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蛙のお姫様【仮】  作者: stenn
一章
12/61

兄上vs兄様

「ソルト様ぁ」



 思わず情けない声が出てしまう。



 そこに居たのは近衛騎士団団長――団長であることを知ったのは大分後だ――『ソルト様』だった。そう言えば苗字は聞いていないけれどさして気にもならない。綺麗な蜜色の髪。すらりと伸びた手足。甘く整った顔立ち。そして近衛騎士団長と言う高すぎる身分。どれをとっても完璧な彼は王都の女性であれば私を含めて憧れ無い者はいないだろう。普通なら絶対に知り合いになどなることは出来ないソルト様とこうして話しかけることができるのはひとえに兄様のおかげ。この学校に――王都に連れ出してくれたにい様のおかげだけれど、与えられるストレスの方が多いので感謝はしたくない。



「兄上!」



 不吉な言葉に私は顔を顰めた。一瞬幻聴かと思い耳を叩いてみたのだけれどそうでもないようで、ローエンは私の糸もたやすく手を放すと嬉しそうに青年に駆け寄った。犬、みたいに。無いはずのしっぽがパタパタと揺れている気がして思わず目を擦ってしまう。



 何となく。何となくだけど。兄――言われてみればよく似ている。その髪も顔立ちも。黙っていればきれいな少年なのだ。ローエルは。



「変わりはないようですね。けれど、女の子を困らせるのはどうかと思いますが。それに、オーエンの妹ですよ? いくらローエルと言え闇に葬られますよ? ね?」



 弟の頭を乱暴に掻きむしりながら『ね?』と愉しそうに言われても。本気でそんな事をしそうな兄様だから笑えない。私は些か引き攣った笑みを浮かべ曖昧に『はぁ』と返すしかなかった。



「問題ないって! なんせ『選ばれた者』なんだから、なっ? というか、やっぱりオーエンって『悪いやつ』なんだな?」



 『やっぱり』って何だろう。どうやら倒すべき存在として認定されたらしい。兄様は魔王――ある意味そうだけど――か何かでは無いのだけれど。目をキラキラさせながら『そうなれば特訓だよな!』と言っている彼に突っ込む気にもなれなかった。ただその横で温かく笑顔を浮かべているソルト様には『さすが家族』と思ったけれど。



「許してやって下さいね? あれは昔から友達が出来なくて、ずっと空想で遊んで来たもんですから」



 ため息一つ落としてからソルト様は静かに言葉を紡いだ。



「――はぁ。でもどうしてここに? この人を探してですか?」



 私はローエルに視線を移すが彼は相変わらず『夢の中』だ。友達がいなかったら『ああ』なるわけでもないだろう。実際私は友達がいなかったけれど――ああ。悲しくなってきた。



「ええ。今日も授業をさぼったようで先生に泣きつかれまして。時間が出来ましたし。……どうせここで寝ているなと踏んできました――」



 今日も……『も』と言う事は、いつも授業をさぼっているのだろうか。先生が泣くほどって――どれだけなのだろう。



「でも、まぁ。特訓ぐらいは付き合ってくださると助かります。私は見てやれないもので。なに、所詮子供の遊びですから気にすることはありませんよ」



「ええと。でも――勉強が」



「だめですか? 勉強なら後で私が手伝いますので。いくらでも」



 覗き込まれて、私は変な汗が背中に浮くのを感じた。否とは言い難い雰囲気とその美貌のためだ。真っ白になりつつある私の頭。それを呼び戻すかのように脳天から声が響いた。



「だめ」



 不意に、グイッと引き寄せられる身体。私はバランスを崩したが背に何かあるようで倒れることはなかった。少し日焼けした腕が私の首元に回されて――私は抱きすくめられるような形になってしまっていた。



 だからと言って何もないのだけれど。



「兄様?」



 ソルト様の後ろにある扉は一ミリも開いていない。そんな気配さえしなかった。どこをどうやって来たのか。考えていると私の視界の隅。頭を動かさなければ気づくことも無かっただろう開き切った窓がある。そこから少しだけ冷たような風が流れ込み、パラパラと本のページが捲れている。



 まさか。



 ソルト様とは正反対の黒い髪が私の頬にかかる。見上げる先。人形のように整った顔立ちの少年は柔らかく微少を浮かべていた。



 到底ここ――三階にある図書館へ窓から入って来たとは思えない。だかそれしか考えられなかった。



「心配しましたよ。ライラ――図書館行くなら行くって言ってくれないと」



 いや、あの――その前に兄様自体が居なかったし、いつ帰って来るか不明な上、寮も離れている。第一そんな義務などどこにもない。理不尽だ。と言いたかったがなぜか言えない自分が悲しい。思わず口許から『ゴメンナサイ』が漏れてしまう。



 それを見て兄様は満足したかのように私の頭を優しく撫でてくれた。



「存外、早かったですね? あの大量雑務をすべて? デリフィスはどうしました?」



 ソルト様は『こいつがオーエンか! 』と叫んで殴りかかろうとしている弟を小脇に抱え何事も無いようににこりと微笑んだ。何か刺さるような笑顔なのは兄様と言いは勝負なのかもしれない。



 それにしても口を押えられて顔を真っ赤にしているローエルは大丈夫だろうか。

似たもの同士。この二人書き分けが難しい…一人称で分けてます。

若干兄様の言葉使いが荒いかな?

ソルト→私

兄様→僕

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