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蛙のお姫様【仮】  作者: stenn
一章
14/61

親友

 私は信じられない思いで『それ』を見つめていた。『あの日』から五日。勉強もままならず――もちろんテストは不合格――真綿で首を絞められる日々が続いていた。


 兄様たちが言ったことは嘘であって欲しい、冗談――はたまた夢であって欲しい。と願いながら過ごした五日間。残すところあと二日にして、兄様から――そもそも会っていない――もソルト様からも何の連絡も無かったので願望が叶ったのかと心の中で喜んでいたのだけれど。



 やはり気のせいだったらしい。



 学院中央通路。


 立派なその石造りの通路に、大きな掲示板があった。寮から誰もが通る中央通路。誰もが見るだろうその掲示板には何やら大きなポスターが張り出されていた。目を引く鮮やかな彩色。計算されつくした文字と絵のバランス。どう考えても素人――学院の所為とが作ったものではないポスター。そこには『第一回ウェルザ王国剣技トーナメント』と記されていた。それはいい。参加者を求めていることもいい。勝手にして欲しい。問題は――。私はその一文を見て暗い気持ちで項垂れる。



 そんな私に兄様の『日々の努力』もあって声を掛けてくるものはないはずだったけれど、遠巻きに見られるのは何となく悲しかった。



「ライラも出るんですの?」



 背中に落ちる声。私は思わず弾けるようにして顔を上げていた。



「リュート!」



 そこには金髪碧眼の美少女が立っていた。私より四歳ほど年上であるはずの彼女は年齢よりもかなり幼く見える。白く抜ける様な肌にこの学院の制服――女子はまるでシスターの制服を模したような黒一色のワンピース――がよく映えていた。余談だが私は髪が黒いのでなんだか『重く、暗い』印象だ。おまけに片目が輝いているので怖い――も加わるらしい。



 記憶がある中で唯一無二の友達――親友に私は思わず抱き付いていた。ふわりと金の髪が舞い驚いた様に私を見つめる。



「戻って? 一か月は戻らないって」



「ええ、まぁ。お父様と少し意見の相違がありまして。ライラに会いたかったから早馬で掛けて来たんですの」



 つまりは喧嘩して逃げ帰って来たようだ。早馬はどうか分からないけれど早すぎる帰りにあながち嘘でもないような気がした。一国の姫としてそのあり方が正しいのかどうかはまた置いておくとして。



 彼女は苦笑を浮かべてポスターに目を向けた。



「にしても。ずいぶんやられてますわね。精神的に――これじゃあ……ねぇ。魔王がこれを?」



「――うん」



 私は低く呟やく。認めたくないのだけれど、問題は――ポスターにはしっかりと私の名前が刻み込まれていたことだ。しかもローエルの名前と共に誰が喜ぶのか『模擬試合』として。おまけに『審査員』には『国王様』なんて書かれたりしているから――どうあがいても逃げられない。この際、この近くにある名所『クラウフールの滝』から飛び込んでしまおうかと頭に過ぎったほどだ。ついでに何の名所と言えば当然人生に疲れた人たちが行く名所だったれする。



 それにしても近頃見ないと思ったら、こんな事を――こんなに大事にしているなんて思っても見なかった。ソルト様か兄様か。あるいは結託なのか。これはどちらが主導しているのか分からないけれど、心底首を絞めたい思いに駆られる。実際、会ってもできな私は兄様に嫌味一つ言うことが出来ないだろうけど。


 一通りリュートに事情を話すと彼女は呆れたように空を仰いだ。


「――せっかくだからみんなでこの戦いを盛り上げよう精神ですわね……はた迷惑。あの魔王も、ソルト様も」



 魔王――ようやくここで気づいたが兄様の事だろう。出会って以来彼女は兄様を嫌っている。まぁ、リュートだけではなく何も知らない女子以外は殆どが敵――あるいは下僕――なのだけど。



「ソルト様がローエル様に対して目が腐っているのは聞きましたけれど――ったく。頭のいいエリートはどこか可笑しいですわね」



 酷い言いようをして彼女は優しく私の頭を撫でている。まるで母親がそうするように。それはとても優しく心地のよいものだった。



「どうしよう?」



「――一応義父様には進言しておきますが、期待なさらない方がいいですわね。――あのひと『楽しい』ことが大好きですから」



 困ったようにため息を吐き出した。確かに。この国には『お祭り』と言うものが大、中、小問わず多い。そのほとんどがここ最近――国王が即位してから増えたもので王都に集中していた。まぁ、害になるわけでもないし、楽しいので誰も文句を言う事も無いが私は大いにあった。これをやめてほしい。そう切に願う。きっと届くことはないのだろうけれど。



 そう言えは国王はリュートの『養父』だったな、と考えながら軽く項垂れた私を見てリュートは苦笑を浮かべた。

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