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第二十一話 心の亀裂

 なんで、どうして。そんな気持ちになりながらも、私は出ていくことなくこの状況に見入る。


時也ときやくん、ありがとう」


 彼女が髪かき上げると同時に、シャラと音を立てて彼女の手首でブレスレットが揺れる。

 ブレスレット?

 そのブレスレットを見て、私の中でパリンと音がした気がした。

 彼女の手首にハマっているブレスレットは、まぎれもなく私が時也からもらったものと同じもの。

 どういうこと?

 時也はあの子にもプレゼントしてた? そんなわけないと思いたいけど、彼女がお礼を言ったのが証拠だ。

 なんで、どういう関係なの? 私だけにくれたんじゃなかったの?


「……っ」


 どうしようもない気持ちに駆り立てられて、私はその場をあとにした。





 音を立てないようにして走る。

 どうして私が逃げないといけなかったんだろう。けど逃げたかった。あの現場にあれ以上いるのは本能が拒んでしまった。


 気落ちしたまま教室に戻ると、隣のクラスの友達が私の席に座っていた。


「あ、真里菜まりな待ってた……ってどうしたの、そんな顔して!」

「湊……」


 倉敷くらしきみなと――私の幼馴染だ。

 彼女は私の顔を見るなり椅子から立ち上がって手を引いた。


「なんか訳ありみたいだね。話聞いてあげるから、おいで」


 抵抗する気なんてない。むしろ私の気持ちを察して、このドロドロとした感情を吐き出す場を提供しようとしてくれているのが嬉しい。


「……ここなら人も少ないし、話しても大丈夫でしょ」

「ん……」


 特別教室が並ぶ一角は昼休みには生徒の姿が消える。それを見越してここを選んだのだろう。


「……一体何があったわけ……?」

「うぅ……湊……!」


 私は我を忘れて友人に抱き着いた。


「……と、時也が……時也が……浮気、っぽいのしてた……」

「はぁ!? あんたナニ見たの!?」

「なんかブレスレットプレゼントしてた」

「…………ブレスレット?」

「そう」

「なーんだ、てっきり……」

「湊?」


 いつもははっきりきっぱり物を言う湊が、なんだか歯切れ悪くて珍しい。


「なんでもない。ブレスレットだったね……それってもしかして、こういうやつ?」


 湊が手首を上げると、そこにはさっき見たばかりのと同じデザインのブレスレットが着けられていた。


「あぁ! ソレ!」

「やっぱりそうか」

「なんで、なんで湊までしてるの? まさか湊も時也に……」

「そんなわけないでしょ」

「いたっ」


 テシッと手刀をくらわされてしまった。


「これは私の彼氏に貰ったやつ。今流行(はや)ってんの、このブレスレット。恋人にプレゼントするとずーっとラブラブでいられるってね」

「そ、そうなんんだ!」

「知らなかったの?」


 知らなかった。というか、知ってしまったせいでブレスレット壊した罪悪感が倍増した。

 いいや、壊してしまった話は置いておいて。問題はそんなカップル向けのプレゼントを時也が別の人にあげてたことだ。


「まぁただの売り上げアップのための宣伝だから、ご利益があるかは分からないけど。だって、恋人同士のプレゼントじゃなくても、自分で買って着けたら夢がかなうなんて文句も一緒に出てるくらいだし。そういえばこの前あんたの後輩がお店で買ってるの見かけた――って、ちょっと聞いてるの?」

「ラブラブになるブレスレットを時也が別の子に……」

「聞いてないし」

「ううん、ちょっと待って。これって何人もの相手にあげた場合のご利益って……」

「さすがにそれはなかった。メインターゲットがカップルなのに、複数にプレゼントした場合を想定するのはさすがにしないでしょ」

「だーよーねー」


 分からない。……時也がなにを考えてるのか、全然分からないよ……!

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