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椿のとげ  作者: 谷口咲来
2/2

《 encounter 》




「うわぁ‥‥」


満開の桜並木。

ピンクの花びらが舞う。


「キレイ…」


「姫?」


「先にパパの所に行ってて、紀志(キシ)


「・・・何言ってんの?」


「ちょっとだけだから」


大きな碧い目で見つめる。



そんな目で言われたら無理だって。



ハァ…‥


諦めて、大きくため息をつく。


すぐに理解したらしく


「ありがとう」


と、彼女は頬に口づけして駆け出した。


長い黒髪が風になびいて手が届きそうになった。



ハァ…‥


また、大きくため息をつく。



「俺やっぱ、向いてねぇよ。これ‥‥」




彼女が駆け出した方に目を向けるが、もう姿は見えなかった。













――カラァン…カラァン…


ベルが鳴る音がする。

授業の終了が意味だ。



「限界」



立ち上がるとヨロっとふらつく。



「東条君、大丈夫ですか?」



心配げに話しかけたのは、同じクラスの戸田奈々子だ。


哉斗は漠然と級長は大変だな、と思った。



「奈々子♪哉斗君は眠いだけ。でしょ?」 


「け、慶妬!」



彼女と慶妬は古くからの幼なじみだそうだ。



それにしても、話に割って入るのが好きな奴だ。



「あぁ、戸田さん、俺は大丈夫だから」



そう言うと、カァと顔を赤くしてハハっと笑った。



「そっか…良かったです」



何故か照れくさそうに言って、自席に戻っていった。



「哉斗ってさぁ、全く女の子理解してないね」



しみじみ言うこいつにイラっとした。


理解してないことには反論するつもりはない。



「でも、今のとそれと何が関係あんだよ。」



「ああいうときは『ありがとう』ってイ……」



途中から声が遠くなる。



あ―ヤバ……眠いや。



「ん……あぁ、そうだな」


「エ゛ッ!!!!…め、珍しいな、哉斗」


「そうかな‥‥ごめん。」


「エ゛ェッ!!!!!!!!」



驚きを隠せないと、言う顔でまじまじと哉斗の顔を見る。



「わかった。もういいから行ってこい」


「あぁ‥‥じゃあ、サボるけど、ノート頼むな。」



そして、哉斗はふらつく足取りで教室を出て行った。






あんな哉斗初めて見た。素直過ぎて逆に気持ち悪い。



ブルッ…と、体を震わせると慶妬の視線が彼女を捕らえる。



奈々子……



彼女は哉斗が出て行ったドアを見つめていた。


頬はピンクに染まっていて、すごく愛らしかった。



ずっと一緒だったのに、何で俺だけこんな…‥‥
















眠い…


とにかく寝れる場所…


あの桜の木まで…



昨日の長い夢のせいで、何度も起きたりと寝付けずにいたからだ。


また、哉斗はいつも早寝早起きである。(オィ!言わなくていいだろ、それ!!!)





「……やっと寝れる。」



目の前には大きな桜の木があった。















「こんな道歩いたの初めて♪」



どこまでも続く桃色の道。

ピンクの花びらは雨のように降り続けているのにどの木も満開だ。


「あれ?」



道の脇に、小さな抜け道があった。



行ってみちゃう?‥‥‥行く!



こういうのは、どうしても興味がそそられるのだ。



舗装されてない道なので、雑草や木が無造作に生えていて迷ってしまいそうだった。


底の高いブーツで草に引っ掛って何度か足がもつれそうになる。



帰ろうかな……そう思い始めていたときに、



「わぁ‥‥‥すっごいきれえ」



道の先には、小さな広場にそれはそれは大きな桜の木が1本立っていた。


桜並木とは比べ物にならない大きな樹だ。


草木は近寄れないかのように、小さな円を作って取り囲んでいる。


何故か魔法がかかったかのように風が吹いても花びらは散らず、まるで別世界。



彼女は近くに歩み寄ると太い幹に触れた。


大人5人が手を伸ばしても足りなそうだ。



「私は、あなたに会えたことに感謝するわ」



そう言って、幹に口付けをした。


彼女の敬愛の意味だ。


そして、その木の周りを回っていると、



「きゃっ!」



何かに足が引っ掛って倒れこむと、下には人がいた。



「す、すみません!」



すぐに身体を起こして、ちゃんと見ると、それは……



『お、おぉ、お、男!?』



やばいわ。私。逃げなきゃ!!!!!



彼女は男性恐怖症だった。


しかし、そのせいか身体が硬直して動けない。

でも、まだ起き上がっただけで、彼にもたれかかっている状態のままなのだ。



「う゛ぅ‥ん……‥ン」



顔は手で覆っていて見えないが苦しげに聞こえる。夢に魘されているようだ。


彼女は彼の様子を見て少し考え込む。



「よし」



思い立って、立ち上がると彼の横に座る。

恐る恐る胸の上にある手を取って、自分の両手で包み込んだ。


いつも自分がしてもらったように‥‥



「大丈夫です‥‥そばにいますよ」



手を自分の元に寄せて祈るように目を閉じて強く握った。



「・・・・・・キ」


「え…?」


「ツバ、キ???」


「わ、私の名前…?」



理解不可能。摩訶不思議。意味不明。


彼の夢の中に自分がいるなんてありえないよね。

もしかしたら、同じ名前の知り合いがいたりするのかも……



でも、最後に行き着くのは‥…――


顔が紅くなってるのを感じた。



――ねぇ‥‥ママ?

これがママの言ってた

“運命を感じる”

ってことなのかな?






――手が暖かい。握られ……



目を薄っすらと開くと桜が見えた。


まだ、ぼーっとする頭で右手が握られてるのがわかった。


顔を覆っている左手を退かすと、哉斗は眼を見開いた。



「誰……?」



そこには、女が自分の手を握っていた。


一瞬で今まで会った女の中で一番綺麗だと思った。


長い黒髪で真っ白の肌、顔の整った碧眼。


哉斗は驚きを隠せないでいた。



「ぇ……と」



また、女も驚きを隠せないでいるようで、瞳を大きくして顔がほんのり紅くなっていた。



「あの…手、放して?」



自分より年下であろう女に気を使っている自分が可笑しく思う。



「あ、ごめんなさい!」



慌てて放された手がなんだか名残惜しく感じられるのはなぜだろう。



「いや…別に。とこ…「ぁ!あ、の‥‥」


「…何?」



言葉を搾り出すかのように口をパクパクして、やっと出てきた言葉は、



「私の、王子様になってください!」


「はっ……?」


予想外とするものだった。

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