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エピソード11 猟犬

Episode11

登場人物

濱平 万里:主人公

加地 伊織:役立たず

朱雀:奮闘中

スコル:狼の聖獣

ファフニール、オッテル、レギン:カワウソの聖獣

ガルム:猟犬の聖獣


空中に裂け目が出来ている。

その裂け目の奥は暗黒、闇、そこから赤毛の男が顔を覗かせている。 


万里:またか…、


こういう、おかしな事に免疫が出来て来ている自分が少し嫌。


見ると、西野は自分が狂ってしまったのでは無いかという不安な形相で、その不思議な光景を凝視していた。



朱雀がいきなり、空間の裂け目の男に向けて炎を放つ。 スコルの顔が燃え上がり、髪の焦げる匂いが辺りに充満する。


再び空間の裂け目を閉ざし、姿をくらませるスコル。


一体、あの空間は何なんだ?



そして神出鬼没に出現する!

いきなり朱雀の背後に出現!!

裂け目から両腕だけを突き出し、朱雀に抱きつく!


闇の空間に引きずり込もうとする。


スコル:「グゥウううふぅ…。」


スコルの両腕が燃え千切れて、床に落ちる。

既に炭化したそれは、落下の衝撃でバラバラに砕け散る。


一方で、スコルに掴まれた朱雀の両乳房は胸の筋肉ごと歪な形で持って行かれている。 消失した胸の切断面からだらだらと血が滴り落ちる。



やがて西野が昏倒する!


万里:ガスマスクが効かない…



しかも敵の姿は見えない。 スコルの仕業とは思えない。

何処から襲ってくるのか解らない別の敵が居る…。


恐る恐る後ずさりし、部屋の隅に立てかけてあった「赤い箒」を取る。

朱雀が私の行動を逐一見守っている。


そして、声が話しかける。


万里:「ファフニールと名乗る男、私を殺さない…。」


気がつくと自分の意志とは関係なく喋っていた。

これが、以前源が言っていた「口寄せ」の様な独り言か…、


伊織:「取りあえず、良かった…。」



朱雀:「ち!」


その瞬間!

スコルの闇の裂け目が朱雀を頭から覆いかぶせる様に飲み込んだ!


腰から下だけが残される朱雀。 上半身が…消えて無くなっている。


万里:「池内さん!」


伊織が、私の元に寄り添って来る。

やがて部屋の扉を開けて現れる3人の男。

それぞれ小柄で、見るからに不潔。


万里:「オッテルと名乗る男、レギンと名乗る男、」

万里:「大人しく着いて来い…、」


伊織:「やれやれ、こういう時役に立たないな、俺。」



万里を捉えようと近づく男達、

伊織が立ちはだかるが、あっけなく毒にやられて昏倒する。



そこで!息を潜めていた南が立ち上がり、男に向けて拳銃を発射する!


…が、男の顔面は、無情にも銃弾を跳ね返す。



男1,2,3:「ハッハッハ…。」


臭い息をまき散らしながら気味悪く笑う3人、

緑がかった男の口臭は霧状に漂って、南のガスマスクに侵入して行く。


南、失神!



万里:「来るな! 気持ち悪い…」


箒を盾に後ずさりする。

山猫の話が本当ならば、この箒には聖獣を退ける力が有る筈。


3方から囲まれて、追いつめられる私…


万里:「来ないで、」


やっぱり怖い…



ビクリ!

と香澄が動き出す。

毒にやられた身体が、再生しようとしている!


万里:香澄! 助けて!



オッテルとレギン、復活しかけた香澄と涼子を抱き起こし、

その汚い歯茎を曝してベトベトのベロを2人の唇に差し込む。 大きく深呼吸して毒の唾液を口移しする。


溢れたネバネバの唾液が香澄の口元からもれ、2人は再びガクガクと全身を痙攣させて沈黙する…。


オッテル:『美味い。』

レギン:『甘い。』


ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべるオッテルとレギン、

今度は優美と碧の身体を抱き起こし、失神したままの2人の身体を汚れた手で撫で回す…。



万里:何コイツら…キモ過ぎ!!!



次の瞬間!!

暗黒空間が裂けてスコルが姿を現す。


這い出して来ようとするスコルには…上半身だけの朱雀が取り憑いている。

漆黒の闇の中で、朱雀の紅い炎が燃え上がる!


スコルは全身を燃やされて今にも息が絶えそうになっていた。


あっけにとられたファフニールが気を逸らす…

私は思いっきり赤い箒でファフニールをぶっ叩いた!!



ファフニール、目を丸くして私を見つめる。 

それから、叩かれた腕を確認する。 …何か違和感を感じている。



私、すかさずニ発目をぶっ叩く!

何だか解らないけれど手応え!


この時点で動きが封じられるファフニール。

硬直して、何故だか か細い悲鳴を上げる…


万里:「凄い、これ…」


異常に気づいたオッテルとレギンが振り返る。


私、既に三発目をぶちかましている!


万里:「これで、どうだ!」



箒で叩かれたファフニールの胸から闇が輝き出す。 

ファフニールだったものは闇の輝きに吸い込まれて、残った抜け殻は塵となって砕け散った。


朱雀、半死半生ながらも、オッテルとレギンを昇華させる!



万里:「池内さん!」


朱雀に駆け寄ろうとした瞬間!


何者かに噛み潰されたかの様に破裂!陥没する朱雀の頭部!!



…脳をまき散らして沈黙する朱雀。



未だ別の敵が居る!

辺りをうかがうも、 敵の姿は見えない。


やがて、意識を取り戻すシロ。

しかし直ぐには動けないらしい…


身体の自由が利かないシロに何かが襲いかかる!

目に見えない牙に全身を噛み砕かれ、血に染まった肉塊と化して行く優美の身体!



万里:「どこ!」


脚が震える。 汗ばんだ手で箒を握りしめる。


優美の血液が、床を濡らして行く…。


やがて、スコルが灰の中から復活し始める…

人間の内臓の様な物が、ブクブクと形作られ始める。


万里:「コイツら、きりがない!」



赤い箒で固まり始めたスコルの臓物をぶっ叩く!


万里:「これなら、どうだ!」


スコルの臓物が…動きを封じられる。



同時に、脇腹に違和感、激痛が走る!

私の肋骨が、噛み砕かれている。


万里:「えっ…」


凄い勢いで滲み出す私の血!


万里:「うぅああああああぁ!」


思わずその場にうずくまる。


万里:「痛いぃいいいいいいい!!」


万里:おかしい! 口から血が出るなんて! 私なんで血を吐いてるの??


私、自分の身体に起きた異常にパニックに陥る!



万里:『ヘラの居所等、お前に頼らなくとも見つけ出してみせるわ、』

万里:『じっくりと嬲り殺しにしてくれる。』


ひとりでに喋り出す私…


万里:「誰、あんた!」


泣き吃逆が止まらない、歯が震える、血が口から滴る


万里:『ガルム、お前を狩るモノだ。』



万里:殺される!



部屋に有ったテーブル、椅子、機材が無差別にバキバキと音を立てて砕かれて行く。


目に見えない牙が距離を詰めるてくる。


立ち上がって、廊下へ跳び出す!

牙が! 追いかけて来る。

…床が、壁が砕け散る。



痛みを堪えて走る!

見ると、基地内の人間は皆昏倒している。

恐らく、あの三人組の毒ガスにやられて…。



万里:「助けて!」


牙が、背中の皮を食いちぎる!


万里:「うぁああああっ!」


でも、止まらない、

多分、わざと、一気にトドメを刺して来ない。 散々怖がらせて、いたぶってから、殺すつもり…。



無意識のうちに知っている道を走り続けている。

いつの間にか別棟に入り込んでいた。


万里:ここの自衛官は無事らしい!


異常に気付いた自衛官と第6師団の兵士が跳び出して来る。


自衛官:「どうした!」


箒を持って走る万里と、追い立てる様に砕け散る廊下、天井!

異常事態を察知するも、頭を砕かれて即死する兵士…。




万里、気がつくと…海斗の病室に居た。


万里:しまった! どうしよう、こんな所に来ちゃった。 海斗まで巻き込んじゃう!



ちらりと海斗の顔に視線を移す。

相変わらず…無表情のまま反応のない海斗。


虚ろな目で、マジ泣き必死の形相の私を見てる。

両足を、私の血だか小便だかが伝わって垂れている。


一体、どれ位血が出たら死んじゃうんだろう…

脚が震える…


早く、出なきゃ、



振り向くと、病室に男が立っていた。


2mはあろうかと思われる大男、襟に毛皮の付いたフライトジャケットを着ている。

こんな男がどうやって今迄気配を消していたのだろう。


まるで空気の中から突然現れたかの様…



ガルム:『出来損ないのエインヘリャルか、』

ガルム:『ついでに壊して行くとしよう。』


万里:「駄目!」


見えない牙が海斗に襲いかかる!


万里:「それは駄目!!」



立ちはだかった万里の首が…噛み砕かれる!


万里:「ゴメン、海斗…、」



海斗の上に覆い被さる様にして倒れる万里



ガルム:『死んだか、』

万里:『まだ、死んでない!』


海斗の身体が、…怯えた様にびくりと動く。



ガルム:『この箒、不思議な力を持っている。…放っては置けないな。』

ガルム:『直に触れられないなら、この女の腕に握らせたまま回収するか。』



男が私の身体を持ち上げる




息が聞こえる。

誰の息づかいだろう、


万里:『まだ、死んでない!』


私は、既に息をしていない…



振り絞る様な過呼吸が聞こえる。

私を抱くこの男のモノとも違う…

誰の息づかいだろう、



薄れ行く視界の中で、その者が立ち上がるのを、確かに見た。





海斗:「ねえちゃんに、…手を出すな、」


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