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蛙のお姫様【仮】  作者: stenn
二章
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勇気

中央政府の建物は『灰色』の印象だった。あくまでも印象なので実際には古代の王城を改築し美しく荘厳に作られた建物なのだけど。門前にはその建物を護るように飛龍の像。それは左右に鎮座し来訪者を監視している様にも見えた。



 それを驚くほどあっさりと通り抜けて私たちはコツコツと軽い音を鳴らしながら大きな廊下を歩く。



「――兄様……これは?」



 若干脅えながら隣で歩く兄様を私は覗き込む。灰色の鬘と、淡く輝く同色の双眸。頬には一瞬にして刀傷ができ、凛とした表情は――変態とは思えないほど別人だった。



 設定は――ベルサス・アフ。海軍将校。二十一歳らしい。ええと、兄様の実年齢は現在十八ほどだった記憶が……。そう考えていると兄様は私に見たことも無いような冷たい双眸を向けた。



 心臓が軋む音。敵地なので仕方ないと分かっていても――今までとの変わりように傷つく。一瞬泣きそうになって私は視線を足元に落した。



「おまえに発言権はない――。面白い物を捕まえたと報告したら、総統様とリュート様が直々に合ってくれるそうだ。何の気まぐれか知らんが、心してかかれ」



 強いデリオロン訛りだし、声まで違う――。この建物に入る前はにこやかに私の気をほぐしてくれた――と言うよりべたべたしていた――兄様はどこにもいない。すぎる不安。私は無意識に唇を噛んでスカートの裾を握っていた。そうしなければ対っていられもしないように思えたからだった。


 ここからは、自分で――そう心の中で言い聞かせながら私は顔を上げて前を見据える。



 カツン。カツン。規則的に響く足元のリズムはまるで心臓のリズムと共にしているようだった。その度に不安と緊張が増してくる。ゴクリ。喉元に唾を飲み込んだ後で私達は大きな扉の前に居た。



 人が出入りするだけならこんな大きな扉はいらない。細やかな彫刻や豪華な飾りも。それは威厳の象徴。威圧すら感じるその扉ほに私は足をわずかに竦ませたけれど、兄様は当然気遣う事も無く、見張りと軽く話す。その直後、鈍い音がしてその重々しい扉は開いた。



「――」



 広い、とても広い部屋だった。私が知っている限りでは学院にある体育館よりも広い。立ち並ぶ柱には細かい彫刻が描かれ、天井は美しい絵画とシャンデリアで彩られている。煌びやかな部屋ではあった。足元には深紅のカーペット。一瞬自分が貴族様にでもなった錯覚を覚えたけれど、壁を背にして立ち並ぶ兵士たちの冷たい視線がそれを許さなかった。そう――侮蔑するような視線。泣きたくなったが負けるわけにはいかない。すべてを覆い隠すようにまっすぐに私は目の前を見据えた。



 兄様が何をする気なのかは分からないけれど――大丈夫。そう言い聞かせて。

 広間の先は段差があった。まるでそう舞台のような段差で私の身長くらいだろうか。そこで立ち止まると軽く兄様は膝を付き頭を垂れる。



 見上げるとそこには一人の男が座っていた。大きな椅子。――玉座なのだろうか。デリオロンは王政ではなく、国民に選ばれた者が立つ軍事国家だと聞いていたけれど、結局上に立つ者は同じなのかもしれない。そう、思った。



『――連れてまいりました』



 私に分かるようにしたのか、ただ単なるそう言う礼儀なのか兄様はゆっくりと口を開いた。



『ご苦労だった。――アフ将校。まさか海軍が噂の姫君を捉えるとは思っても見なかったな。イルベール将軍も鼻が高いだろう』



 なかなか早口で、私は必死に脳を動かす。姫君――それは私の事なのだろうか? 楽しそうに言う男は中年くらい。大柄で、軍服を着崩し、無精ひげを生やした姿はどこにでもいる性質の悪い男にしか見えなかったけれど――これが『総統』なのだろうか。男が隣に居る初老の男に目を配ると『恐れ入ります』と軽く礼を取った。



『下がれ――後で褒美を取らせよう』



『は』



 私は声を出しそうになって慌てて口許を押さえていた。去る背中。行かないでほしい。そう声を掛けたかったがそうもいかない。今から自身が何をされるのかどうなるのか分からない。そもそも直接お願いしたところで通じるのだろうか。輪を掛ける様にしてジワリと広がる不安と恐怖。足が微かに震えている。けれど――。ここまで来たからには……やる気るしかない。私はどこか挑む様にして男を見上げていた。



『――ほぅ、お前が。間違いはないのか? どうだ? リュート』



 いつからいたのだろうか。初めからそこにいたのだろうか。目を男に促されるように向けると一人の女が立っていた。金髪碧眼。透き通るような白い肌。彼女は薄い口許を軽く緩めると形を見下ろしていた。どこか嬉しそうに見えたのは私との再開が嬉しかったわけではないだろう。


 美しい友達――だった人。それが酷く淋しく思えた。


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