眠り
お久しぶりです^^とりあえずできたところまで載せておきます。
短いし、傍から見るとちょっとしたホラーorz
『うん。過去。もうあたしは私でないし、あなたはあなただから――でも、おかしなものだね? それでも、何も知らなくても私たちは同じことを繰り返すんだ。きっとあなたも同じだよね? 同じ選択をする。理由は違っても――その選択は常に私達の中にあるから』
指を差すのは胸のあたり。結局、私は私でしかない。そう言いたいのかもしれない。何が起こったのか知らないけれど私はまた同じ選択をするのだろう。彼女が言う様に。後悔など微塵も感じられない表情にそれでもいいのだろうと思う。
でもね。
言うと少しだけ躊躇したように眉宇を曇らせたがすぐに元に戻し口を開いて見せた。何事も無いように。その言葉の続きはおそらく聞けはしないのだろう。
『さぁてと。二人に付いてだね。視た方が早いからざっと情報を脳に流すよ? あくまでも情報で記憶でないことを分かってね』
「はい」
言うと眼を嬉しそうに細めて見せる。
『――いい子だね。あたしもそう言うふうに生きたかった――少しはオーエンもベネッサも父も母も喜んでくれたかな?』
オーエンを除く家族にはこの間、会った。私には初めての対面で戸惑ったけれど母も父もそして妹も『また』記憶を無くしてしまった私を心底心配してくれていた。『なぜお姉ちゃんだけがこんな目に』とベネッサは一晩中泣いて、姉妹二人で肩を寄せ合い眠った。母と父は学院に連れて帰りたい。そう申し出たがそれがなぜか許可されることはなく、泣く泣く田舎に帰って行った。
とても優しい人たちだ。そう、思う。
「心配してたよ? 一回目の時も、すごく心配したって。死んだらどうしようって。でも、生きていてくれて嬉しかった。――とても嬉しかったって。初めて感謝したそうだよ。神様に。そして、私に」
鏡の中にいる私は少しだけ眼を見開いた。おそらく何か確執があったのかも知れないけれど今の私には分からない。
「生きていてくれて、ありがとうって――記憶を無くしてしまっても、忘れてしまってもそれだけでいいって」
たとえ変わってしまっても――大切な娘だ。そう伝えてくれた人たち。私が変わったことに喜んだのではなく、生きていたことに喜んだ。
『……ありがとう。本当にいいこだね』
『私』はフワリと笑う。その目からは光るものが流れたような気がしたが私の双眸からは何も流れ落ちることは無かった。
「私がいい子なら、あなたもでしょ? だって私たちは一緒なんだもの」
伸ばす手には冷やりと無機質な感覚。その先にあるのは紛れもなく私の手だったけれど、微かに違う動きをしている様に見えた。触れることは出来ないもう一人の私。多分一番初めの『私』
「記憶が戻ったら、あなたがこの身体を使えばいいよ」
言うと彼女はフルフルと小さく首を振り少し考えるようにして視線を下げたけれど彼女がそれに触れることはなかった。
顔を上げるとそこに居るのは私。いつも見ている表情と何ら変わりはない。見慣れた少女が映っている。
『ともかく――ライラ。今から情報を流すね。――少し眠って?』
「眠――る?」
刹那――襲うのは異様な眠気だった。揺れる視界に、立っていることも困難で私は必死に洗面台に縋り付く様に立つ。それでも刻々と足から、手から力を抜けていくのを感じていた。
『抵抗しないで。辛いだけだから。――頭が痛いでしょ?』
痛い。というよりは目が回る。意識を手放しそうになるけれど、何とか私は壁伝いに両足を滑らせるようにして歩いていた。
もしかしたらそこまで頑張らなくてもいいのかも知れない。だけれど何となく、気分的にだった。――トイレで倒れるのは避けたかったのだ。
ゆっくりと牛の様に進む自身の身体はとても重く、いつのトイレが異様に広いように感じられた。
もはや、ゴールは入口。もう少しが酷く遠い。唯一の救いは壁がひんやりと熱を奪っていく事だろうか。焼け石に水だったがそれでも微かに身体が覚醒するように思えた。
「――つ」
あと一歩。すでに身体は半分以上力が抜けている。ぐらぐら揺れる世界の中で、私はすべての気力を振り絞って足を踏み出すと、崩れるように倒れこんだ。
耳に届くのは驚きによる悲鳴。誰かが何かを叫んでいるようだったが届きはしない。冷たい床に溶け込むようにして私は眠りについた。
*****
でもね――与えられた選択肢を選ぶだけで、与えられない選択肢は選ぶことなんてできないよね。だからね。貴方に選択肢を与えるあたしを許して――。




