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第二十話 私の立つ場所

 その夜。私はまた夢の中にいた。

 ――夢。

 今は夢。けど、かつての現実。


 私が見る夢は、時系列に沿ってない。今日の夢はたけるのルート。殺人エンドにたどり着く前の話らしい。

 ゲームのモニターの中で、尊が笑う。

 それを見て、私の知る本物の尊の笑顔を思い出した。


 ――木内きうちじゃーん!


 二人の背後から声が掛かった。二人して振り向く。そこにいたのは――。

 ……西田にしだ


 私たちが昼間会った西田という男子が、モニターに映っていた。

 彼は『君はタカラモノ』の登場人物だったらしい。

 先ほど私たちに掛けたのと同じような嘲笑を彼は浴びせてくる。

 これはゲームだけど、実際に起こったことでもあるし、ムカつく。


 ――木内先輩は優しい人です!


 ヒロインが言い返す。私はドキリとした。

 今のセリフ、私が言ったのと同じだ。

 西田に尊の美点を述べた後、ヒロインは尊の手を引いて去って行った。


「そうだよね、そうだよね! 尊様は実は優しいんだよ! 面倒見も良いし~」


 前世の私は足をパタパタさせて身悶えている。尊ルートだし、尊に萌えるのも分かるんだけど。

 どうして、尊ルートのエピソードを私は現実に体験したの?

 ……そんなの、決まってる。

 私……尊ルートに入っちゃったんだ!





 朝になって、私は学校に向かった。心の中には、尊ルートに入ってしまったことへの懸念が渦巻いている。

 尊ルート……つまり殺人エンドへと続く危険なルートだ。

 不幸中の幸いなのは、明日が終業式ということ。

 夏休みに入ってしまえば、その間会うことはない。夏休み中に時也ときやとの仲を深めれば、尊ルートから抜け出せるのではないだろうか。


「……。……!」


 淡い期待を抱いた計画を頭に浮かべ、私は自己嫌悪に陥った。

 自分の幸せのために時也を利用したくないなんて言っておきながら、実際に危機に直面した瞬間、打算的に時也を利用することを考えてしまった。

 まだブレスレットの件も伝えられないでいるのに。

 どうしてそう自分のことばかり考えてしまうんだろう。





 重い気持ちを抱えながらも、時間は過ぎていく。

 生徒たちが授業から解放されておしゃべりを始めた昼休み。私は時也を探した。

 この昼休みに、ブレスレットの件に決着を付けたかった。時也に正直に話して謝る予定だ。

 教室に姿は見えない。どこに行ったんだろう。


<今、どこにいるの?>


 時也にメッセージを送り、私は教室を出た。

 校舎内を回るが、時也の姿はない。メッセージの返信もない。

 校舎裏や校舎裏に面した廊下――以前時也がいた場所を探してみたけど、いなかった。

 連絡はないか、とスマホに目を落とすと、既読がついていた。

 ……どうして返信をくれないんだろう?今見たばっかなのかな?

 返信はないけど諦めきれなくて、教室に戻る途中で、あまり利用しない廊下の方へと足をのばしてみる。

 空き教室が並ぶ廊下だ。用事のある人なんかいるはずない。


「……?」


 私は首を傾げる。声が聞こえた気がした。

 そのまま先に進む。やっぱり人の声がする。

 角を曲がると姿が見えた。


「ありがとう」

「いえいえ、どういたしまして」


 女子生徒と男子生徒が向かい合い笑っている。

 女子生徒の方は、私のブレスレットを踏み壊した子。そして男子生徒の方は――時也だった。

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