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蛙のお姫様【仮】  作者: stenn
一章
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赤目

「……ええと?」



 起こした方がいいのだろうか。思わず辺りを見回すが誰もいない。居るのは気持ちよさそうに規則的な息を立てている少年と私だ。



「あのぅ?」



 ここには教師も当然来る。当然だけれど机は眠るところではない。怒られれば可哀想だし何よりも足を私が踏み入れたと知れれば、なぜか私も同じように怒られる気がする。と言う事であまり人に話しかけるのは得意で無かったけれど私は彼を起こすことにしてみた。



「えっと。あの?」



 長い睫。私と同じ歳――だろうか。幼さの残るものの整った顔立ち。ふわふわと柔らかそうな蜜色の髪。目立つ容貌だったが私は学院にこんな少年が居ることを知らなかった。少しは女子――きれいな人好きのリュートが主――の噂になってもおかしくないのだけれど。ついでにリュートは兄様の事は一切口にしない。学園一、二を争う程に秀麗な顔を持っている兄だったがあまりにも中身が中身なので口にしたくはなさそうだった。――と言う事は。嫌な予感を覚えて少し顔を引き攣らせた。放っておいた方が身のためのような気が――。



 刹那。少年が勢いよく身体を起こした。それは今まで眠っていたとは思えないほどの機敏振りに私は弾けるようにして思わず小さく悲鳴を上げて離れた。



「『無限斬昇華!』」



 分けの分からないことを叫んで謎の間ポーズだ。まずい。リュートがわざわざ『触れなかった』方の人だ。



 くくくっ。と邪悪な笑みを浮かべている少年に見つからないようにして私は腰を低く低くしてその場を離れようとしたのだけれどもう遅かったようだ。



「どう? 俺の新技?」



「……」



 覗き込まれて心臓が止まるかと思った。もう――いろいろな意味で。彼は満足そうに笑うと私から離れ、身振り手振りで決めポーズ――多分――の試行錯誤を行っている。



 私から言わせれば『痛い』の一言に尽きた。



 関わりたくはない。であるので意識を若干遠のかせながら生暖かい目で見ていると彼はぱっと明かりが灯ったように笑って私を見る。



「こっちがいいかな? それともこっちか? あんたは、どう……」



 言葉を切って彼は驚いた様に大きな目をさらに大きく見開いた。いや、それを言うのであれば私も驚いたのだけれど。



 彼の目が『緋色』だったためだ。しかも両眼ではない。右目が赤、左目が兄様たちと同じ『漆黒』だった。ただし右目が私みたいに目自体が光を放っているというわけではなさそうだ。



 しかし、まぁ。彼の容姿も手伝って彼の存在自体派手に見えた。



「――っ、すげぇ!」



 長い睫を似三度瞬くと彼は身を乗り出して私の手を握った。その目には嬉々とした光が浮かんでいる。



「お前も『選ばれた者』なのか?」



「は?」



「俺たち赤目には選ばれた使命があんだよ――この世界にはびこる悪を倒して、ヒーローになるんだ!」



 何を言っているんだろう。不可解だ。というより理解したくも無かった。私は引き攣った顔を浮かべていたが彼はそれに気づくことも無く言葉を続ける。



「その目にはさ、スゲー力が封印されているんだぜ? 解放の力は俺は知らねぇけど、いつか見つかるって信じてるんだ!」



 絶対何かの病気だ。キラキラしている双眸はどこかに違う世界に向いていた。きっと異世界だろう。そうに違いない。



 考えているとぐっと彼が私の手を引っ張って移動しようとした。ぐらりと揺れる身体。倒れこみそうになり、慌てて体制を立て直す。



「そうとなれば、特訓しようぜ?」



「は?」



 白い歯が夕日に照らされた。まるで何だろう。何かの物語に出てくる主人公のようにかっこよく見えるが残念すぎる。



 彼は私をどこかに連れて行こうと試みたけれど、私は慌ててその手を振りほどいた。

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