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エピソード3 源 香澄

Episode3

登場人物

濱平 万里:主人公

源 香澄:冷酷×痴女

西野 仁美:奴隷


「第6師団仮設作戦室」では、靴下まですっかり脱がされた女大尉が 三つ指付いて、ぴったりおでこを床に擦り付けて、無言で平伏していた。


万里:「どうしてこの人、裸で土下座してるんですか?」



香澄:「第6師団と五行聖獣でどっちの方がズルイ(チート)か勝負して私が勝ったのよ、まあ罰ゲームの一環ね。 これ以外にも今後一週間、喋るときは語尾に必ず「ぶー」って付ける事になってるの。」


西野、可愛そうに顔が真っ赤、一応女性だよねこの人…



香澄:「みんなとの交信は上手く行ったみたいね、結局第6師団のエージェントは誰一人捕まえる事ができなかったわ。」


万里:「掴まっちゃったのは私たちだけですか?」

香澄:「勘違いしちゃ駄目、私達は捕まった訳じゃないわ。 この組織を利用する為に此処に来ただけよ。 ここには色々と情報が集まってくるし、頼りにならないなりに手駒も増えるから何かと便利でしょ。」


いや、そんな話聞いてないし…



万里:「ところで、さっき変な夢を見たんです。 ロボットが吾妻さんを襲ったり、池内さんが洪水被害にあったり、妙にリアルで何だか、夢って感じがしなくって…」


香澄:「夢じゃないわよ。」


香澄:「今世界中がパニックになっているわ、海面がいきなり13mも上昇したの。 沿岸地域は壊滅的な被害、多数の死傷者がでてる。」


香澄が机のリモコンを操作すると、部屋の隅に立てかけられた90インチモニターに各国のニュースが映し出された。 一般市民の投稿による生の「ぞっとしない光景」が被害の甚大さを一見させる。



万里:「でも、どうして水面が13mも上昇したんですか?」


香澄:「現在各国が調査中よ、あまり信じたくないけど、海底にとてつもなくでかい何かが観測されているわ。」


香澄:「そもそもエインヘリャルとかスコルって言うのは北欧神話のキャラなんだけど、その北欧神話にはヨルムガンドって言う地球をぐるっと取り囲んで自分の尻尾を咥えられる程巨大な蛇が出てくるそうよ 。」


香澄:「まあ空想だけどね、 他の神話にもリバイアサンとかウロボロスとか似たり寄ったりの超巨大生物は存在するから、その手の聖獣が実在化したという可能性はあるわね。」


いやぁ、何を言ってるのかさっぱり…。

地球を一周する生物って何???



香澄:「アフリカでの新種病原体の発生、アメリカでの核兵器事故に立て続けてだから、世界は未曾有の終末騒ぎよ。 バチカンやメッカ、エルサレムには連日祈りを捧げる人がごった返しているって。」


画面が切り替わって、サンピエトロ広場を埋め尽くす群衆が映し出される。 


そういやあそこ行ったよね〜

…って、調子こいて懐かしんでる自分が怖い。



香澄:「後、ロボットって言うのはこれでしょ。」


再び画面が切り替わりモニターにロボットらしき写真が映し出される。



確かに、夢で見たのと同じ。


でも、これはロボットじゃない。 肉と骨で出来ている…怪物。 それに強化外骨格を被せて、多彩な武器を装着させている。 次々に切り替わる画面が、その正体を説明して行く。


香澄:「この趣味の悪いデザインは山猫だよね、 前に富士山の麓でこれの試作品を見たことがあるわ。」


香澄:「手足を切り落として小型化された改造人間が中に乗り込んで操縦するのよ。…奴がエインヘリャル対抗用に用意しておいたものらしいわ。」


改造人間の解剖写真を見て思わず吐きそうになる。

モニターから目を背ける。



万里:「山猫は、エインヘリャルは聖獣に対抗する為の人類の最後の希望 だって言ってたんですけど、…どうして エインヘリャルに対抗する兵器を山猫が作ってるんですか?」


香澄:「さあね、でも明らかにエインヘリャルは聖獣の能力を活用しているわ。 それに貴方がセーフリームニルから聞きだした話によれば、第5の封印とやらが解けた時点でエインヘリャルは聖獣側に寝返った事になっている。 

推測だけど、山猫は聖獣の能力と情報を手に入れるためにどこかの聖獣達と取引したんじゃないかな?」



私、顔面から血の気が失せる…


万里:「海斗は、どうなるんです? 海斗もエインヘリャルなの。」


香澄:「残念だけど、大阪が水没して以来情報が途絶えているわ。 現在第6師団が全力をもって調査に当たっている。 …そうだよね?」


香澄が西野の頭をパンプスのヒールでグリグリする。


西野:「そうであります、…ぶうぅ。」


何だか、半泣きになってる。



万里:「私、海斗のところに行ってもいいですか?」


香澄:「今は危険よ、まともな交通手段も期待できないわ。 第6師団が海斗を回収して連れてくるのをここで待った方が良いわね。」


香澄:「もっとも、海斗がセーフリームニルに憑依されてペルソナを食い尽くされていたとしたら、…どうしようもないけどね。」




西野が徐に喋りだす。


西野:「あの、そろそろ、報告会議の時間なのですが、ぶうぅ。」

西野:「…服を着て、会議に出席しても宜しいでしょうか…ぶうぅ。」


香澄:「駄目よ。そのままの格好で、ここで会議しましょう。 私も出席するわ。 異論は無いよね。」


香澄、ヒールでグリグリ…


西野:「り、了解でありま…ぶうぅ。」



西野:「佐々木! 直ちにこの部屋にVC機材を搬入して…ぶうぅ、 TV会議の準備だ…ぶうぅ。」


西野、必死に屈辱に耐えている。 歯軋り、涙、


佐々木:「はっ!」


佐々木、必死に笑いをこらえている。



確実に男の部下たちが、土下座する上官の丸出しお尻をちら見している。

結構毛深い…、


万里:「もう許してあげたら?」

香澄:「そうね、後もうちょっとしたら考えてみてもいいわ。」



やがてTVモニターに「向こう側」の会議室が映し出される。

こっちの画像には、土下座しているまっぱな西野の姿。


将校:「なんの、…冗談だ、貴様。」


やがて、画面中央に現れる痩せた中背の男。


香澄:「久しぶりね、坂本総司。」

側近:「誰だ、一体そっちはどうなってるんだ。」



香澄:「まず最初に、この前の借りを返しておくわ。」


次の瞬間! 坂本、らしき男の髪の毛が吹き飛び、頭皮からだらだらと血が流れ出して顔を覆う…


騒然とする相手側会議室、


香澄:「とりあえず、いつでも貴方を自由に出来るって事は理解してもらえたかな。」


男:「きさま、何者だ。」

坂本:「何が、…望みだ。」


坂本の発言に、場の一同がビクリと緊張する。



香澄:「今後は私の要求に従ってもらうわよ。 手始めにこの西野って子、面白いからうちで預かる事にするわ。 後、下手に手間を取らせるような事する人には退場してもらうから、そのつもりでいてね。」 


坂本:「源香澄か、」


側近:「我々は、高潔な思想と決死の覚悟の元に行動しているのだ、この様な茶番で我々を思い通りにできると考えているのなら大きな間違いだぞ。」


香澄:「別に、貴方達がやろうとしている事に干渉するつもりはないわ、貴方達が私達に干渉しない限りね。」


側近:「まずは、お前の親族から処刑してやろ…。」


「…う。」 っと言っている顔は首から切り離されて…


…床に落ちた。






なに? 今、殺したの? 人を殺したの? 源が?


一瞬、目を疑う。 テレビモニターの中の出来事はまるで映画かアニメと同じ臨場感で、 頭を失った胴体から噴水の様に血が吹き上がっている。



香澄:「面倒くさい事は嫌いだって言ったでしょう。」


将校:「殺せ、その女を殺せ、今すぐにだ! 命令だ、そこにいる誰か、直ぐに源を撃ち殺すんだ!」


叫ぶ将校のズボンのベルトが弾け飛び、膨れた腹がパックリ裂けてデロデロと臓物がこぼれだす。



また? 人が死んだ??


「第6師団仮設作戦室」に居た 佐々木以下数名の兵士が「待ってました」とばかりにホルスターから拳銃を取り出す…

…筈の手首はホルスターの拳銃を握ったまま、腕から切り離されていた。


手首から先を失った腕の切断面からぴゅーぴゅーと血液が噴出す。



傷つけた、いとも簡単に人間を、私の目の前で…



万里:「やめて!」


思わず叫んでいた。

この女、何なの? 壊れてるの? 

分からない! この人の考えている事が分からない!


一瞬で私と香澄の心がシンクロする。





そうだよ、

これは彼女の心だ



香澄:「分かり合えてるかどうかなんて事はたいした事じゃないわ。」


心の中で香澄が私を抱きしめた

何故だか涙が溢れ出す


この女の中には海の様な優しさと空の様な冷酷さが同居していた


万里/香澄:「何の為に貴方は世界を一人きりで引き受けようとしているの?」

万里/香澄:「決して報われない事を知っているくせに」

万里/香澄:「誰も信じられないくせに」




無自覚の涙が止まらない


万里:「香澄、」

万里:「私が貴方と一緒にいてあげるから」

万里:「そんな悲しい事言わないで」


心の中で、私が香澄を抱きしめた





ほんのゼロコンマ何秒の気付き、閃き、理解、


しかしそれは余りにも複雑かつ単純で、いざ表現しようとしても言葉が見つからない。 ただ源香澄が最終的に味方である事だけは「知っている」。 今はそれで十分。



私を見つめる源香澄の眼差しは、まるで眠る赤子を見守る母の様に穏やかだ。




香澄:「私達と喧嘩しても勝てないって事を早く学習しなさい。」



暫しの沈黙、そして坂本総司…


坂本:「分かった、当方としても無益な消耗はのぞんでいない。 これからは不可侵と言うことで同盟を組もう。」


香澄:「そうそう、お互いに協力し合わなきゃ、…生き残りたければね。」



そして、モニターを見つめる源香澄の眼差しは、獲物を見つめる爬虫類の様に無表情だった。

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