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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
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白銀の踊り子

作者: kiyama

 輝く銀色の髪、透き通るような白磁の肌に桜貝のように可憐な爪をつけたしなやかな手、筋肉の固さを感じさせない細い手足。白灰色のローブは彼らに課せられた制服で、エメラルドの瞳だけが唯一の色のように色彩の乏しい人だった。

 戦況はあまり芳しくはなく、国境を守る砦が奪い合われる状態にあった。戦うことのできない女子供と高齢者は王都付近の仮設施設に避難しているが、戦が長引けば今年と来年の収穫に確実に影響する。農地を避けているとはいえ、働き手が戦に駆り出されていれば耕す者がいないのだ。

 国王は実に好戦的な性格で随分と世間知らずでもあった。反戦派の産業担当大臣を朝儀から締め出し、耳障りの良い言葉を聞かせる軍務担当大臣を宰相に取り上げた。元宰相は高齢を理由に更迭され持領にて隠居の状態だ。

 唯一の救いは父王の命令を諾々と聞きつつも全権委任されて戦場最前線を仕切る王太子の人望だろう。戦地に近い住居に住む国民を疎開させたのも無理な戦術を避けて兵の無駄死にを極力減らそうと策略を練るのも王太子で、そんな司令官を戴いた誇りから厳しい戦況ながら兵の士気は高い。

 その王太子の傍らに数日前から侍っている魔術師が、冒頭の人物だ。光こぼれるような麗しい美貌を隠すことなく王太子のそばにあって、時おり王太子と意見を戦わせている様子が伺える。

 現在我が国の軍勢は国境近くのバネッセ平原に陣を構え、敵国軍勢と互いに睨み合っている状態にあった。いい加減に決着を付けたいのは両国とも共通なのだ。そろそろ米の収穫期に入る。軍を構成する兵士の大半は戦争のために徴用された農民だ。いつまでもこの場に留めておくのはあからさまな愚策だった。

 敵軍から一張りの幕で隠された陣内で周りの将兵をハラハラさせながら話しあっていた王太子と魔術師だったが、やがて何やら苛立った様子で魔術師が踵を返し軍幕を出ていった。さらに慌てたように王太子も追いかけていって、魔術師の腕を取ったかと思えば背中からその華奢な肢体を抱き締めていた。その体勢のままで王太子が周囲の臣下へ指示を飛ばす。まだ待機命令のためただ見ているしかない兵士たちは揃って唖然とした表情だ。

 やがて軍幕から伝令が走る。総攻撃用意。ついで、法螺貝が吹き鳴らされた。

 法螺貝の余韻がおさまった直後だった。


 ……シャン……


 大音量直後の妙に静まった空気を高らかに研ぎ澄ます鈴の涼しげな音。


 ……シャン……


 それは、先ほどの魔術師の手元から聞こえるものだった。旅芸人の踊り子が使う鈴飾り。両手両足をしなやかに使い華麗に優雅に舞い踊る。

 やがて敵国軍勢がざわめき始めた。それは、踊る死神と評され我が国に敵対する諸国から恐れられる存在を彷彿とさせたのかもしれない。

 反対に我が国では尊敬をこめて呼ばれる。白銀の踊り子、レイシス・エメラ・ランデルディア。誇り高きランデルディア王国王太子妃の御名だ。

 王太子の妃に対する溺愛ぶりは国民に広く知られている。今回の戦もおそらくは王城にて留守を任せていたのだろう。それを、帰りの遅い王太子を追って妃も数日前に来ていたのに違いない。かの王太子妃とて婚姻されるより以前は魔術師の一員として最前線に派兵されていたのだから躊躇する理由は彼にはない。

 魔術師が最も無防備なのは呪文の詠唱時。それは舞いによって魔方陣を描く彼にも当てはまる。そう判断されたのだろう。先手必勝とばかりに敵国軍勢より放たれた矢が雨のように襲い掛かる。これに対し、我が国軍各班長は合図もなく声を揃えた。

「動くな!」

 舞いの途中としか思えない頭上への腕のひと振り。結界の傘が我が国軍前線頭上に広がり矢を跳ね返した。王太子妃は結界術と召還に長けた魔術師だ。逃げ惑って隊列を崩す必要はない。かの方がここにいる。信じるだけで良い。

 魔術師は個々それぞれに得意な分野がある。ある者は火や水、風などの属性魔術、ある者は治癒術、そして異界のモンスターを従える召還術に特定範囲に力を及ぼす結界術。そのうち難易度の高い結界術と召還術を習得した彼は、旅芸人の一座で生まれ育ち潜在魔力を見出だされたのが15才という異例の遅さ故に基礎訓練すらできなかった代わりに、生活のために習得した舞いの応用で空中に魔方陣を描く術を会得し一足飛びに上級魔術師に出世した変わり種だった。

 我が国の国民なら誰でも知っている王太子妃の異才。出自の卑しさ故に猛反対を受けての輿入れだったため、その御家騒動は当時の国民にとって最大の娯楽だったのだ。

 やがて、魔術師ならば誰でも着ている地味なローブを軽やかに揺らして一回りした妃が、一言声を発した。

「おいで」


 ゥオオオオオォン


 何もなかった我が国前線の平原に、王太子妃の美しい髪色を写したような白銀の鱗を持つ巨大な竜が現れ、地を割るほどの咆哮をあげた。

 次いで、踊っていた自らの妃を片腕で抱き上げ馬に載せて、王太子が抜き身の剣を真っ直ぐ天へと突き上げた。

「総員、突撃!」


 オオオオオッ


 人の雄叫びが草原に響き渡る。

 王太子に戦の女神ともいうべき王太子妃の加護があり、人が使役できるモンスターの中で最強を誇る竜が先陣を切る。負ける気がしない。

 王太子の馬から召還した竜の背に移動した王太子妃に見守られ、国軍一丸となって奮戦する。守護神のいる我が国に敵国が敵うはずはない。

 さぁ、早々に決着をつけ、畑に帰ろう。豊かな実りが我々の手を待っている。


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