・4章 お菓子
何やらBGMが聴こえる。のほほんとしつつも少し不気味さを醸し出した曲だ。
これは…PCなどで編曲したモノだろう。明らかに演奏とは違った音だ。
「…また、この空間か。何度幸福を与えれば気が済むんだ奴らは」
そう言って俺はただひたすらに白い空間を歩く。
視線の先にはクッキーを食べている悪魔―アニスと相変わらず此方に背を向けて猫のような生物を愛でているがモグモグと何かを頬張っている悪魔―シーナがいる。
「あ!こんにちはぁ。また来てくださったんですねぇ。」
俺に気付いた悪魔アニスが営業スマイルで挨拶する
「…どちらかと言えばこんばんわじゃないのか?」
俺が寝たのは夜だ。ならば、時間的には夜では無いのか?
「そんなことはどうだって良いんですよぉ。だって、貴方が寝たのは夜でもここは私たちの仕事場であり、貴方の夢の中。だったら夜や昼、朝と時間を確定させれないでしょう?」
確かにそうだ。朝方にこの…夢?を見てる可能性もある。
ところで。
「毎回アンタはクッキー食べてるよな。烏滸がましいとは思うが一つくれないか?」
美味しそうに食べてるところを見ていると何だか腹が減る。
毎回毎回食べてるから他にもあるだろうと踏んでそう質問する。が悪魔アニスは困った顔をしてから
「一つの仕事をし終えると一人につき一つしか貰えないので私もシーナももう持ってないですよ」
と言った。ならば仕方無いな。
貰おうとしていた立場で文句は言えないから割り切る。
悪魔でも数え方人なのか。まあ、こいつらは人っぽいし気にしないでおこう。
「ところで、どうでした?」
それは今朝の幸運の事だろう。答えは勿論
「良かったよ。大変遺憾ながら信じる他無いようだ」
「信じて貰えて光栄です」
悪魔アニスは喜んだように自分の顔の横で一度手を叩きジャンプする。
「ではまた幸福を得ますか?」
俺に視線を落とされ率直にそう言われる。俺は他に目的が見出せないから顔を縦に振る。そして
「…俺を可愛い女の子と会わせてくれないか?」
俺がそう言うと悪魔アニスはニタァと口角を上へ歪ませ「色付いちゃってまぁ。」と言う。
「にしても、可愛い子とは失礼ですねぇ。他人に評価を付けるなんて…友人にでも出し抜かれたんですかぁ?」
図星だ。目を瞑りヤレヤレと首を横に振りながら、それでも口をニヤつかせ悪魔アニスは続けて言った。
「私と主従の契約でも結びます?」
悪魔アニスは誘うように体勢を崩し甘い声で囁く。
だが断る。悪魔と契約とかマンガやアニメで言えば何か大きなモノ失うし、死んだら命喰われるだろうから。
「遠慮しておく」
悪魔アニスは、ちぇー。と呟き肘をつき唇を尖らせる。
やはり何かする気だったなこの女狐。いや、狐じゃく悪魔だけど。
「にしても解せませんねぇ?どーして率直に彼女を寄越せと言わないんですか?」
「それくらい自分でやってのけるさ。じゃないと怠けるだろ」
そう返すと悪魔アニスは喜びに満ちた顔、まるで成長した子どもを見て感動している親のような顔で俺を見つめる。
「じゃあ、それで良いですね?」
「うん。頼む」
俺が返事をするや否やパンッと合掌する音が鳴り響く。
同時に意識が薄れていき浮遊感を得る。この感覚にも慣れてきた。
「あ、毎度の如くお代はいりません♪」
毎度毎度言われるその台詞を最後に意識が完全に途切れる
* * *
「ふわぁ~…」
アラーム無しで目覚める。夢の中で俺が望んだ幸福は…
「可愛い子に会う」
だった筈。俺は時計の針を見る。時刻は8:35だ。
いつもなら既に遅刻確定だが、今日は土曜、つまり休日だ。
俺は階段を下りて洗面所へ行くと毎朝の日課を済ませ着替え、キッチンで朝ごはんを食べる。
今日はピザトーストだ。母さんが作ったそれはいい香りを漂わせ食欲をそそる。
だが、夢の中で願った幸福を叶えれるなら時間はたっぷりあった方が良い。ゆっくり味わいたいところだが…一秒でも早くあの悪魔たちが叶えてくれた願いに会いたい。
俺は急いで食べ終えると母さんに出掛けるとだけ言って家を出る。しっかりお洒落をして。
* * *
学校近くに出来たカフェに来てみた。
ここなら俺の思う可愛い子が居るだろう、お金なら前の15万があるし入店して注文しても大丈夫だろ。そう思い俺は入店する。
…予想通り可愛い子が多い。
ここに来るまでも可愛い子とすれ違うのが数回あったが、願いを叶えてくれたなら誰かに話しかけられる筈だよな?
そうやって邪な心を表情に出さないようにしつつ思考する。
「あの~。ご注文、お決まりでしょうか?」
ふと女声で声をかけられたので、声のした方向を見ると店員さんだった。
が、歳はそう離れていないととれる声と肌の若さ、何よりチャイムを鳴らしていないのに声をかけられた、つまり、これは…
「い、いえ。まだ…です」
「そうですか?かしこまりました。また後程お伺い致しますね」
そう笑顔で言い残しコツコツとヒールの音を響かせつつ俺の席から遠ざかる。
それより彼女は“また後程お伺い致しますね”と言った。つまり彼女はまた俺の席に来る。俺の事を気になってんじゃないか?
俺は少し気分が舞い上がったのか緊張してきたのか手がプルプルと震えだす。
大きく深呼吸をして震えを止めるとメニューを見て注文を考える。
暫く経ってから注文を決め終えメニューを置くと同時に話しかけられる。
「ご注文はお決まりですか?」
先程の店員に。タイミングがばっちりだ。見ていないとこうでもならないだろう。
「うん。カプチーノ一つ。」
「はい。以上で宜しかったでしょうか?」
俺は少し笑みを浮かべて頷き、
「そんなことより、俺と話さない?」
と言ってみた。すると店員さんは苦笑いをしながら「えっと…あの~。」と口ごもる。
可愛いなーと思っていると衝撃の言葉がぶつけられる
「私、彼氏いますので…」
「なっ!で、でも、俺がメニューを置いたら同タイミングで注文を聞きましたよね!?そんなのずっと見てないと解らなく無いですか!?」
そうやって抗議をしていると笑顔だけどどこか少し怒った顔で店員さんは俺に
「この店にはチャイムが置かれていないのでお客様を見ないといけないんです。一応言いますけど、私はあなた様に興味はありません」
とピシャリと言いそのまま席から離れて行った。
周りからクスクスと笑い声が聞こえて一気に恥ずかしくなる。周りから“勘違い野郎”と言うレッテルを貼られていても何らおかしくは無いだろう。
俺はその恥辱に耐えれず店から出て家まで走る。
家に帰ると真っ先に自室へかけ登り過去最高速の速さでベットへダイブし枕を涙で濡らした。
その日と日曜はあの夢を見ることが無かった。
* * *
月曜日
ピピピピッピピピピッ…
いつものアラームで目を覚ます。今日からまた学校だ。
俺は身支度を済ませ朝ごはんを食べて家を出る。時計の針は7:40。空は今にも泣き出しそうに白く濁っていた。
* * *
「よ!司!」
学校に着き、席に座るとすぐパンッと肩を叩かれ知らない声に名を呼ばれる。俺は思わず振り向いて
「…誰?」
そう答える
「おまっ!なんだよイタズラか?それより今日、16:30にカフェ集合なー」
見知らぬ男はそう言って俺の席から後ろ向きに手を降りながら離れる。
「何のことだよ。」
全くもって見に覚えがない。というか、誰だアイツ。初対面でやけに図々しい奴だな。
目を前に戻すと次はいかにも体育会系と思わしき男が涙目でいた。
「なぁー!司!どう思うよ。晃太の野郎抜け駆けして俺らより先に彼女作りやがったんだぜー?」
こいつも初対面でやけに図々しい。
誰だ、お前。晃太って誰のことだ?
「無視かよ!?おい!?前のことそんなに根にもってんのかよ!?」
「お前は誰だ。なぜ俺の名前を知ってるんだ」
男は何とも言えないバカ顔で俺を見る。
「お前、大丈夫かぁ?」
うるさい。そう思い俺は教室から出る。
暫く学校で過ごしていて、友人と名乗った奴らや周囲の反応を見て俺は思った。
俺は何か記憶を忘れている、いや、無くしているようだと言うことを。俺はその感覚も覚えも無いが、周りの反応がそれを示唆している。
晃太とやらにカフェに誘われたが見知らぬ人間にホイホイと着いてはいきたく無いので家に帰る
* * *
「ただいまー。」
「おかえりー。夕飯は今作ってるからね」
ほんのりと薫る香ばしい匂い。焼き肉か。
だが、俺は今日、知らない奴等に話しかけられたり絡まれたりして疲れている。なので食べる気が起こらない。
「もう寝るから俺の分は良いよ」
そう言って俺は自室へあがる。
スマホでLINEを開くと晃太という奴が怒った文面で『おい司!お前なんで来ないんだよ!宇都宮さんも京介も待ってるぞ!早く来い!』と書かれている。
うるさい。知らない人間にそこまでする義理は無い。そう結論つけて眠りにつく




