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エピソード7 家族

Episode7

登場人物

濱平 万里:主人公

度会 海斗:燃え尽き中


いつの間にか、海斗に寄り添いながら私は眠ってしまっていたらしい。


窓の外はすっかり暗くなっていた。

何だか随分暫くぶりに、ぐっすり休んだ気がする。



改めて傍らの少年を見る。 今は眠っている様だった。


この少年は、一体何に苦悩し何処迄を放棄しているのだろう。 このままいつまでも赤ん坊の様にただ目を覚ましては、ただ眠るだけなのだろうか。


それともこの前みたいに口づけを交わせば正気を取り戻してくれるのだろうか。


そもそも私の知っているカイトは、本当の、正気の海斗だったのだろうか? 

私はもしかすると実在しない人間の帰りを待ち続けているのではないだろうか?




気がつくと、傍に源香澄が立っていた。


香澄:「ごめんなさい、驚かせてしまったかしら。」


万里:「私、寝ちゃってたみたい。」

香澄:「無理も無いわ、疲れているのだから、」


珍しく源がねぎらいの言葉をかけて来た…



香澄:「海斗、戻ったのね。」

万里:「はい、でも 、全然反応しないです。」


香澄:「忘れていた記憶を取り戻して、自分の犯した過ちの重さを受け止めきれずに居るっていう訳ね。」


万里:「どうしてその事を?」

香澄:「悪いけど、山猫との会話は聞かせてもらったわ。」




香澄:「ちょっとお願いしたい事があるんだけど、良いかな。」




作戦室に戻ると、そこはすっかり雰囲気が変わってしまっていた。 何時の間にやら人が増えている。 加地伊織、難波優美、舘野涼子、吾妻碧。 会議テーブルの一角を占領して何故だかカレーを食べている。


やはり、このモノ達にとって「死」というものは絶対的なイベントではないらしい。



伊織:「お前の家は参道を登った所だから、水は来てないだろう?」


碧:「私、家族と喧嘩したきり家出して来ちゃって、無事で居る事も連絡出来てないのよ。 きっとみんな心配してると思うのよね、あんな親だけどさ、何か申し訳なくって…」


碧:「あんたは心配じゃ無いの? 完璧水没地域のど真ん中じゃん。」

伊織:「心配しない訳じゃないけど、今はそれどころじゃないっていうか。」



どうやら、家族の事を話しているらしかった。

おばあちゃん、そう言えば祖母はどうなったのだろう? 寺西は無事だったろうか? 大阪もかなりの範囲が水に沈んだと聞いた。


結局私も「それどころじゃない」のだろうか、それとも家族なんてどうでも良いって、思っているのだろうか。 もしも、祖母の身に何か良くない事が遭ったとしたら…私は本当に涙を流すだろうか。


一瞬、怖い考えに囚われてぞっとする。




香澄:「皆、ちょっと良いかな、濱平さんに来てもらったの。」

濱平:「こんにちは、…こんばんはかな?」



皆の反応が、…なんか冷たい気がする。


私、何か悪い事したかな?



シロ:「皆の心の中を勝手にのぞいたのだ。」


私:そう言う事? そう言う事になってる訳???




優美:「まあ、良いわ…きちんと約束さえ守ればね。」


ゴスロリ美少女の視線が…怖い。



伊織:「約束って?」

優美:「たいした事じゃないわ、単なる社交辞令よ。」



香澄:「実は、その心を覗く能力なんだけど…」


一同の視線が…キツい!


私、だって私、源に頼まれてやったのよぉ…



香澄:「…濱平さん、池内瑠奈を探して欲しいのよ。 できれば早い内に合流したい。」



万里:「あの、刑事さんですか。」


香澄:「彼女は「聖なる槍」を取りに行ってるのだけど、どうやらあれは聖獣にとって致命的なモノの様ね。 完全体で無い間はどうって事ないミタイだけど、ついさっきまで彼女は朱雀の完全体になっていた。 あの朱雀がしくじる様な事は無いと思うけど、…池内の方はちょっと心配なのよ。」


碧:「あの人頼りないからね…」



「聖なる槍」、あの赤い箒の事だ。

山猫は「聖獣を殺せる武器」だと言っていた。 どの道あれは必要になるのだろう。 源香澄も、その事は知っている。


万里:「判りました。」





西野:「あのぉ、何だか盛り上がってるところ大変恐縮なんですがぁ、一応ここ作戦室なので、ご飯は別の部屋で食べてもらっても良いですか?」


香澄、西野を睨みつける。


香澄:「良く聞こえなかったんだけど、…何か言ったかな?」


西野の顔から血の気が曳いて行く…



西野:「ひぃっ! ごめんなさい、ごめんなさい…アレだけは…勘弁して下さい。 此処でご飯食べてても良いですから…。」


伊織:「アレって?」


私も知りたい…




西野:「…と言う訳で、現状のまま作戦を続行! 南、状況を報告しろ!」


南=兵士1:「衛星からの通信混乱したままです。 軍事、民間、用途の如何に関わらず影響が出ている様です。 通信、誘導、観測等、現在衛星を利用した機能の90%がダウンしています。」


西野:「よくもまあ、次から次へと色々起こるわね。」


万里:「もしかして…これが、第三の角笛?」

優美:「人工衛星の軌道が強制的に変えられているみたいね。」



南:「有人宇宙ステーションからのSOS信号が来てます。」

南:「現在の周回高度、推定、10000m。」


南:「世界各地で、航空機の失踪事故発生しています。」

南:「全ての航行中の旅客機に緊急着陸命令が出ました。」



西野:「何が起きているのだ。」

南:「人工衛星が落ちて来ています。 それも引力に曳かれての自由落下では無い様です。 ゆっくりと、高度を下げて来てます。 既に人工衛星の周回高度が旅客機の飛行高度を下回っています。 通常の物理現象では説明出来ません。」


西野:「それは聞き飽きた、… 一体どうしろと言うのだ。」





香澄:「忙しそうだな…、西野は放っておいて本題に戻ろう。」


万里:えぇ〜っ、これって本題じゃないんですかぁ??



伊織:「涼子、おかわり有る?」


ツインテールの少女が無言でカレー皿を受け取る。






香澄:「と言う訳で、よろしく頼む。」

香澄:「池内の事に興味が湧く様に幾つかキーワードを教えておこう。」

万里:「はい。」


香澄:「アイツは隠れナルシストだ、自分の事が可愛いと思っているくせにそれに気付かないフリをしている。」

万里:「確かに、あんなにアユアユに似てるのに、アユアユに全く興味が無いって言うのは何だか不自然だと思ってました。」


香澄:「それと極度のムッツリだ、普段はまじめぶっているが中身は相当の淫乱で、時々欲求不満が爆発して犯罪を犯す。」

万里:「警察なのに、…犯罪ですか…」


香澄:「更に、M属性で虐められると喜ぶ。 最終的に自らスカトロで辱められる展開に持って行こうとする。」

万里:「もう、人間的に大変な事になっていますね。」



碧:「なんだか、散々な言われようね…。」

優美:「改めて、香澄には注意が必要だわ…。」

涼子:「…。」






いきなり、パラグライダーで引き摺り上げられた様に私が飛翔する。

万里:「えっ、何? これ?」


風を切って、夜の空を飛んでいる。

窓の外に、街の灯りが見える。



そうだよ、

これは、彼の心、とある人工衛星乗りの心



既に最悪の事態は覚悟した。

肉眼で見える距離に他の人工衛星やらスペースデブリが浮かんでいる。 もはや何時衝突しても不思議ではない。



最初は、落下による消滅を予想した。


何らかのシステム異常により姿勢制御を失い、周回軌道を外れて大気圏内に落下、当然この宇宙ステーションには大気圏突入能力等ない。 大気との摩擦であっという間に燃え尽きてしまう筈だった。



男:「リチャード、僕の遺書は家族に届くだろうか。」

リチャード:「私達の心は、ちゃんと家族に届くさ。 どんなに離れていたとしてもね。」


男:「ほら、アレが僕の生まれた街だ。 あの灯りの下に懐かしい人達がいる。 今は22時過ぎだから、食事の後の団らんを楽しんでいるだろうか。」

リチャード:「できれば、私達の所為で君の故郷に災いが及ばない事を祈ろう。」


男:「ありがとう。」






私の心は再び空に解放される。



そうだよ、

これは、とある飛行機乗りの心



国に残して来た娘の事が頭を離れない。


奇跡でも起きない限り、指定の滑走路に辿り着く事は不可能だろう。

あまりにも多くの障害物が、旅客機の針路を妨げている。

そして、そんな事よりも、


副操縦士:「乗客が異常事態に気付き始めています。」


男:「彼らを無事に地上に送り届ける事が我々の使命だ。」

副操縦士:「解っています。」


男:「地上の家族達を危険に曝す訳には行かない。」

副操縦士:「解っています。」



いまや、この旅客機は航行の自由を奪われていた。

まるで蜘蛛の巣に掛かった虫か、水飴に落ちた魚の様だ。


副操縦士:「現在の速度、時速150kmまで下がりました 。」

男:「失速速度の半分か、物理の教科書を書き換えないといけないな。」


副操縦士:「我々は既に、元いた場所(現世)を離れているのでしょうか?」


男:「解らない、たとえそうだったとしても…彼らの魂だけは地上に還してやりたい。 このまま家族と離れ離れのまま旅立つのは、寂しすぎる。」

副操縦士:「解っています。」



もう一度、娘に会いたい。






そして、その男はテルミニ駅に居た。


そうだよ、

これは、パパの心だ



昼下がりのローマ、

人々は時折思い出したかの様に空を見上げている。 俺は、人生で最後の空気を吸い込むかの様にマルボロを肺の奥に沈殿させる。


街は救いを求める人間達でごった返していた。

なのに、絶望は此処まで追いかけて来たらしい。


そういや、俺も救いを求めてここへ来たんだっけ。

いやそうじゃなかった、あの日俺はあいつらの元へ帰る事を止めたのだ。


何から逃げたかったのだろう? 何が俺を引き止めたのだろう?


俺は常に先を求めた。 上を求めた。 底を求めた。

挑戦する事が、生きている実感だった。


生き甲斐を失った生活では俺は壊れてしまうに違いなかったから。 俺は、束縛を振り切って、自分が自由だと信じる束の間の安住へ逃れて来たのだ。



結局、此処でも俺は何一つ手に入れられなかった。

俺の選択は間違っていたのだろうか。


何が挑戦だ!


後悔はしていない。 後悔はしたくない。



でもまさか、娘に会うなんてな。

つい先日偶然再開した娘の姿が俺の瞼を滲ませる。


大きくなってた。

今、傍にいて、護ってやれない事は、…辛い。

でも、それも俺の勝手な感傷に決まっている。



了:「神様、これは俺への罰なのか?」






そして一気に、私は堕ちて行く。


そこは、見覚えの有る風景だった。



そうだよ、

これは、私の夢の中の風景だ。



ここには、「さりな」が居るはず。


辿り慣れた道を進む。 まるで空を飛ぶ様だ。

やがて、一瞬で、私はその塔に辿り着く。



レンガを積み重ねて作られた塔、木で出来た大きな扉、中には小さなテーブルと、椅子に腰掛ける少女が居る。



とても幻想的な少女。  アンティーク人形の様な面立ち。 ウェイブした長い髪。 大きな瞳、長い睫、透き通るように白い小顔。



少女は優しく微笑みかける。


さりな:「これは罰ではないのよ。 」





万里:「「さりな」、私…貴方の声が聞こえるわ。」



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