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山内くんの呪禁の夏。  作者: 二宮酒匂
第弐章 呪禁の町
8/32

こっくりさん

呪禁は「じゅごん」と読みます。

 ふにゃぁあと猫鳴きめいたあくび声が間近で響く。

 障子戸を透かす朝の光を浴びて、山内くんは目を覚ました。

 紺がふとんのうえにぺたんとお尻をついて起き上がっていた。女の子座りで、眠たげにまぶたをこすっている。彼女の寝巻の右肩はしどけなくずり落ちかけていた。

(そういや泊まったんだっけ……)

 彼女の表情とおなじくらい山内くんのおつむも茫洋(ぼうよう)としている。

(これから夜だけこの部屋にいることになるのかな。夏休みのあいだにもとの生活に戻れないと困るな……)

 かれはしばらくぼんやり考えていたが、「……おい。ラジオ体操行くぞ」紺がぴょんと立ち上がったのでつきあって身を起こした。とりあえず、あとで考えようと思いながら。



 地蔵堂がある竹林内の空き地だった。

 曲に合わせ十人前後の子供たちが体を屈伸させる。

 着替えて顔を洗うや当然のように紺についてこさせられ、よその土地のラジオ体操になんとなく混ざってしまった山内くんであるが、あまり面倒には思っていない。早起きして運動するのは好きである。

「おはよう、山内邪鬼丸だったな」

 体操が終わるやいなや山内くんは、二人組の少年から挨拶の声をかけられた。相手のひとりはスポーツ刈りで均整のとれた体つきの、ほがらかな笑みを浮かべた男の子である。

「おはよう……あ、もしかしておとといの」

 声音で山内くんは思い当たった。おとといの祭りの夜、紺の使いとしてかれを墓場へ連れて行った少年であった。紺に命じられてかれの肩をおさえてきたため、投げそうになってしまった相手でもある。

「おう、こないだは悪かったな。怖がらせたあげく途中でおかしなことになっちゃって」

「いや、こっちこそ君を投げようとしちゃって……」

「あれは俺らが強引なことしようとしたからだしさ」苦笑し、その少年は自分の胸を親指で指した。「俺、宗田直文(そうだなおふみ)っていうんだ。よろしくな邪鬼丸。こっちはマイタケ」

 横にいた少年が直文に紹介されておずおずほほえんだ。太めの体型で眼鏡をかけている。

「ぼくは舞田武志(まいだたけし)……マイタケなんて呼ばれてます。山内邪鬼丸くん、ぼくもよろしくね」

 陽の光の下で見ると、好感の持てる普通の子たちだった。山内くんもはにかみ気味の笑みを返す。「よろしく。でも、僕を下の名前で呼ばないでくれるとうれしいな」

 直文とマイタケが顔を見合わせ、やや気まずげに言ってきた。

「あー……ごめんね?」

「ついノリで名前のこと笑っちまったけど、悪かったなって思ってたんだよ」

 かれらの謝罪は山内くんの心から最後のしこりを消し去った。名前のことは最大のコンプレックスだが、自発的に謝ってもらえたことでじゅうぶん満足である。おうように手をふる。

「いいって、変な名前なのはほんとのことだし」

 それを聞いて安堵の表情になったマイタケが、おっとりした口ぶりでしゃべりだす。

「君があらためて仲間に入ったこと、さっき紺に聞いたんだ。あのさ、方位の吉凶を占った結果、お昼からはぼくの家で遊ぶらしいよ。もう紺に聞いたっけ?」

 聞いていなかった。かれはややたじろいだ。

「方位の? キッキョウ?」

「吉凶。この時期の紺はいつも、どこで遊ぶのが無難か前々日に決めてるんだ。日柄(ひがら)方角の占い」

 山内くんは昨日の紺の力説、『警告しても信じないやつが多いんだ』という憤りの声を思い出す。なるほどこれはたしかに、実際に不思議な体験をしていない人に話しても迷信あつかいされるだろう。

 それにしてもちょっと急な話だった。山内くんは極端な人見知りというわけではないが、ほぼ初対面の子たちのグループに入っていきなり馴染めるほど外向的な性格でもない。マイタケの家へ行くと聞いてかれはもじもじした。

「おじゃましてもいいのかな……」

「もちろんさ。ろくなおもてなしできないけど。お昼からゲームして魚釣って、夕方になったらナマズでも突いて遊ぼうよ」

「……ナマズ?」

「暗くなったら田のあぜや、コンクリで固められてない小川に出てくるでしょ? とくにうちの近くには多いから、懐中電灯で照らしながらヤスで突くんだ。大きなのは七十センチ超えるよ。(かば)焼きにすると美味しいよ!」

「マイタケは水のなかのもの食うのが趣味なんだぜ。カニからカエルまでなんでも捕って料理しやがる」

 直文がにやりとして言った。マイタケが慌てたように手をふる。

「直文、誤解されるからよしてよ! その言い方じゃぼくがそこらの小さなサワガニやアマガエル食べてるみたいじゃないか。そういうのもたくさん集められたら味噌汁や炒めものみたいにして食べるけど、普通は藻屑(モクズ)ガニや食用(ウシ)ガエルみたいな大きなやつだからね。安心してね山内くん」

「う……うん……?」

 緑と清水豊かな播州の山中では、いまでも変わった食文化が残っているようだった。あるいはマイタケひとりの文化かもしれないが。

「まあ午前中は、大人の監視のもとみんなで夏休みの宿題やらなきゃならないんだけどさ……」

 マイタケが力なくつぶやく。山内くんはナマズとカニとカエルが鍋でごった煮になっているイメージから急速にわれに返った。

「大人の監視?」

「去年の夏休みのとき、みんなで宿題写しっこしてたことがバレちゃってよ……今年のうちのクラスは、各地区の公民館で宿題を消化させられてるんだ。先生や補導ボランティアのおっさんたちが、宿題やるとこしっかり見張ってるんだ。

 くっそ、夏休みにまで授業あるようなもんじゃん……『かったりーから手分けしてやって夏休み最終日に写しあおうぜ』と去年紺が言い出したとき乗らなきゃよかったよ」

 直文が無念そうに答えたとき、聞き捨てならないとばかりに紺が割りこんできた。

「嬉々として乗ってきたくせになに言ってんだ。てか直文、おまえの分担した部分の計算ミスで『×印つく問題が全員共通してるのはなぜだ』と先生たちに疑い持たれたんだろーが! あとだれが絵日記まで人のを写せと言った、バレねーわけねーだろうがこのド級アホ! おまえのとこから芋づる式に写しっこが発覚したんだぞ!」

「ちげええよ!? 日記はまじめにやったんだ! ただバカの穂乃果が、『絵日記ふたりで書こ! あたしふたりぶん絵描いたるから! 直文は代わりに文を埋めといてな』つって勝手に……!」

「……で、二冊分の文書いてやったのかおまえ」

「穂乃果が妄想の絵をどんどん描くので、それに当てはまりそうな状況適当にでっちあげて書いたよ……けど結局、二冊の絵柄と筆跡が同じなのが職員室でとっちめられてさ」

「考えりゃわかるだろーが。尻に敷かれてねーで止めろよ」

「だだだれがあんなピーチクパーチク女の尻に!」

 ぎゃーすかとやかましい言い合いが続く。絵日記を高学年で出す学校は珍しいなあと山内くんは感想を抱いた。

(宿題か。僕もやらなきゃ)

 山内くんは夏休みの宿題を最初の一週間でほぼ片付けていたが、それはアパートごと灰になってしまった。なのでこの町に来る前、担任の先生に連絡をとって再び出してもらってきたのである。



「なにおまえ、宿題が好きなの? 信じらんねー」

 宿題をもう一度出してもらったことを話すと、紺は毛の生えた魚を発見したような目をかれに向けた。

「好きじゃないけど……ちゃんと提出するのが筋だもの」

「真面目なやつ」紺は鼻で笑う。そのくせ問題に手こずるやすぐ「おい……この計算どう解くの」と面の皮厚く、隣のかれをつついて聞く。

 午前中である。勉強会の場だった。

 公民館の板張りのホールには、長机とパイプ椅子が並べられ、十人ほどの子供たちが着席している。さすがにラジオ体操のみならず地域の勉強会にまで参加するのはおかしい、と山内くんは残ろうとしたのだが、紺に引きずられるようにして同席させられてしまった。

(ここにいるの気まずい……)

 山内くんは辟易している。

 前後左右の席から他の子供たちに「だれだアイツ」とじろじろ見られるのはまだいい。隅の椅子に座って監視しているおじさんが、おととい焼死体とともにいた山内くんを見つけた「石田先生」なのだ。神経質そうな細面をひきつらせ、かれをちらちら見てくる。

(あの人もきっと昨日は警察にさんざん事情聴取されたんだろうな……すっごい見てきてるけど話しかけてこないのは、苦手意識持たれちゃってるのかな)

 ひとりだけ別の問題集を解き進めながら、山内くんは嘆息した。

「山内。おい、山内」紺がひそめた声で呼びかけてくる。

 はいはい次はどれがわかんないのと言うと、違うと怒られた。

「あとでここの二階でこっくりさん会やるから。おまえも気をつけて見とけ」

「……はい? こっくりさん?」

「知らない? 降霊術の一種」

「いや……知ってるけど……気をつけて見ろってなに?」

「前にも言ったけど釜蓋開いてる時期だし、おかしなものが寄ってきやすい。そばで見るおまえも用心しとけってこと」

「待って。待って」突っ込みが追いつかない。山内くんは器用に小声でわめいた。「なんで僕がこっくりさんする場にいなきゃなんないの、帰るよ普通に!? まずなんでこっくりさんなんかやるんだよ!」

「『よく見えるやつ』は貴重なんだ。むしろおまえに手伝ってもらいたいからここに連れてきたんだよ」

 紺は漢字ドリルを猛烈な速さで埋めながら平然と言った。意外にもその字は、山内くんが丁寧に書いた字よりはるかに綺麗である。

「降霊でいちばん大事なのは、降りてきたものの性質の見極めだ。万が一悪いものだった場合、お帰りねがうのは早ければ早いほどいい。おまえのほうがオレより早く気づくかもしんないだろ。

 プールの監視員みたいなもんだよ、多くて悪いことはない」

「ぼ……僕にもわからなかったらどうするんだよ!? 幽霊だのなんだの、僕は多く見てきたわけじゃないんだよ!」

「それならそれでいい経験になるだろ。『あれは大丈夫、これは危険』っていまのうちに判別できるようになっとけ。今回はむしろそっちがメインの目的かな、おまえはすこし『見えること』に慣れとけよ」

 信じがたい速筆で漢字の書き取りを終わらせ、「あちー……」紺は下じきで自分をあおいだ。きゃしゃなのどを汗が伝っている。このホールにエアコンなどという上等なものは設置されておらず、駐車場に面して開け放たれたガラス戸からぬるい夏風が吹き込むばかりであった。

「き……危険だからなるべくいっしょに行動しろとかさんざんあおってたくせに、なんで危険な場所に同席させるんだよ……」

 おびえて愚痴めく山内くんに、紺は大丈夫大丈夫とうけあった。

「オレがいなきゃ危ないかもしれないけど、オレがいるかぎりたいした問題じゃねーっつの。

 ここでこっくりさん会開くのだって、オレの手が届く範囲でガス抜きさせるためだよ。

 うちの学校はいまこっくりさんブームで、やりたがるやつがけっこういるんだ。『絶対やるな』と言えば全員抑えつけられるなんて幻想はオレだって抱いてねーよ。だからせめてオレがいるときやるように言い渡してんの」

 休憩時間。

 お手洗いへでも行くのか紺が席を立ち、入れ替わりに直文とマイタケが近くに寄ってきた。手に冷えた麦茶の入った紙コップをもっている。

「信じらんねーと言われたけどあの子こそ信じられないよっ」麦茶で口を湿し、山内くんは憤然と愚痴った。マイタケは聞きながらうんうんうなずいていたが、うっすら微笑む。

「あのさ、紺はこうしろああしろって言ってくること多いんだけど、ちゃんと理由があっての押し付けが多いから、態度は大目に見てやってね。悪い子じゃないんだ。意地悪で自分勝手で怒らせたらしっぺ返し怖いけど」

「……うん」

「わがままだし食い意地はってるけどそう悪いやつじゃないよな。面倒見いいし」さらに直文が横でうなずく。

 あの子()って人望があるのかないのかよくわからないや、と山内くんは思った。



 公民館二階の奥まったところにある物置部屋は、ホールの比ではないくらい暑かった。建物の南側に面しており、正午近くともなると日光にじりじり炙られるのである。

 厚い紫色のカーテンによって直射日光はさえぎられていたが、同時に窓も閉められて風すら吹き込まない。

「あちー。窓開けね?」

 積まれている予備の机の上、足を投げ出すように座った紺が、下じきうちわを猛烈にぱたぱたさせながら言った。別の机でこっくりさんの紙を広げている女の子たちがいっせいに首を振った。

「紙が風で飛んじゃうし。暗くなきゃ雰囲気出ないよ」

「暗すぎてもいやだけどねー」「夜なんか怖くてできないよねえ」

 女の子ってほどほどにこわいものが好きなのかなと、部屋の隅で息をひそめながら山内くんは思う。

(怖いし暑いしほこりっぽい部屋だし。さっさと終わりますように)

 見たところ集まっているのは女の子ばかりで、五人もいる。室内の男は山内くんひとりで、そういう意味でも居心地が悪かった。

 女子のほうでも混じった男子が気になったらしい。ひとりが聞いてきた。

「ところで、そこの見かけないヒトだけど……」

「こいつは置き物みたいなもんと思っといて」紺は下じきを持った手をひらひらさせた。「ここらのやつじゃないし人畜無害だから。何聞いてもしゃべらないって約束させとく」

 女の子たちはおどおどする山内くんの顔をとっくりながめたのち、まあ無視していっかと割り切ったようである。

 最初に三人が進み出た。

 アイウエオ、カキクケコ……の五十音字と〔ハイ〕〔イイエ〕、鳥居マークの書かれた紙の盤――その上に置かれた十円玉に、三本のひとさし指が乗る。

「こっくりさん。こっくりさん。おいでください」

 落ち着かない気分でいた山内くんは、目を瞠って見つめた。

 ただしそれは、呼び出しの儀式をおこなっている三人組のほうではない。

 紺がそっと、ショートパンツのポケットから一枚の符をひっぱり出していた。彼女はくしゃくしゃになったそれをそうっと吹いた。青い炎が符を包み……符は燃え、しかし灰とはならなかった。青く燃える蝶となって、盤めざして舞いあがったのである。

「おいでになりましたら、〔ハイ〕の上へ」

 山内くんと紺にしか見えていない蝶は、盤の真上でふっと姿を消した。十円玉に入りこんだかのようだった。

「あ……来たっ、今日もおいでになられたよ」

 少女のひとりが声を興奮に弾ませた。その手元では十円玉がすいすいとアメンボのように滑らかに動いている。

 少女たちは次々と「こっくりさん」に質問を浴びせはじめた。

「こっくりさん、こっくりさん。素敵な恋がしたいです。どこに行けば理想の男の子に会えますか。うちの学校のガキっぽい男子はぶっちゃけありえないから、それ以外で!」

 十円玉がぬるぬる動いて滑らかに文字を示す。

 さらなるどよめきが上がった。

「『シルカボケ』……ぎゃー。きゃー。このそっけなさ、まちがいなくいつものこっくりさんだよ! やっぱり紺ちゃんがいると降りてきやすいね!」

「つぎわたし! こっくりさん、こっくりさん。A組の松田くんが好きなのは誰ですか!」

 十円玉が動く。

「『サクラギアカリ』……桜木あかり!? NPB(ニッポンバシ)48の!? 松田くんアイドルなんかに騙されないで、その女ぜったい枕営業してるはずだから!

 そうだ紺っ、紺! 松田くんに桜木アバズレを忘れさせるためのおまじないしてくれない!?」

「できるかタコ。人の心を操作する系は頼まれてもやらないと言ってるだろ」

 血走った目を向けてくる少女の無茶な要求を、紺はあきれ顔で却下した。

 また別の少女が「はいはいつぎウチね!」と質問を口にする。

「こっくりさん、こっくりさん! ウチのビー玉コレクションが無くなってもーたんよ、どこにあるか教えてくれへん!?」

 十円玉が動く。

「『ツギノトキオシエル』わかった、つぎのときね!」

 山内くんは冷や汗を流して紺を見た。

 紺はかったるそうに「つぎのときまでにこっちで占っときゃ出るさ」と言う。山内くんは紺に近寄り、ささやき声で聞いた。

「紺……これやっぱり君が動かしてるんだよね?」

「式神使ってる。ぜったいにバラすなよ」紺は認めた。「いいだろ、あいつら喜んでるんだから。質問に嘘では答えてないし」

「松田くんとやらの好きな人がアイドルだって、よどみなく答えてたけど……」

「それも嘘じゃねーから。『桜木あかりちゃんのハートをゲットする呪術があるならやってくれ』と松田に依頼されたことがある……」げっそりした様子で紺は答えた。「発想が同じで案外お似合いかもなあいつら」

 なんと答えていいかわからず山内くんは押し黙る。

(でも、紺のイカサマでよかった)

 そっと安堵の息をついた。降霊術などと言っても実態がこれであれば、おびえることもない。むしろ不思議な力を眺めて楽しむ余裕すらある。

 だがその余裕はほかならぬ紺によって剥ぎ取られた。

「気を抜くな」紺は山内くんの耳に口をつけるようにして警告してきた。「こうした降霊の真似事でも、ときどき『本物』が途中で混ざるんだ。オレたちが見張ってなきゃなんないのはそれだ」

 本物が寄ってきませんようにと山内くんは震えながら祈った。

 女の子たちがかしましく五、六の質問をしたのち、紺はグループの交代をうながした。

「そろそろ絵美とアッコの番な。代わってやれよ」

「あっ、じゃああとひとつだけ」

 女の子たちは紺に顔を向け、にやーっとした。その含みありげな笑顔に、紺がきょとんとする。

 彼女たちは示し合わせていたのだろう、歌うように声をそろえて言った。

「こっくりさん、こっくりさん。紺ちゃんの好きな人はだれですかー」

 それを聞いて紺は半眼、いわゆるジト目になった。

 十円玉が動き、手元を見た女の子三人は失望の声をあげた。

「『イナイ』だって。ちぇー、おもしろくないなぁ」

「……なんだいまの質問は」ジト目のまま紺が詰問する。

「だってー。あたしたちこっくりさんやるたびに、紺ちゃんに好きな人からなにから打ち明けてるのもおなじじゃん!」「質問を隠しちゃいけないなんて不便ー!」「紺ちゃんの秘密だって打ち明けてもらわなきゃ不公平やんか!」

 きゃいきゃい騒ぐ少女たちに、しれっと紺は言い放った。

「かわりに霊が降りやすい環境作ってやってるし、安全も保証してやってるだろ? ねがいごと聞かせてもらうのは、金もらうかわりのオレの取り分だっつの」

(霊なんか降ろしてないくせに堂々としてるなあ)

 紺ってもしかして、こういう占いや依頼を通じて個人情報たくわえてるんじゃないだろうか、と山内くんは気づく。

 占い師が権力に食いこむ構造がちょっとわかった瞬間。

「はいはい交代交代」

 紺に重ねてうながされ、それまでの三人が名残惜しげにぶーたれながら机を離れる。代わってふたりの少女が進み出……

 山内くんは氷水を浴びた心地になった。

 影でできた蛇のようなものが、新しく進み出た少女たちの肩から胴にかけて、ぐねぐねとからみついている。

「あ、だめ」

 考える間もなく、制止が口をついて出ていた。


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