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第五話 源あげはと麹町時也 その4


 時也ときやにお昼を作ってあげることが日常となったある日の夜。私はまた前世の夢を見た。


 ――助けて。


「僕はね、君ことが好きなんだ。とってもとっても好きで……一つになりたい」


 この言葉単体で聞いたのなら、ただの甘い言葉になるのに。直前の「助けて」がそれを許さない。

 顔が映らなくて誰かは分からないけど、一人称的にのぞむでも時也でもないことだけは分かっている。


『君はタカラモノ』の画面に映る背景は暗い。ヒロインは監禁されていた。望ルート以外でも監禁行為は出てくるらしい。


 ――来ないで!


「あぁ、そんな言葉聞きたくなかった。でも大丈夫。もうずっと一緒だから」


 キラリと画面が光り、うっすらとその姿を浮かび上がらせる包丁。


「バッチリ下ごしらえをして、調味料も厳選したものを使用してあげよ。……美味しい料理にしてあげるから、ね」


 悲鳴と共に、うす暗かった画面が暗転する。


 カニバリズムエンド。


 この前言っていたのはこれか。断片的な記憶なので、時系列としてはこの前の方が後になるみたいだ。


「うはぁ……、さすがあげは先輩ルート。料理されちゃうとはねー」


 はい? ちょっと前世の私、今なんて言った?

 あげは……先輩、って言わなかった?


 嫌な予感がする。

 私の知ってる『あげは』は年下の男の子で、先輩と呼ぶことはない。けど、ゲームの中の『あげは先輩』と一緒で『あげは』もまた料理の才能を有している。


「あ、スチル出た」


 前世の私は平然としているけれど、私は絶句だ。

 フォークとナイフを手に、幸せそうに肉を頬張る金髪の男性――あげはのすがた。

 うわあああああぁぁぁぁぁ。

 あの展開からのこのスチル怖いよ。その肉って……ヒ、ヒロインだよね。


「美味しい、美味しいよ。……これで永遠に一緒だね」


 背筋が寒い。あげはと一緒にいた場合の私の末路は食材か。


 カニバリズムの衝撃でかき消されてしまったけど、気になることがある。

 キャラクターの『あげは先輩』が私の知るあげはなら、どうして年齢がずれているんだろう?

 顔はそっくりだから別人ってことはないと思うんだけど。


 前世に関しての手がかりはこの夢でしか得られない。それも私が選んで見ることができるわけじゃなく、きまぐれに夢に出てくるだけ。


 よし、<源あげはのカニバリズムルート>に入らないようにしつつ、あげはのことを観察することにしよう。



 ちょうど良く、明日はあげはと昼食の約束をしていた。






 穏やかに時間は流れ、私もあげはも食事と片づけを終えた。


 あげはに変わった様子はなく、相変わらず可愛い笑顔を見せてくれる。私は必要以上に警戒しすぎていたのかもしれない。


「こうして一緒にいるのもなんだか久しぶりですね」


 お茶を飲みながら、ほのぼのとした雰囲気であげはは言った。


「そう? 一週間ぶりくらいな気がするんだけど」

「一週間ですよ! 真里菜まりな先輩とは毎日だって会いたいのに、それが一週間も会ってなかったんですから、やっぱり久しぶりです!」

「大げさだよ」


 高等部と中等部に分かれている先輩と後輩が、こうして会うなんてあんまりないことだ。週一で会っていたら、比較的頻繁に会っている部類になる。


 寂しがりやの後輩が可愛すぎて、思わず笑いそうになったのを、お茶を飲むことで巧妙に隠しておく。


「大げさじゃないです。先輩、考えてもみてください。真里菜先輩がもし麹町こうじまち先輩と一週間会えなかったら……寂しいと思うでしょう?」

「ぶっふっ!」

「あぁ、先輩。大丈夫ですか?」


 不意打ちできた時也の話題に、飲んでいたお茶を噴いた。


「あー、ごめん」


 布巾でテーブルを拭きながら、謝罪しておく。


「話を戻しますが、麹町先輩に会えなかったら、寂しいですよね?」


 別に、とか答えたかったけれど、お茶を噴いた手前、そんなごまかしはもう通らない。ごまかそうとしようものなら、呆れられると思う。

 何と言おうかと迷っていると、あげはが先に言葉を続けた。


「隠さないでください。僕、知ってるんです。真里菜先輩が、麹町先輩と付き合ってるって」

「は……」


 衝撃的な勘違いに、思わず間抜けな声が出た。

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