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蛙のお姫様【仮】  作者: stenn
一章
30/61

信じる想い

シリアスです。

「酷いですわね――婚約者に向かって。譲歩してくれてもよろしいのに。ライラだけでもいただけないかしら? たかが農奴でしょうに。身分すらない女なんて、貴方がた王族にとってはゴミでしょ?」



「え?」



 確かに――そうなのだけれど。私はまさかリュートからそんな言葉が出るとは思わなかった。しかもどこか蔑んだ視線で。かつて彼女は言った筈だ『身分なんて関係ない』と。そんなもの自分の国には無いのだから――と。そうやって受け入れてくれた彼女がどうして今そんな事を言うのか分からない。分からなかった。



 茫然としたまま彼女を見ると軽く笑って見せた。悪びれた様子も無く、邪気すら感じられない。



「リュー……」



「ライラは好きですわよ? 言いましたわよね? その眼きれいだって。だから好きですわ」



「――眼」



 まるで『眼』だけが好きだと言われいるようだ。初めから『そう』だったのだろうか。出会った時から。そうだったのだろうか。



 この学院で私が身分の事を考えずに済めたのはひとえに兄様と彼女のおかげだった。『農民』と言うだけでも差別される学院――この国の縮図のような処で『それの何が悪い』と才能で押さえつける兄様と『関係ない』と笑い飛ばすリュート。それでも敬遠される私にごく普通に接してくれるリュートがとても嬉しかった。



 それ以前に初めてできた友達で、嬉しかったのに。友達だと思っていたのは、私の独りよがりだったのだろうか。



 信じたくなくて縋るように見る彼女の表情は上手く読み取れない。ただこれ以上問いかければ自分自身が追いつめられるようなそんな気がして私は口を噤んでいた。



 大丈夫。――何か理由があるのかもしれない。何か――。



 まるで唱えるようにして言い聞かせるけれど喉から何かが這い上がってくるようだった。震える手で口許を押さえつけると私は顔を伏せる。歯を食いしばりながら何も出てこないように。それはとても苦しいことの様に思えた。



 大丈夫――。



「酷いですね」



 どこか感情をそげ落としたように言ったのはおそらくソルト様だろう。そこには同情も何も感じられない。形だけの言葉だ。それを悲しいとは思わない。むしろそれが当然なのだろうと思う。



 それが正しい距離なのだと。



 私はぐっと奥歯を噛みしめる。痛みを堪えるようにーー。



 ――きっと。私が勘違いしていたんだ。あまりにも優しくしてるから。普通に接してくれるから。ソルト様も、ローエルも……リュートも。



 何も失いたくなくて、信じたくなくて『願望』にすがっていたけれどきっとソルト様の言葉が本来の形。本来の関係性。



 私には元々何も無かったらしい。何も。



 悲しくて、苦しくて。馬鹿馬鹿しくて。恥ずかしい。何より自分自身がすごく憎かった。



 ぐっと握りしめた拳に爪が突き刺さる。それを痛いとも感じないのは心の方が痛かった為なのかもしれない。



「――おい」



 どこか遠慮深げな声に私は我に返っていた。軽く肩に置かれた手は温かく、それにぼんやり視線を上げるとめいいっぱい大きな双眸が私の左目に入ってくる。黒と赤の宝石のように輝く両眼だった。それはとても心配そうに揺れているような気がする。



 なぜ心配をするのだろうか。



 首を傾げるとローエルは一瞬怪訝な表情を浮かべて見せた。『心配したら悪いのか』そう言っているようでもあったが、私には分からない。ただ、それをローエルは口に出すことなんて無かったけれど。



 息を一つ落としてからゆっくりと優しく言葉を紡ぐ。


「大丈夫か?」


 それはとても温かで優しく、胸に滑るようにして入って来る。私が作った距離と覚悟を簡単に縮め崩すようにして。


 信じたくなってしまう。


「大丈夫か?」


 そう言う彼の言葉に私は『大丈夫』と言える筈もなく微かに笑って見せた。カタカタと震える奥歯を噛んで、無理に口角を上げて。笑えているかは怪しい。怪しいけれどそうするしか無いように思えた。


「お前」



 ローエルは困ったように呟くがそれ以上は声に出すことはなかった。代わりに私の手を握り、視線をリュートに向ける。



 相変わらず彼の手は温かった。冷たい私の手にジワリと彼の温かさが伝わり、心にも届くようだった。強く握るその手はまるで『信じろ』そう言っている様にも思える。


 ふと見つめる少年の端正な横顔はまっすぐだ。そこには邪念すら垣間見えることはなく、正を信じ悪をくじくと言うシンプルな世界が映っている様に見えた。初めて会った時の様に。



 ただ違うのは微かに頬が赤く見えることだろうか。多分。暗くてよく分からないけれど。



 それが何となく可笑しい。可笑しくて全てがなんだか良くなってくる。


 それが、とても嬉しくありがたかった。



「……ローエル」



 私は軽く手を握り返す。そして微かに呟いていた。



 ありがとう――と。




 その様子を見て安堵したのだろう。気にかけて――多分――時折向けていた視線だったがソルト様は息を付くとリュートにそれを戻した。



 そこには彼女を見る以前のような温かさは灯ってなどいない。ただ冷ややかな光だけが浮いている様に見えた。当然のようにリュートは表情など変えない。眉ひとつ動くことなく、その双眸から感情の色がうかがい知ることは出来なかった。まるで感情を凍り付かせたかのように。



 ただ私にはそれがとても痛々しく見えたのだけれど。



「リュート」



 たとえ私たちの関係が『嘘』であったとしてもソルト様に対するリュートの想いは嘘では無かったように思う。であるのでソルト様の視線はとてもつらい物だろう。ダカラそれをおくびにも出さない彼女はとても可哀想に見える。



「残念ながら。リュート様。王家にとっては身分なんて本当はどうでもいいんですよ。『使えるか』『使えないか』――いえ。大切かどうかですので。故に、ここに立っている貴方たちはゴミ意外の何者でもありません――ので。ここで退場してもらいます。大丈夫です。殺しはしません。――いろいろ使い道があるので」



 悪魔か何か――その表情は兄様が良からぬことを考えて笑うそれによく似ている気が゛する。いや、それよりもかなり迫力がある様に思えた。ソルト様はスラリ剣を抜くと一度だけ横に薙ぐ。手の感触を確かめるように。フワリと柔らかい髪が揺れた。



「困りましたわね。一人ぐらいくださってもいいのに」



 リュートは肩を竦めて見せる。



「だめですよ。残念です。私はあなたが好きでしたのに」



「ふふふ。私も好きでしたわよ」



 彼女が泣いているような笑っているようなどちらとも取れる様な表情で青い双眸を少しだけ揺らめかせた。その後、ぐっと口を一文字に結ぶ。覚悟したように。



「けれど、私には責務があるんです」



「私にも、ですよ?」



 低く答えるソルト様に重ねるようにして、リュートは形のいい唇を動かした。何を言ったのかまでは聞き取れない。おそらく声は発していなかったのだろう。



 だが――それに答えるようにして窓が突然弾けるように乾ききった甲高い音を響かせながら、割れた。



感覚としてはマラソン大会で『一緒に行こうね☆』『うん(^^♪』と言いながらスタートダッシュで突き放される友情みたいな?(実話)

え?違う?

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