焼いた餅は食べたら案外甘いもので
ヤキモチは、わがままだ。
人の行動に気に入らない面白くないと拗ねて、ほっぺたでも膨らませて。可愛く見せてるつもりですか? 伸ばし始めた顎髭は、男らしさと言うよりはただの剃り残しですよ?
……だいたい、この世はどうがんばっても男女に分かれるわけですよ。私は女、あなたは男。異性とお話ししちゃいけないなんて、もはや無理なんですよ。
「なんか、やだ」
なんかを説明出来ないのはなんででしょうか? 上手く言えないけど嫌ですなんて、私は理由も分からず男の人を避け続けろと? これまた無理難題です。
焼き餅は、大好きです。 ヤキモチは、嫌いだけど。
でもね。ヤキモチ焼きなあなたのことは。
「餅は気が早くないですか?」
「好きだから、良いんです」
焼いた餅に海苔を巻いて。お醤油つけて、いただきます。
「ほんと、好きですねぇ」
「ええ、大好きです」
「へぇへぇ、俺も言われたいものですねぇ」
そう言って、冷えた足がコタツの中に侵入してくる。
「…… 焼いた餅は、好きですよ」
「二回言います?」
「何度でも。好きですからね」
何度でも、言えますよ。好きなことに変わりはないから。あなたにも、きっと言えると思うんですけど…………
「プランナーさん、美人だったなぁ」
冷たい足が、私の温かい足にくっついた。びっくりしたから、それだけだ。蹴ったのは、それが理由だ。
「…… 痛いっす」
「冷たい足を付けないでください。熱が逃げてしまいます」
「…… ヤキモチっすか?」
ニヤニヤと。どの口がそれを言うんですか。私は、餅は焼いてもヤキモチは焼きません。
「…… 可愛いよ」
「どうもありがとうございます」
ご機嫌とりですか、安いですね。そんな言葉で…… あれ? 私は別に機嫌が悪いわけではないですけど。
「…… まぁ、あれだ。気づかないもんだって。自分のことは、意外とね」
「随分上から目線ですね」
「あのね、俺のほうが年上ですけど」
「そうでしたっけ? 一緒にいて、あまりにも子供っぽくて」
焼き餅は、食べるものです。抱くものじゃ、ありませんから。だから、あなたの行動にモヤモヤしたりするのは、違いますから。
これは、そうです。
そんなあなたでも。私は好きですよって、事なんです。口には、出しませんけど。
「ウエディングケーキ、餅にしてもらう?」
「そんなの出来るわけないです」
「え、出来るらしいよ」
「……本当に?」
「うん、マジです」
………… 考えておきます、真剣に。
終