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エピソード6 山猫

Episode6

登場人物

濱平 万里:主人公

西野 仁美:第六師団 大尉

山猫:謎の科学者?


生きている。


自分が呼吸している事を確かめる。 頭に触れてみる。 そこにはちゃんといつも通りの顔が有る。


そう言えばつい先日スコルという北欧の怪人に顔を潰された事を思い出す。 


ふと我に帰ると見慣れない風景、


万里:何処だろう、ここ…


つい先日、見知らぬそろばん塾で目を覚ました事を思い出す。 いや違う…私の目の前に有るのは事務用の椅子の脚だった。 どうりで見慣れない訳だ…。



私は、いつの間にか床に倒れていたらしい。 頭にはクッションが当てられていた。 起き上がると、お竜が直ぐ傍の床に座り込んでいた。


お竜:「大丈夫ですか?」



思いっきり深呼吸して肺の空気を入れ替える。


万里:「大丈夫、私は…、でも伊織さんが、殺されたかも知れない…。」


なのに、お竜は驚く程素っ気ない。


お竜:「大丈夫ですよ、伊織さんなら。」



…心配したりしないのだろうか?




兵士1:「メタン風船の縮小止まりました。 海水面は5m後退しました。」

西野:「膨らんでも萎んでも心配な代物だな、メタンの流出は見られないか?」


兵士1:「今の処どこからも報告されていません。」

西野:「この化物による被害は?」


兵士1:「直接的には海面上昇による沿岸地域の壊滅的な損壊、都市機能の麻痺と人的被害も膨大です。 詳細な被災者数、損害額はまだ報告されていません。」


兵士1:「後、海洋循環の阻害に伴う被害が出始めているようです。 海面温度の変化が著しく、エルニーニョに似た傾向が出始めています。 既に中部太平洋の気圧低下が正常値を超えています。」


西野:「やれやれ、此処へ来てキリスト(エルニーニョ)の登場か…」




その時、 作戦室に女が入ってきた。

制服じゃない女? 西野と何か話をしている。


やがて西野が私の元へ近づいて来る。


西野:「立てますか?」

万里:「ええ、」


西野:「ちょっと相談したい事が有るので、私と一緒に来てもらえますか?」

万里:「1人で…ですか?」


西野:「手間は取らせません。」


お竜がちらりと西野の視線を盗み見する。

話なら此処ですれば良いのに…それともお竜に聞かれては困る様な話なのだろうか?


万里:「良いですよ、」




兵士1:「ヘリポート、白虎、着陸します。」


モニターに管制塔からの監視画像が映し出される。


万里:「シロ?」



ゴスロリの女の子が、何かの残骸をぶら下げながら飛んで来て、Hマークの上に降り立った。


一瞬不燃ゴミの様に見えたモノは…何本もの鉄塊でメッタ刺しにされた、室戸?


どうやら五行聖獣軍団は此処に集結するらしい。





西野について建屋の中を歩き回る…終止無言のままだ。 だからといってこちらから話題を振る様な気分にもならない。



やがて、別の建屋の会議室の様な部屋に通される。



そこには、1人の女? いやオネエ…所謂ニューハーフが待っていた。 派手な衣装に濃い化粧で紙コップのコーヒーを飲んでいる。 その中指と薬指がぎこちない…。 上手く曲げられないらしい。


万里:「はっ!」


いきなり西野が敬礼する。


オネエ、したり顔で私を値踏みする。

私、ツカツカ近づいて行って…


オネエ:「初めまして、私がや…」


…いきなりオネエをぶん殴る!


オネエ:「ちょ!」


…もう一発ぶん殴る!


オネエ:「…まち!」


…さらにもう一発ぶん殴る!



オネエ:「なによ、アンタいきなり! 人の事なんだと思ってるの! 全く、失礼しちゃうわね!」


オネエ、立ち上がって捲し立てる!


万里:「それはこっちの台詞よ! よくも私の前に顔出せたもんね!」


コイツが…山猫だ、



山猫:「暴力反対! これだからガキは嫌だわ!」

万里:「その台詞、どの口が言うか! 大体なによその喋り方?」


山猫:「カラオケとおんなじよぉ! マイク持つと変わるのよ!」



もう一発殴ってやろうかと近づいて…、山猫がびくっと怯んだので敢えて殴るのを中止する。


万里:「…何しにきたのよ。」


山猫:「お届けモノよ、アンタがここに居るって聞いたから。 一度アンタには直に会っておきたかったのよね。


万里:「なんで私だけ呼び出した訳? 源とか、あんたに因縁ありそうな連中もいるんだから、会って行けば?」


わざと、嫌がらせを言ってみる。



山猫:「嫌よ、あんな人外の連中とかかわるのは真っ平ごめんだわ!」

万里:「実際に付き合ってみると、そんなに変な人達じゃないわよ。」

山猫:「人じゃないわ!」


山猫の目が、恐怖と憎悪で妖しい光を放つ…



山猫:「いい事! アイツらと私達人間の違いを認識しなさい。」

山猫:「私達人間は、…宗教如何に関わらずどこか心の底で魂の存在を信じてる。 個々の肉体に宿る、より価値の高いアイデンティティを信じているわ。 そして、それが評価される事を信じている。」


山猫:「アイツらにはそんな感傷はないわ、肉体も人格も単なる機械と化学反応くらいにしか考えていない。 そんな連中とは死んでも馴れ合えないわ!」


震えながら、椅子に腰を下ろす。

コイツにも何かトラウマがあるのだろうか…



万里:「何だか、言ってる事とやってる事がまるっきり逆みたいね。 あんたのやってる事だって滅茶苦茶非人道的じゃない。 海斗にしたことをよく思い出してみなさいよ!」


山猫は意外そうな表情で私を見つめ返す。


山猫:「アンタ、何言ってるの? …いい事、彼ら殉教者の魂はその犠牲の行為によってより高次元へと昇華されるのよ。」


万里:はぁ?????????


万里:「一瞬でもあんたとまともに話しようって思った私が馬鹿だったわ。」



私、深い溜息…


万里:「それで、あんたがわざわざ姿を晒してまで持ってくるお届けものって何なの?」


山猫:「私達人類の最後の希望よ。」






医務室に横たえられていたのは、…海斗だった。



山猫:「意識は多分戻ってる。 でも何にもやる気が出ない状態みたいね。」


万里:「あんたの所為でしょ?」


山猫:「身体の方は最終調整を済ませておいたわ。 スコルに脳を破壊された時に記憶を制限する装置も一緒に破壊されたのだけど、それは戻さなかった。 彼はもう全ての記憶を取り戻しているはずよ。」



海斗は廃人の様に、虚ろに宙を見つめ続けていた。

無事だった事への喜び、胸を締め付けられる様な哀しみ、直ぐにでも抱きしめたいと思う愛おしさ、


色んな感情を、一旦は無理矢理 腹の奥に飲み込む。



万里:「あんたは海斗に一体何をさせたいわけ?」


山猫:「今回の「神の戦争」のラスボス、シヴァを倒してもらうわ。」

万里:「シヴァ?」


山猫:「シヴァは恐らく、第五の角笛がなった段階で姿を現す。 その時に、完全に戦う準備を整える前のシヴァを倒すのよ。」



私、わざと深い溜息…


万里:「第五の角笛? 封印の次は角笛なの? 一体なんなのよ。」


山猫:「神の戦争の開始を告げるファンファーレよ。 昨日世界中の核ミサイルが暴走したでしょ、あの時に観測されたEMPみたいなものよ。 あれが第一の角笛、」


山猫:「第二の角笛は、恐らく今海底を賑わせているあの「巨大ミミズ」が関係している。」


万里:「巨大ミミズ?」


山猫:「冷血蛇女のお陰で巨大ミミズが臨界点に達するのが遅れたみたいね、少しタイムテーブルがずれてきている。」


山猫:「そして次の第三の角笛は空からの異変、…アステロイドベルトから「ニガヨモギ」が召還された事は既に世界で観測されているわ。」


万里:「何よ、ニガヨモギって? お饅頭の一種?」

山猫:「アンタ聖書くらい読みなさい、世界のベストセラーよ!」




万里:「それで、…どうすればそのシヴァとかいうラスボスを倒せるのよ?」

山猫:「さあね、それが判れば苦労しないわ。 とにかく、聖獣を殺せる武器が何処まで通用するかが鍵ね。」


万里:「その武器って何処にあるの、私が変わりにやっつけてあげるわよ。」


山猫:「一つはこの間アンタに取って来てもらった「聖なる槍」よ、あれ、何処にあるの?」


万里:「さ、さあ…。」

山猫:「まさか無くしたりしてないでしょうね。」



私、目を逸らす。 あれは、池内とか言う刑事が今取りに行ってる所だ。


山猫:「もう一つは海斗の腕に装着した「トルコ石の蛇」よ。」

万里:「大体、何で海斗なのよ、他の誰かにやらせれば良いじゃない!」


山猫:「全く、信じらんない! こんな名誉な事、何でやりたがらない訳? アンタ何の為に生まれて来たのよ?」


万里:「私は平凡に暮らせてればそれで良いのよ。 もう二度と中二病には戻らないわ!」



山猫:「今更手を引こうなんて許されないわよ。 分かってるんでしょうね、嫌とは言わせないわよ!」


万里:「嫌よ! 嫌、嫌、嫌! 何度でも言ってやるわ、絶対にあんたの言いなりになるのは嫌よ!」

山猫の口がひん曲がる、


山猫:「…それなら、アンタに海斗を引き渡す理由なんて無いわね…。」


私、ギクリとする…

海斗と離ればなれになるのは…嫌だ。


私の口がつぐむ、



山猫:「フライングシューズも整備しておいたわ。」


見透かしたかの様に山猫が話を進める。


万里:「どうでもいいけど、あれ小さくって二人乗りきついんですけど。」

山猫:「つめれば良いじゃない。」





山猫、去り際…


山猫:「いいこと、」

山猫:「悔しいけど、人間の力じゃどうにもならない事は認めるわ。 五行の聖獣達を上手く手懐けて、利用するのが肝要。 奴らは私達にとってのジョーカーよ。 だから、アンタの力が必要なの、…頼んだわよ!」



どいつもこいつも、勝手に人の事をあてにスンナ!







1人医務室に引き返し…


…海斗に寄り添う。



何も喋らない…

…目を開けてはいるが、虚ろだ、



髪の毛に触れてみる…



…まるで抜け殻の様な少年を、溜まらずにそっと抱きしめる。



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