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エピソード8 さりな

Episode8

登場人物

濱平 万里:主人公

西野 仁美:第6師団の大尉

南:かつての兵士1、兵士2の消息は不明

五行聖獣軍団の皆様


既に2人の間には、テーブルも、部屋も、 空間さえもが溶け失せていた。 濃密なモノクロの思考の中で、2人は一体だった。



万里/さりな:とうとうこの日が来たのね、嬉しいわ


貴方には伝えたい事が沢山有る、

でも、貴方に伝えられる事はたったの3つに限られているの。 貴方が持ち帰って良いヒントは3つだけ。


それがルール。



どうして、私は此処へ来たの?

私は朱雀を探していた筈なのに、それに…前に貴方に会おうとした時は会えなかったのに、どうして今私は此処に来る事が出来たの?


どうして、急に貴方の声が聞こえる様になったの?

貴方はいつも微笑むだけで、何も語ってはくれなかった、今になって、どうして貴方と話せる様になったの?


そもそも、どうして私は子供の頃から貴方の夢を見るの?

私と貴方には、昔から何か約束があるの? …何か有った様な気がするの。 貴方は、私にとって一体何なの?






貴方の疑問はもっともだわ、

でもそれは、伝えたい事の順番で言えば100番目とか200番目位ね。 だから私は貴方に別の事を語る事にしましょう。


先ず最初に、

この世界はヴィシュヌが書く物語だと言う事。

ヴィシュヌは数えきれない程多くのペルソナ(登場人物)から世界を見ている。 そうして世界を楽しんでいるの。 何も起こらない事、つまらない事がヴィシュヌにとって最も無価値。


夢中になって書いているうちは良いのだけれど、だんだん飽きてくると次の新しい物語を書きたくなるモノよ。 そうして彼は、数えくれないくらい沢山の物語を繰り返し書き続けているの。


ひとつの物語が終わる時、ひとつの世界が滅びるわ。 彼はよりドラマチックな終焉を楽しもうとするから、ある者にとってそれは粛正であり悪の掃討の様にも見える。 しかしそれは悲しい事ではないわ。 直ぐに又 彼は世界という物語を書き始める。 そうして失われた全ては再現し、滅んだペルソナ達も新しい世界で復活する事が出来る。 悪も悲しみも全てが役割であり、何一つ不必要なモノは無いから同じ様に復活する。 それが輪廻転生という事。



世界の滅亡は避けられないと言う事なの?

死んだ後、私達はどうなるの?

魂は、…あるの?






とても心配よね、でもそれは直ぐに解る事だわ、だから二つ目には別の事を伝えましょう。


それは、全ての時間は同時に存在していると言う事

本のページを好きな所からめくる事が出来るのと同じ様に、人はどれでも好きな時間を読み取る事が出来るのよ。 最初のページも、最後のページも同時に存在しているの。 視線を変えれば別の景色が見えるのと同じ様に、別の方向を向けば別の時間を知る事が出来る。 でも必ずしも二つの時間が連続している訳ではない。


常に人は自分が検索している今という瞬間の時間だけを感じていて、それ以外の時間は記憶とか予測とか曖昧な物としてしか認識していない。 時間に連続性があると感じるのはただの錯覚。 ただし異なる時間が互いに影響を及ぼし合う事はできるわ。


ヴィシュヌの興味は、様々ある時間を干渉し合わせて、 物語をより面白くする事よ。 ひとつの物語に飽きたら再び書き直す。 世界を再構築するとはつまりそういう事なの。



それは、どういう意味なの? 私達にとって大切な事なの?

あなたは、何故そんな事を伝えようとするの? 貴方はここで一体何をやっているの? 私は東京で貴方の身体に会ったわ、何故貴方はずっと眠ったままなの? それに貴方の娘だという子にも会った。 自分の人生とか、家族を置き去りにして迄、どうして貴方は此処で囚われたままでいるの? それはもしかして「神の戦争」を必死に生き延びようとしている人達にとって重要な事なの?






貴方は本当に聡明な子。

だから、私は貴方に三つ目のヒントを預けたいの。


それは、私と貴方の役割。 

ヴィシュヌの書く物語はとても完璧だわ、正確な化学反応が正しい結果を生成するのと同じ様に、彼の物語はいつも同じ結末を迎える。 私達ペルソナ(登場人物)は無限の可能性の組み合わせを経ても、いつも大体同じ様な運命を辿るわ。 もちろん全く同じ姿、同じ境遇で居るとは限らないけれどもね。 つまりそれがカルマ。


だから、何度書き直しても貴方は物語の最後の方のページで同じ様な目に会っている訳なの。 しかも、数千年の手順を踏む休息の時は必要ない。 例えばそれは、今迄にヴィシュヌが書いた物語を本にして並べて行ったとすると、次から次へとどの本を手に取っても、最後の方のページだけめくれば、いつも貴方は同じ目に会っている訳なの。


これって、つまらないと思わない?


私は此処に居てヴィシュヌの独り言に耳を傾け、ラストシーンを書き換える様に説得してきた。「つまらない」って言葉はヴィシュヌの心を動かすのに十分な効力を持っていたわ。 そうしてとうとう彼は、私達ペルソナ(登場人物)に物語の結末を変えるチャンスをくれたの。 言ってみればネタに詰まった作家が登場人物に展開を委ねた訳ね。


ヴィシュヌは、世界を変える力を私達に貸してくれたわ、それが青龍の力。 貴方の役目は、青龍を使ってこの物語のラストシーンを書き換える事よ。 


どう? 楽しいでしょ?



物語を書き換えるって? どうやれば良いの?

それに貴方は、それで良いの? こんな所に閉じ込められたままで良いの? 本当は、貴方が一番次のページを読みたかったんじゃないの?



もう、お別れのシーンが来たわ。

私は私の役目を果たせればそれで満足よ。 それに、私も貴方もペルソナ(仮面)に過ぎないわ、仮面の後ろから覗いているのは同じヴィシュヌだもの。


最後に一つだけバラしちゃおうかな。

あの子は、私の娘じゃないの。

じゃあね!







万里:「じゃあね、じゃ無いだろ!」


香澄:「い、きなり…なに突っ込んでるの…かな?」


気がつくと私は寝ぼけて叫んでいた体…、周りの皆は一瞬ひくついていた体、



伊織:「それで、池内さんは見つかったんですか?」

万里:「いや、それが…まだ。 あっ…」


ツインテールの少女が私の口元を拭いてくれる。

何だか涎が凄い状態だったらしい…



香澄:「うまく行かないものね。 それで、一体誰と交信してたの?」

万里:「「さりな」…。」


一同、一瞬で凍り付く。






「さりな」との交信のあらましを皆に伝える。

流石にそうは言っても、最後のカミングアウトだけは伝えられなかった。 何時か打ち明ける時が来るかも知れないけれど、今は止めておく事にする。



流石の源香澄も、どう反応して良い物か悩んでいるらしい。


香澄:「世界を作り替えるって言ってもね…」



私、改めてゴスロリ少女をしげしげ眺める。

見れば見るほど「さりな」とそっくりだ。 なのに娘じゃないってどういう事?



優美:「要するに世界は滅びる事になっていたのだから、世界を滅ぼさない様にすれば言い訳でしょう。」


伊織:「どうせなら、もっと楽しい世界に作り替えたいな。」

碧:「例えば?」


伊織:「具体的にどうかと言われても、直ぐには…」


源香澄が、背後から伊織に覆い被さる。


香澄:「あら、伊織は今のこの状況に何か不満が有るのかな?」


女性陣の視線が伊織に集まる。



万里:何故に、こんなヒラメ顔がハーレム状態?

万里:もしかしてナニが凄いのか??


私、ついつい妄想する。




突然、携帯の着信音。


碧:「携帯、復旧したんだ?」



香澄、徐にスマホを取り出す。


香澄:「…池内だ…。」


スピーカーに切り替える。



瑠奈:「もしもしぃ、香澄ちゃん? 聞こえるぅ?」

香澄:「今何処に居るの?」


瑠奈:「大変だったのよぉ!色々と。 でも日本の技術って凄いよねぇ…」

香澄:「「箒」は無事なの?」


瑠奈:「車は水没しちゃうしさ、服はびちょびちょになっちゃうしぃ、あっ、でもそれは朱雀が乾かしてくれたから良かったんだけど…」


香澄:「ええぃ、朱雀に替わって!」

瑠奈:「ええとぉ、 無理じゃないかなぁ、この子電話なんか出来ないって。」


香澄、溜息



香澄:「…人恋しいのは解ったから、とにかく居場所を教えて、直ぐに迎えをよこすから。」


瑠奈:「えーっとねえ、箱根かな? 温泉、天?…何だっけ?? とにかく親切な人に連れて来てもらったの。 ご飯迄ごちそうになっちゃった。」


香澄:「温泉だぁ?」




西野:「ここから箱根湯本までの交通は未だ麻痺状態です。」


かくして池内瑠奈救出作戦が発動する。



香澄:「伊織の時みたいにヘリは飛ばせないの?」


西野:「上空に超常現象が発生していて未だ状況がつかめていません。 これ迄に5機の自衛隊ヘリが帰還不能になっています。 空の輸送は危険かと思われます。」


香澄:「帰還不能って…どういう事?」

西野:「どうやら、空に捉えられてしまう様です。 一定高度を超えて上昇すると、降りて来られなくなってしまうという現象が発生しています。」


モニターに映像が映し出される。

サーチライトに照らし出されたヘリコプターは、空中に宙刷りになっている様に浮かんでいた、プロペラは…止まったままだ。


南:「高度500mの映像です。」



万里:「低く飛べば良いんでしょ。」

西野:「少なくとも高層ビルよりも低い高度であれば安全かと思われます。」


万里:「フライングシューズなら、行けるかもしれない。」

香澄:「例の、空飛ぶスクーターか、」



香澄:「行ってくれるの?」

万里:「貴方達には色々助けてもらったからね、一つくらい借りを返して置くわ。 もともと、あの箒は私のだしね。」


香澄:「ありがとう。」

西野:「格納庫に案内します。」


第6師団の恥ずかしい防寒着を貸してもらう…。

目的地のアドレスと、池内瑠奈の携帯の連絡先のメモを受け取る。



優美:「ちょっと待って、もしかして戻れなくなってしまう前に聞いておきたいの。」


嫌な事を言う子だ…


優美:「「さりな」は、他に何か言っていなかった?」


多分、母親が自分の事について何か言っていなかったか気になるのだろう。 でも…



万里:「…残念だけど、さっき話したので全部。」

優美:「…そう。」


ちょっと、可哀想かな…

自分が難波優美の立場だったら、可哀想かも知れない。


だから、私にも確かめておきたい事が会った。



万里:「それより、 貴方…どうして室戸さんを殺したの? 彼は仲間だったんじゃなかったの?」


優美:「元々室戸は私が坂本の命令に逆らった時に私を止める為の見張りだったのよ。」


万里:「坂本の命令って?」

優美:「香澄を殺して暴走を止める事。」



万里:「そう…。」




やっぱり…自分が難波優美の立場だったら、可哀想かも知れない。


戻って来たら、

…もう少しこの子の事、優しくしてあげようかな。

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