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側妃さまは見た! 前編

よろしくお願いいたしたします。


「側妃さまの目論み」の「側妃さまは王子さまになりました?!」のしばらく後、という設定です。

私、見てしまいました。




この目でバッチリと。



ここは王宮内の後宮と隣接する庭園。

王国お抱えの庭師たちが腕によりをかけて作り上げた、国内屈指の庭園なのです。

今が春と咲き誇る花々に負けないくらいのオーラを出す美麗な二人の姿に私の目は釘付けです。

オーラだけではありませんね。ビジュアルも花よりも華やかで、もはや一幅の絵画です。



二人はこちらには気づいていない様子。

どうせですので、事の成り行きをしかと確かめようと思うのです。


私は観察のためのベストポジションを確保すべく、移動を開始しました。






あ、申し遅れました。

私はデルフィティア・シュトラーセといいます。十六歳になりました。

何の因果か「ある一定以上の身分をもつ令嬢の中から側妃を決めよう」という訳のわからない趣旨のもと執り行われたくじ引きにより、第五側妃の地位を頂いたのが三年ほど前のことでした。


正直な話、自分の運の悪さにびっくりです。

幸運体質な方だと自負していたのですが。今までラッキーだった分、たまっていた不運のツケを一気に払わされた気分です。



側妃なんて、その方面に上昇志向の強い方がなればいいんですよ。ほら例えば「国王陛下の寵愛は私のものよ!」ですとか「この国での女性の地位の頂点に立ってやる!」ですとか。やる気満々の方がいらっしゃると思うんですけどねぇ。そんな方にお願いしたらもろ手を挙げて引き受けてくれるはずです。


後宮のドロドロした話は他人事として聞いたり小説の題材としては面白いのですが、自分の身に降りかかるとすれば冗談じゃありません。やられっぱなしにならない自信はありますが、かかわり合いになりたくないのです。



だいたい第五側妃ですよ?正妃さまが不在とはいえ、私の上に四人才色兼備のお姫さま方が並んでいらっしゃるんですよ?

ぶっちゃけ、私、いなくてもいいんじゃね???



………失礼しました。



ところが先般、陛下が他の側妃さま方にお暇を出されてしまいまして、今後宮に残っているのは私だけなのです。


姫様方、プリーズ カムバック!



しかも一人残った私が正妃候補とか、冗談キッツイです。

侍女の一人が「ドッキリ成功!」と書かれたプラカードを掲げたりしないかと待っていたのですが、時間の無駄だったようです。



だいたい私を正妃にしたところで何のメリットもないのですよ。

それなのに私を正妃に据えてどうするのでしょう。

私の知らないところで何かの陰謀が働いているとしか思えません。




だって、陛下は私のことがお嫌いなのです。


いえ、面と向かって嫌いだと言われたことはありません。


ありませんが。


目は口ほどにものを言う、という諺がありますでしょう?

正に諺通りです。



陛下は私を監視していらっしゃるのですが(そうとしか思えません。お忙しい職務の合間をぬって、しょっちゅう私の様子を確認しに来られるのです。私のスケジュールはもちろん、誰とどんな会話をしたのかまでご存知のようです。…怖っ)ほとんどの場合において無言。私とまともに会話をする気はないようですね。

それでいて私の一挙手一投足も逃すまいとするかのごとく私を凝視されています。最近気づきましたが、どうやら陛下、私を見ている間のまばたきの回数がとっても少ないみたいです。目が血走って鬼気迫る勢いです。



目が血走っていようが、硬直していようが、陛下が男前なことに変わりはありません。


釈然としないものを感じます。


意思の強さを感じさせる眉、すっと通った鼻筋。やや薄めの唇、全てが絶妙のバランスで配置されている精悍に整ったお顔は美術品さながら。襟足が長めのアッシュブロンドがその美貌を縁取っています。一際目を惹くのは夜空を映し込んだかのような紺青の瞳。文句のつけようのない美形様はただ立っているだけでサマになるようです。程よく鍛えられたすらりとした長身も目を引きます。

例え目が血走っていてもね!





おっと、そうこうしているうちになかなかの場所に着きました。覗き見に最適ですよ!


木立の陰に身を潜めます。

ああ、もう!

こんな時は無駄に高い自分の身長が恨めしいです。横幅はそんなにない………ですよね、多分……。

しかも周りの色彩から浮くこの金茶の髪。

別の場所を探しても良いのですが、二人の表情が見えるここが第一希望です。うーん、どうしたものでしょう。


ふと気配を感じて横を見ると、侍女のマチルダさんが控えていました。

彼女はなかなか優秀なのですよ。今も私の隣で監視対象の二人に気づかれないよう、完全に木立に隠れてくれています。

空気が読める侍女さん、最高です。


「デルフィさま、こちらをお使い下さい」

「あら、どうもありがとう」


小声で囁きながら彼女がそっと差し出したものはモスグリーンのスカーフでした。受け取ったスカーフをさっと被って顎の下で結びます。

木立の緑と同系色のスカーフのおかげで目立つ髪は隠れました。

空気が読める上に気が利くなんて、マチルダさんは侍女の鑑ですよ。


ちょうど目の前の木立の根本に咲いている花が目につきました。小ぶりながら花弁が八重になっていてとてもかわいらしいです。白いその花を一輪手折って、マチルダさんの髪にさしてあげました。


「ほら、やっぱり。貴女のような可憐な女性には清楚な白がよく似合う。お互いを引き立たせあって、ますます愛らしいからいつまででも愛でたくなるね」

「まあデルフィさま、そんな………」


うつむいてもじもじとするマチルダさん。なんて可愛らしいのでしょう!

やはり女性はこうでなくては。

………私が頬被りしているため、絵面的には今一つ締まらないのが残念なところです。

女の子は可愛らしい生き物なのです。特に恥じらっている様を目の当たりにすると、守って差し上げなければいけないという気持ちに駆られます。

いいですよね、私が逆立ちしてもなれそうもない可憐な女の子!




おっと、こんなことをしている場合ではないのでした。

木立の陰から標的の二人を凝視します。





お読みいただきまして、ありがとうございました。


「不憫陛下と~」にしたタイトルですが、書きはじめた時は「一途な陛下と~」でした。さらに「残念陛下と~」「ヘタレ陛下と~」にするか大変迷いました。


拙い作品ではありますが、お付きあいいただけましたら幸いです。

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