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第八話 木内尊と麹町時也 その1

 私と時也ときやの関係は変わった。宣言通り、時也は私を守ろうとしてくれる。

 どうして、と私は聞いた。わざわざ守ってもらうような立場ではないはずだったから気になったのだ。

 すると時也は昼食のお礼だと言っていた。


 なんだかもやもやする。

 ちょっとした食事のお礼にしてはありがたすぎることなのに、なんだか嬉しくない。


 どうして嬉しくないのか。

 それはやっぱり、あげはを避けてしまっている罪悪感だろうか?

 けどそれなら、どうして私は時也に守られることに甘んじて、あげはと直接会おうとしないのだろう。直接会って仲直りするのが、お互いにとって一番良いはずなのに。


 考えても答えが見つからない。


 現実から夢へと向かう、狭間の感覚。




 ――あぁ、今日もまた夢を見る。





 ガンッ、ガンッ、と画面が揺れた。その後に血痕が散る。


「怖いか? 俺のことが、怖いか?」


 ――怖くない、です。


「じゃあこっち見ろよ。オラッ!」


 また、画面が揺れ、打撃音が鳴った。

 繰り広げられる暴力に、怯み、目を逸らしたくて仕方がない。


 今回の相手は、直接的バイオレンスか。今までとは違う次元で怖いな。


 ――止めて、ください! いや!


「いや……?」


 トーンダウンした言葉がまた怖い。次に予想される激しい暴力に、私は身を縮めて見入っていた。


「いや、って嫌いってこと? 俺が嫌いってこと?」


 なんだなんだ、どうした。

 パワーアップしたバイオレンスが来るかと思っていたら、さらに弱気になったんだけど。


「お願い! 嫌わないで!」


 !?


 頭が、ついていかない。殴ったか蹴ったかは分からないけど、あれだけ暴力をふるっておいて、嫌わないでって、何言ってんのこの人。

 というか、この人誰だ?


 そういえば誰だか知らない、と気づいたところでタイミングよく、前世の私が声をあげた。


「やっはぁ、たける様ったら、きゃわうぃいんだからぁ」


 語尾にハートが付いてる。

 どうやらこの相手は尊というらしい。


 今まで『君はタカラモノ』の記憶を取り戻した時、相手キャラの名前と一致する人が身近にいたわけだけど、今回は違う。私の周囲に尊という名前の人はいない。

 ということは、この危険人物についてはそう警戒しなくてもいいのかな。

 すでに知り合っている人と距離を置くのは心苦しくて難しいことだけど、まだ見ぬ人なら仮に出会ってしまったとしても近づかなければいいだけの話だ。


「ごめん、おまえの泣き顔と鳴き声が可愛くて、つい調子に乗っちまった。好きなんだ、お前のこと。お前がいなけりゃオレも死ぬ。だから……嫌いになんてならないでくれ!」


「はっ! 熱・烈!」


 典型的なDV男なんですけど。なんでそれに萌えてるの、前世の私!

 いや確かに、私がいないとダメな人って可愛いけど……はっ、なんで私まで絆されてるの!?


 ――私も尊くんのこと好きだよ。嫌いになんてなりたくない。だから、あんまり痛くしないでね。


 そういう台詞はもっとハッピーな場面で聞きたかった。



 その後もヒロインは健気に尊をしたい続け、最後には殴られた弾みで床に頭を強くぶつけ、そのまま死亡した。

 それを見た時、初めて泣いた。まさか前世でやっていたゲームを思い出して泣く日が来るとは誰が想像できただろう。

 すさまじく尊が可哀想だった。自業自得だし、加害者だし、というツッコミを忘れるほど彼の発狂っぷりがすごかった。

 動かなくなったヒロインを泣きながら抱きしめ、そして反応のない身体に再び暴力を浴びせた。もちろんヒロインは亡くなっているので動くことはないのだが、尊自身が加えた力で動く身体を見ては、ヒロインが生きているのではないかと期待する。それを何度も繰り返す。

 最後は、尊も後を追って自殺する。というのがこの<木内尊の殺人ルート>の結末。



 今までは自分が生きることに精一杯で、相手キャラのことまで考えることはなかったけど、今回のこれは考えを改めさせられる。

 もし現実で尊と出会ったら、何としても暴力による愛情表現を止めさせたい。

 そう思ってしまうくらい、彼は可哀想な人だった。

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