきた。よく見ればそれは手斧を持った男だ。振り回しながら迫ってくる。格郎は男が左腕を振り下ろした瞬間に男の左腕に蹴りを叩き込んだ。金切り声で叫ぶ男。手斧を取り落とし、男は明後日の方向に曲がった左腕を抑える。格郎は構わず男の背後に回り込み、首を一息にへし折る。気付くと格郎は魔物の巣の中にいた。大量の魔物。屠り続ける。すると前方から鋭い貫手。格郎は咄嗟に避ける。
格郎の目の前には男が一人。
「私なんかはとるに足ら無いのさ」
男は自嘲的に笑うと、次々に体術を繰り出してくる。強い。凄まじい速度の突き合い。そして、格郎の拳は男を捉える軌道に入る。だが、男の拳も格郎を捉える軌道だった。時間の流れがゆるやかになる。互いの突きが入る瞬間。
「私程度に突かれるようでは、お前は魔王に勝てない。死が待ってるだけだ」
ハッキリとワインノードの声を聞いた。そして加速するワインノードの拳が胸に打ち込まれ、貫かれる。喪失感が体を駆け抜けると同時に、肋骨と肉、大量の血と潰れた心臓と肺をぶち撒けた。
格郎は目を覚ました時、自分が構えをとっていることに驚いた。次に自分が大量の汗をかいていることに驚いた。
「…なんてざまだ」
格郎は脱力して空を仰いだ。空には陽が昇り、青く澄んでいた。格郎しばらくそのまま空を眺め、目を瞑って大きく呼吸をした。そうして振り返ったときにようやく、ワインノードの遺体が無いことに気がついた。