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蛙のお姫様【仮】  作者: stenn
二章
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魔法

 その日からローエルと私は何度も遊びに出かけた。もちろん使用人たちの目を盗んでだけれど。義兄にはすぐ見つかってしまったが何度か撒くことに成功した。義兄も混ぜてよかったのだがどうしてもローエルを排除するのであえて、だし、学校もあるだろう。ちなみに私はサボっている。授業なんて面白くもないし、いつだって取り残された気分になるからだ。友達なんているはずも無い。



 よくよく考えればローエルが初めての友達と言っていいかも知れなかった。

 村の外れ。村全体が見下ろせる丘で私達は互いの石をぶつけ合わせる『石相撲』をした後でぼんやりと空を見上げていた。



 寝転がる丘に風が駆け抜けてローエルの髪がふわりと舞った柔らかそうな蜜色の髪。何となく手を伸ばしそうになってしまう。



「あれが、<グラス>でぇ、えっとね、あれが<フラーム>」



「何、それ」



 少年はいろいろな事を知っている。学校では退屈すぎて分からないことも不思議とローエルから聞く事柄は耳に入って来る。同じ歳と言う事もあるだろうけれどあまりにも彼が楽しそうに話すので私も楽しくなってくるのかもしれない。



「ん……精霊の名前。こないだ兄上に教えてもらったの。――僕は見えるはずなんだって言ってたけど、まだ見たことないんだ。だから姿はあんな形なのかなって」



 綿雲は羽の生えた昆虫のような姿をしている。あるいは蜥蜴か――精霊というのは私でも聞いたことがあるけれど、あんなに気持ち悪いものなのだろうか。まぁ、人間ではないのだからそんなものなのかもしれない。



「精霊ねぇ――いるの? そんなの」



 少しだけ小馬鹿にしたような口調でわざとらしく言ってみるが以外にも少年が動揺することはなかった。ただ空にその赤い双眸を向けているだけだ。



 きれいな色。その目に映るのは私と違う者なのかもしれない。そう思う。



「ん――分かんないです。兄上も見たことないって言ってたし。でもね」



 身を起こして、ローエルは覗き込むように私の頬に手を当てた。逆光になっても輝く赤い両眼。それだけローエルとは別の『何か』であるように見えるのはきっと気のせいだろう。



 だけれど、そんな事より突然頬に触られたことの方が今の私には比重が大きい。動こうとすると『動かないでください』と声が制する。どこか凛とした声に何故だろう素直に従ってしまう私がいる。



 それを確認するとローエルは何時もより余裕のある笑みを含めて見せた。それは頼りない子供の姿ではなく、見知らぬ少年の様だった。一人だけ成長したように、どこか置いて行かれた気分を味わって何となく悔しい。



 いつも泣いてるくせに。心の中で呟いてぐうっと喉を鳴らす。



「みててください」



「――?」



 刹那――。ふわりと私の身体、服の中を風が駆け抜けた。冷たい風。それは辺りに流れる風とはどこか異質なように思える。使い古した綿のスカートを巻き上げ黒ずんだ白のブラウスを揺らめかせた後、私の黒髪を躍らせて去っていく風。それと共にローエルが手を離したことに気付いて私は思わず身を起こして彼を覗き込む。



「何? いまの」



「精霊魔法だって、兄上が言ってました。あ、こんなこともできます」



 喜んでくれたらいいんですが。



 付け加えて少年は空間を嬉しそうに撫でるとぽつぽつと綿雪の様に光が生まれ辺りを包んだ。その一つ一つが命を持っているようで不規則に輝きを暗くしたり明るくしたりしている。



 まるで別世界に居る様な幻想的で美しい光景に心が踊る気がした。生まれて、初めて。



 ――光の正体が知りたくて掴もうとすると皮膚に溶けて消えていく。まるで同化していくように。



「すっ、ごい!」



 私は思わず叫んでいた。嬉しさと感動を共有したくてローエルに目を向けるけれど、彼はなぜか私を見て目を細めている。嬉しそうに――。なんだか私だけが子供のようで突然気恥ずかしくなったが――無視することにした。



 再び伸ばす腕。光はふわりと腕に落ちて何の感覚なく再び消えていく。それを何度か、走り回りながら繰り返して、気づいたときには夕方になっていた。



「楽しかったです?」



 寂しく最後の一つを見送ると夕日に照らされた少年の顔が覗き込んだ。存在を忘れていた為私は思わず仰け反ってしまう。慌てて体制を整えると子供みたいにはしゃいていた自分が急に恥ずかしくなってローエルから目を反らせた。



「……う、うん」



 言うと彼は満足そうに笑う。どこか大人びた表情で。



「喜んでもらえたの初めてなんだ」



 恥ずかしすぎてこの会話を続けたくない。考えながら私は空を見上げた。山の裾野は茜色に染まり、ゆっくりと闇が迫り始めている。



「あ。こんな時間なんだ。早く帰らないと――また、怒られるね。領主様に」



「ぐ……」



 一瞬だけ泣きそうな顔を浮かべるローエル。いつもの彼が戻って来たようで何となく安心する。私は苦笑をして見せた。



 領主様――見たことはないがそんなに怖いのだろうか。使用人たちは厳しいけれど悪い人ではない。門番の男などは私達をいつも見て見ぬふりをしてくれる。それを考えていると悪い人ではない気がするのだが。



「あたしが悪いんだし、私も一緒に怒られるよ」



 多分現実は私だけが怒られる。なのだけど。しかも召使陣に。別にいいかなと思う。重労働もなれているし。



「でも――」



 私は彼に向けて白い歯を見せ笑った。驚く様にして目を見張ったローエルを無視するように私は彼の細く温かい手を握りしめた。



 ――一瞬、一瞬だけ焦った様に手を強張らせたがすぐに力か抜ける。



「見せてもらったお礼だよ。楽しかった。……じゃあ、あたしもいい物見せてやるよ。この時間なら少しぎりぎりだけど、間に合うよね」



「?」



 たんっと私は軽く地面を蹴った。引きずるようにしてローエルの小さな身体を引っ張りながら。彼は抵抗することも無く、私に歩調を合わせていた。



「どこ行くの?」



 夕日に照らされている為か頬を赤く染めるローエルに私は笑って答える。



「あたしの宝物が見れるところに」

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