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エピソード4 難波 優美

Episode4

登場人物

濱平 万里:主人公

源 香澄:お竜


突然、

血にまみれた坂本総司の姿がモニターから消え失せる。 モニターは一瞬砂嵐になって、それから直ぐに「入力無」の青一色に切り替わった。



兵士1:「大規模な電波障害です。 正体不明。 太陽フレア、または人為的手段によるEMP(電磁パルス)に似ていますが、現時点で関連情報ありません。 強度は強くないですが、範囲は地球上全土に及んでいるようです。」


兵士2:「各国からの緊急通達です、一時的な電波障害の影響の為、確度70%のリスク情報です。 複数の国の核ミサイル発射施設が何者かのハッキングにより意図せずに核弾道兵器を発射しています。」


モニターに映像が復活する。


兵士1:「世界各国から提供された核ミサイルの発射状況、10秒遅れトレースで映します。 黄色い線がミサイルの予想航路、先端の赤い三角が最新位置を示します。 着弾後、爆発が確認された場合は被害想定地域を青い円で示します。」


兵士2:「ミサイルの発射源は、潜水艦、水上艦、航空機、大陸間 、人工衛星、その他小型の携帯型地対地、あらゆる種類に及んでいます。 発射国はほぼ全ての保有国及び、複数のNPT非加盟国を含みます。」



こういうの、映画とかで見た事有る。

テキパキとパソコンを操作する2人の兵士の半泣きの表情は、これがクールなフィクションではない事を如実に物語っていた。


万里:「なんか、大変な事が起きてるんでしょうか?」


香澄:「そうね、実は隠し持ってたとか、実は持ってるって言ってたのにブラフだったとか、条約を破って持ってちゃ行けないミサイル持ってたとか…諸々白日の下に曝されちゃって大変かもね。」



兵士1:「全発射総数の概算値でました。 189。」


香澄、口をとんがらせる。


香澄:「実際に即射できるミサイルって意外と少ないのね。」


兵士2:「公式発表による配備済み弾道ミサイル4400発、内、即射可能状態にある推定2000発の約10%が発射された計算です。 残る90%は物理的安全装置により誤射を免れた様です。」




まっぱで土下座していた女大尉が徐に話しだす。


西野:「あの、指揮に戻っても宜しいでしょうか、…ぶうぅ。」


緊急事態を前に、大尉の表情は覚悟をきめたそれになっている。



香澄:「良いわよ、でも今から貴方の制服は体操服とブルマにしてね。 ちゃんと胸の所に名前入りのゼッケンを付けるのよ。」


西野:「り、了解でぶぅう…。」



まっぱの女大尉が立ち上がる!


西野:「日本国内着弾地域と想定被害の割り出し急げ!…だぶうぅ、 着弾後の緊急支援物資と支援部隊の安全確保状況を自衛隊関係各所属に確認!…だぶうぅ、 友軍の対応状況について報告しろ。…だぶうぅ、」


西野:「後、誰か、ブルマ持って…くるんだぶうぅ!」



万里:「何か生き生きしてるなぁ…。」

香澄:「と言うより死にもの狂いなのよ。」


兵士1:「最短着弾時刻、でました。 後7分、東京です。」

兵士2:「イージスシステム作動中。」


ミサイル到達までの猶予は様々だが、決して長くは無い。



香澄:「誰がやったのかは知らないけれど、止められるとしたら同じことができるモノだけよね。」


香澄、携帯で誰かを呼び出すが…通じない、

なんせ、全てが混乱している。 沿岸部の携帯基地局は水没、それ以外も身内の安全確認回線でパンクしている筈。



香澄:「濱平さん、優美と交信してくれる。 あの子なら少なくとも核爆発は止められるわ。」


私、いまいちピンとこない


香澄:「優美に状況を説明して、ミサイルの爆発を止める様に言って。」

万里:「あっ、はい、分かりました…。」



優美、イタリアであったあの子の事を思い出す。

確か、聖獣の名前はシロと言った。


あの子は私の夢の中に出てくる「さりな」とそっくりの姿をしていた。 確か娘だとか…


万里:「シロ! お願い、応えて!」


必死に呼びかけるも、…返事が無い





万里:「だめ、交信できません。」


兵士1:「東京着弾迄、あと5分。 その後後続来ます。 横浜着弾まで残り6分、 名古屋着弾まで、後6分30秒、」



香澄:「興味がわかないと駄目なんだっけ?」

万里:「今は、何だか色々起こりすぎて頭がごちゃごちゃしてます。」



香澄:「そうね…例えば、あの子、ああ見えて凄いオタクなのよ。」

万里:「一体、何を?」


香澄:「伊織と出会うまで友達が一人もいなかったから、一人部屋の中で悶々と妄想にふけって小説書いてた訳。」


万里:「いや、いきなりそんな事告白されても…」


香澄:「夢見る夢子ちゃんでね、恋愛モノとか、結構きわどい18禁とか、自分の事を物語にしたりして、ノートに書き溜めてる訳なの、」


万里:「18禁…ですか、」


香澄:「この間ちょっとした事件が有って一時引っ越ししたんだけど、偶然その時に見つけちゃってね、悪いとは思いつつチラッと読んじゃった訳…思わず鳥肌立っちゃったわよ。」


万里:「それは、…恥ずかしいかも。」


香澄:「ペンネームが確か、桜…」



シロ:「それ以上ばらすと幾らカッスンでも許さないのだ! …とユーミちゃんが言ってるのだ!」


いきなり頭の中に声が飛び込んできた。


万里:「シロ?」


私の頭を通じて香澄の暴露が優美の意識に短絡する。

これは、優美の心を覗いているというより、シロとのテレパシー交信!


万里:「聞こえてる? シロ、大変なの。」

シロ:「こっちも今大変なのだ。 取り込み中なのだ。」

万里:「何だか、世界中の核ミサイルが100個も発射されちゃったみたいなの。 止めないと、人類なんてあっという間に滅びちゃう。」


シロ:「こっちはユーミちゃんと室戸セバスちゃんが喧嘩してるのだ、核兵器よりおっかないのだ。」


万里:「室戸さん?」


あの格好良い人??



万里:「なんで二人が戦っているわけ?」


私の思考は、優美の心に辿り着く…






そうだよ、

これは彼女の心



東京都心の交差点、

深夜にも関わらず街のイルミネーションは煌々と輝き、賑やかに行き交う人々の心を包み込んでいる。


大破、横転した外国製高級ワゴン車の傍らに対峙する2人の影。


1人はグレーのロングコートに身を包んだ長身の男。 痩せた体躯に一切無駄の無い筋肉を纏い、腰までかかる長髪と超絶美麗なルックス。 銀の十字架ピアスをしている。


もう1人は黒のゴスロリを身に纏った幼女? 長い睫に大きな瞳、傷一つ無い整った小顔は透き通るように白く、ウェーブした艶やかな髪は腰まで届く豊かな長髪。 まるで造り物の様な一点の欠陥も無い妖しい美貌。



周囲には遠巻きに人垣が出来始めている。

やがて警察が到着する手筈になっていたが、当の2人はそんな事には全く意に介していない風だった。


男は丸腰の幼女?に対し、中段に太刀を構えていた。

その気配には一切の遊びや手加減など見られない。 男の眼差しは、最初から生きて還る事等期待していない覚悟のそれだった。


男の胸には赤く細いナイフが突立っていた。

既に相当量の出血が有った筈だが、未だ男の立ち居振る舞いには微塵の狂いも躊躇いも生じてはいない。



シロ:「ユーミちゃん! 核ミサイルが落っこちてくるって言ってるのだ」

優美:「別に構わないわ。」


妖女は無表情のまま、独り言の様につぶやいた。


シロ:「でも、そうするとミジンコも死んじゃうけど…本当に良いの? ほら、あれなのだ」


その名前を聞いた途端、妖女の全身が総毛立つ!

一瞬見上げた夜空にミサイルのロケット噴射がチラリ…、2基


優美:「シロ、あのミサイルを止めなさい!」

シロ:「了解なのだ!」


シロの能力がミサイルの制御に切り替わる、

刹那の気の流れを察知した室戸の太刀が優美の貌を両断する!



爆発せずに墜落、スカイツリーに直撃するミサイル1基、東京タワーに突き刺さるミサイル一基、


大破した機体からジメチルヒドラジンの雨が降り注ぐ。




優美の左目は米神から頬にかけて切り裂かれていた。

超絶の美貌から、だらだらと深紅の血が噴き出して来る。


シロ:「ユーミちゃん、大丈夫?」

優美:「これくらい、構わないわ。」


(貴方だけが私の理由だから)



室戸は予想外の事態に一瞬怯む…が、一拍間の後、下段から返す刀を逆袈裟懸けに斬り上げる…

…その刀身は融けて千切れ弾けて、室戸の左手首を切断する。



優美:「甘いわね、そんなんじゃ私のボデイガードは勤まらないわよ。」




切断された自分の左手首が地面に落ちるよりも早く、

既に室戸の右手に握られたベレッタから数発の銃弾が発射されている。


しかしその銃弾は、優美のゴスロリに触れた瞬間! 水飴の様にヒシャゲて弾け跳ぶ。



シロ:「次、マリンタワーに落ちるのだ!」

優美:「マリンタワー…」


むずがゆい、でも温かな記憶が優美の脳を浸して行く。


(貴方が触れられない私ならないのと同じ)


優美:「シロ、ミサイルを止めて!」

シロ:「了解なのだ!!」



不発のまま大破して山下公園にまき散らされるミサイルの残骸…、ガラスの雨…、


…その代償として、優美の右肺を貫通する3発の銃弾。


(貴方が見られない私ならどんなものよりも醜くても構わない)



優美、血の泡を噴き出す。


(私と貴方の接触面だけが私にとっての世界)




意味不明に暴発、大破するベレッタ!


それはまるで計画通りの出来事であるかの様に室戸はベレッタを放棄、徒手空拳にスイッチされた手刀の攻撃が優美に襲いかかる!



優美:「鬱陶しい!!!!!!」


優美は微動だにせずにその突きを受け入れる。 瞬きすらしていない。

手刀は、優美の顔に触れる1cm手前で止まっていた。


シロ:「ユーミちゃん、危ないのだ! 室戸の見切りはあのメルカバに一泡吹かせる程巧妙なのだ。」


(全ての私の命と時間を引き換えにしても構わない)


室戸の動きが、止まる。

筋電位を支配され、身動きを封じられている。



優美の残った片目が妖しく光を放つ。


室戸の体内に残った全ての赤血球から錬成された鉄の楔が、その心臓から跳び出して脳髄を貫く。


輝きを失って行く室戸の瞳、




周囲を走行していた複数の車の外板が千切れてドリルの様にネジ曲がり!


金縛り状態の室戸の身体に突き刺さる!

1本、2本、3本、…合計8本!


(全てのモノから疎まれようとも憎まれようとも恐れられようとも構わない)



車体を引きちぎられた車はスピンしながら歩道のガードパイプをなぎ倒していく。 玉突きに接触して車がひっくり返り、 歩行者を巻き込んで店のウインドウに突っ込む。



道路に串刺しにされた室戸の遺骸が、沈黙する。


優美:「しばらく、そうやっておとなしくしてなさい。」




シロ:「こういうミサイルがいっぱい飛んできてるみたいだけど、完全体にならないといっぺんには処理できないのだ。」


優美:「しょうがないわね、シロ、全部いっぺんに止めるのは完全体にならないと無理だって、濱平に伝えて…。」


(たとえ貴方が何一つくれなくてもそれで構わない)




西の夜空が赤く閃光を放つ。


優美:「伊織…。」


(貴方だけが私の理由だから)






名前を呼ばれて我に帰る。


万里:「…伊織、」

香澄:「ありがとう。…分かったわ、 伊織、聞こえてるかしら?」


朦朧とする意識の中で源香澄が耳の後ろを弄っているのが見えた。


通信機?

そう言えば、海斗の耳にも何か埋め込んでいたっけ、



香澄:「理由は聞かないで聖獣を召還して頂戴、一刻を争うわ。」


目の前のスクリーンには更に 5,6個のミサイルが着弾、爆発したことが表示されている。 内一つは日本にも…。



兵士2:「名古屋、着弾、核爆発を観測。 直撃被害は推定半径10km。」

兵士1:「後続来ます。 大阪、3分後です。」



香澄:「一体、何処の誰が日本に何発もミサイル撃ち込んでくる訳?」

香澄2:「全く、人間の考えてる事は良く分かりませんね…。」



源の人格が豹変する。


香澄2:「あっ、どうも…。」


一番偉そうな椅子から降りて、私のそばに寄って来る。


香澄2:「私、人見知りなもんで…。」

万里:「貴方、」


香澄2=黄龍=お竜:「あっ、覚えてくれてました? お竜です。 この名前、不本意なんですけどね。」



モニター上には、最終到達地点で停止した赤い三角が、ミサイルの着弾を現していた。 が、核爆発の印は増えて行かない。



万里:「上手く行ったのかな…」

お竜:「行ったみたいですね。」


やがて、世界中が着弾マークで埋め尽くされる



兵士:「核爆発、合計28で止まりました。」

西野:「名古屋の被害状況確認急げ! その他不発着弾地点の汚染被害と救助活動の状況報告…するんだぶうぅ、」


助かった…のか?

いや今は未だ見えてないだけで、この一瞬に大勢の人々が昨日迄の平穏なリアルを失ってしまったのは確かだった。


万里:「これが、「神の戦争」なの…?」

万里:「よく、…判らない。 なんなの、一体これは?」





突然、施設内のスピーカーをジャックするキーキー声!


シロ:「濱平! さっき知った事をちょっとでもばらしたら、確実に殺すわよ。…と言ってるのだ。」

万里:「ひぃい、」



シロ:「特に、伊織に一言でも喋ったら、殺すだけじゃ済まないから、よく覚えておきなさい。…と言ってるのだ。」

万里:「何? 殺すより酷いことって何??」



シロ:「以上、ユーミちゃんからの伝言なのだ。」





スピーカー、一瞬大きくはうって…切れる

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