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第十八話 湧き立つ勇気

「ねぇ、オレなんか悪いことしたかな?」

「え?」


 二日後。

 分かれ道まで来たところで、時也ときやはそう言った。


「だってやっぱり真里菜まりなちゃんの様子変だしさ。オレの目ぇ見て話してくれないし、なんだかそわそわしてるし……気になるよ」

「……」


 いたたまれなくなって、私はうつむいた。

 私はまだブレスレットのことを言えないでいた。罪悪感が邪魔してる。

 だって初めてのプレゼント。それをすぐに壊してしまったなんて申し訳なさすぎる。……早く謝った方が良いのは分かってるんだけど……。


「話してくれないの?」

「……ごめん。ごめんね」


 もう時也を見てられなくて、背を向けて走り出す。


「待って!」


 すぐに追いつかれ、腕を掴まれた。


「逃げないで。話をしようよ」

「……ごめん」

「おいおい、何やってんだそこ」


 現れたのはたけるだった。


「どうしたんだ……ケンカか?」

「木内先輩」


 尊が来たことで、時也は私の腕を離した。

 その隙に、私は逃げた。尊の後ろに隠れる。


「真里菜ちゃん……」


 尊越しに時也の顔を見た。彼は傷ついたような顔をしていた。

 それを見て、泣きそうになった。泣く資格なんてないのに。


「青木」


 尊が心配そうに私を見下ろしていた。


「な、なんでもないんです」

「んなわけねーだろ。泣きそうじゃねーか」


 誤魔化しなんて効くわけない……か。

 私は何も言えず、黙り込む。


「はぁ……分かった。今回は麹町が悪いわけじゃなさそうだな。来い、青木」


 そう言うと、尊は私の手を取った。有無を言わせない強引さがある。


「ちょっと木内先輩!」

「ちょっと木内先輩!」


 私と時也の声が同時にあがる。


「真里菜ちゃんはオレのカノジョだから!」

「知ってるつーの。別に手を出したりはしねーよ」

「…………」

「そう不満そうな顔すんな。ただ話聞くだけだ。麹町だってこのままじゃ良くねぇって思ってんだろ。……俺に任せてみろよ」


 尊の押しに負けて、時也は黙り込む。この沈黙は肯定を意味した。





 私と尊は家の方向が同じ。

 帰りながら、尊は私に質問する。


「その様子だと、あいつのことを嫌いになったってわけじゃなさそうだな」

「……」


 私は無言で頷いた。

 嫌いになんてなるわけない。むしろ、嫌いだったらここまで悩まなかった。嫌いだったら、プレゼントを壊してしまっても平気だったはずだ。好きだから、どうしようもない。


「嫌いになったわけじゃないのに、どうして麹町を避けるような態度取ったんだ? さっき、俺の後ろに隠れてたけどな……そういうの、男は気にするもんだぞ。自分から逃げて、別の男に助けを求めたなんて」

「そ、そんなつもりじゃないんです!」

「どういう気持ちだったかなんて、傍には分かりゃしない。確かなのは青木の行動が、麹町を傷つけてるってことだ」


 ――そうだ。

 尊の言葉を聞いて、時也の傷ついた顔が蘇る。

 申し訳ないと思ってプレゼントを壊してしまったことを告げられずにいた。けど、それよりももっと、今の私の態度の方が時也を傷つけている。


「私……時也に話してみます」

「そうか。……ま、なんだか知らねーけど、どんなことでも素直に話してくれた方が、向こうも対応のしようがあるだろうし……良い方に転ぶだろ」


 尊にもそう言われ、ようやく私は話す決心をした。

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