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蛙のお姫様【仮】  作者: stenn
一章
5/61

目撃

細かな部分が少し気に入らないので、また修正が入るかもしれませんがとりあえず書き進めて行きます>_<

進まないので……。

 長い長い舗装もされていない広めの畦道。そこを両親に新調してもらった新しい靴で大量の荷物を抱えながら私は走っていた。というか歩いていた。



遠くまでのどかな牧場と畑が広がり誰も見かける事は出来ない。たまに牛が牧草を口で咀嚼しているくらいだろうか。であるので荷物を抱え必死で道を行く私を不振がる者は皆無だった。



「――っ。はぁ。はぁ」



 どのくらい歩き続けたのか分からないけれど、私はようやく視界の端、兄様の小さな背中を捉えていた。兄様が向かう先――少しだけ畦道が広くなった所に、先ほど奇声をあげて走り過ぎて行った男たちの姿がった。全員で五人程だろうか。何を待ったてるのだろうか。いずれも落ち着かない様子で、馬を降りうろうろと歩き回ったり剣を眺めたり時間を持て余している様に見えた。



 それにしても。どう見ても全員大人だ。体格も熊みたいで、華奢で小さい兄様なんてすぐ踏みつぶされてしまうだろう。



 私は兄様の背中に視線を戻していた。



 走って止めるには間に合いそうもない。なら――兄様が何か仕掛ける前に全力で謝れば赦してもらえるだろうか。まだ何もしていないのだから。逃げると言う手もあるけれど謝って済むならそれでいいと思う。大体、体力の限界だった。



 忌々しい。呪いたくなる。何を考えているのか暴挙に出る兄様も、体力の無い私も。



 「――お前ら!」



 遠く、兄様の微かな声が耳に届き、私はげんなりする。とにかく追いつかなければ――と私は足に力を込めた刹那。



「おっと、嬢ちゃん」



 低い声と共に身体が浮遊する感覚に私は何が起こったのか分からず目を見張った。地面か離れつつある自分の足。その足元にもう一つ大きな足があることに気付いて私はようやく理解した。



 担がれているのだと。



 弾ける様に振り向くとそこには無精ひげにまみれた大きな男の顔がある。彼の黒い双眸はどう接していいのか分からないのだろう、困ったよう笑っている。



 ボトリ。荷物の落ちる音を聞きながら、私は身動ぎ一つ、瞬き一つしなかった。蛇に睨まれた蛙よろしく茫然と男を見つめている。



 担がれている。そう理解できたのはいいけど、頭の中で何も思いつかなかったのだ。に薙げなければならないのだろうけれど私は『恐さ』を通り越して軽い思考停止に陥いっていた。



 男はそんな私を見てさらに苦笑を深めて見せた。



「――あの小僧は……嬢ちゃんの兄貴か?」



 荷物よろしく小脇に抱えられ、私は兄様の居る方向にぼんやりと目を向けた。


 ええと。確かあそこには大男たちがたむろしていたはずだが――どこへ行ったのだろう。片目だとその分視界が狭くなるので全体像が捉えられない。首を揺らして視界を変えると馬が少しだけ興奮したように鼻息を荒くして落ち着かない様子だった。



「兄様?」



 よく見なくても兄様も確認できない。私は顔を顰めて馬の足元に目を落とすとそこには大男たちが安らかに眠っているようだった。



 ――?



 一瞬の間に。訳が分からなくて私は眼を瞬かせた。



「悪魔か何かの力でも持ってんのか? あの小僧――一瞬で五人ってありえないだろ」



 男は喉を鳴らす。呆れている訳でもけなしている訳でもなさそうだ。どうやら褒めているらしかった。



「……兄様が?」



 子供が大人に勝てるのだろうか。ましてや華奢で小さくて、顔だけが天使の兄様。頭は良くても――勉学のみ――剣や武術なんてできない。そう思っていたけれど。


 俄かには信じがたくてぽつりと落とした時――。



「あ――げ。こっちに来た。うわぁ!」



 心底嫌そうに男は呻く。刹那腕から放り出されるように私は地面に転げ落ちた。幸いお尻から落ちたのでけがはない。が痛かった。



 何が起こったのか分からず、ふと見上げると男が慌てて流れる様に剣を抜きはらっていた。



 ようやく男の全体像を目にした訳だが何だろう。どこか向こうで伸びている男たちと同じものを感じるけれど彼等よりは数倍小奇麗に見えた。どこか見覚えのある白い詰襟。何かの機関の人間だろうか。少なくともこの辺には無い制服だった。



「俺の妹に何をするこの変態!」



 舌打ち一つ。男が剣を振り下ろすとそこには兄様がいた。いつの間にどこから来たのか。彼は抜き身の剣を握りしめると男に振りかざしていた。



 乾いた金属音。何が怒っているのか分からず私は茫然と目の前の光景を眺める。



「――ちょ! やめろって! 俺は変態じゃねぇし、嬢ちゃんを保護しようとしただけだって! 何かありゃ、困るのはおめーだろが!」



 強かった。もしかしたら相手が手加減しているのかもしれないけれど、私にはすごく強そうに兄様が見えた。今までどこか訝し気だった向こうの男たちを倒したのも頷ける程に。かっこいい。素直にそう思う。初めて兄が頼もしくもありかっこよく見えた瞬間だった。



 どこで剣を覚えたのか――少なくとも父は剣を扱えない――兄様は小柄な体型を生かし機敏な動きで相手を翻弄し、剣を振りかざす。相手の男は困ったように兄の剣を受けながら私に『この兄ちゃん止めて』みたいな合図を送って来る。


 そんな事を言われても。私は困ったように眉を寄せた。確かに止めなければとは思う。だけど『止める』たって。この状態の兄様をどう止めればいいのか分からなかった。せめて妹がいればいいのだけれど。



 心の中で『ベネッサ助けて――』と願ってみるが当然現れなかった。簡単に召喚できればいいのに。――妹が。



 そんな私の考えをよそに兄様が吐き捨てる。



「知るかぁ! 脅えてただろうか! それに妹の身体を俺以外に触ろうなんざ言語道断なんだよ! このロリコン!」



「……え」



 戦慄。一瞬にして私の周りの空気が凍った気がした。

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