エピソード9 ともだち
Episode9
登場人物
濱平 万里:主人公
池内 瑠奈:朱雀の尸童
万里:「遠かったぁ…。」
息が白い。 霧の箱根湯本、旧東海道沿いの午前5時。
改めてスマホで現在位置を確認する。
万里:「まさか、あそこ北海道だとは思わなかったよね…。」
第6師団作戦本部のある北海道の千歳からおよそ1200km、高度をあげられないので不意の高層建築物にぶつからない様、スピードは最高速度の10分の1に抑えていた。
ここまでの所要時間約6時間、途中休憩無しでぶっ飛ばして来たから腰が痛い…
万里:「ううぅ、おしっこしたい…。」
人通りの少ない早朝の温泉街とは言え、流石に日本で薮ションはあり得ない。 確か近くにコンビニが会った筈…。
スクーターを転がしながら空を見上げる。
白み始めた空には、何十、何百もの浮遊物が浮かんでいた。
万里:「あれって、人工衛星よね。」
肉眼でその構造がはっきりと見て取れるくらい近い位置に浮かんでいる。
昨日見た夢? 交信した人工衛星乗りの事を思い出す。
それだけではない、飛行機、ヘリコプターの様なものまで浮かんでいた。 お互いにフワフワ動いているが、ぶつかりそうになると避けて行く、何だか見えないゼリーに包まれていてお互いが接触しない様に出来ている様だった。
不思議な光景…
ピコン!ピコン!
店員:「いらっしゃいませ!」
何だか懐かしい響き! 即座な対応!
私、文明社会に戻って来たんだぁ。
それにしても改めて暗い。 いつもの煌々とした看板は消えたままで、コンビニ会社も早速自主的に節電しているらしい。
万里:「すみません、トイレ貸してもらっていいですかぁ。」
店員:「どうぞ、」
奥の個室に入ってしゃがむ…
よく考えたら私小銭持ってない、用を足しながら気がついた。
万里:「まっ、いっか。」
携帯掛かって来たフリをして何気なく店を出る。
…っていうか、池内に掛ければ良いんじゃん。
店の入口を出て、メモに書かれた池内の携帯にコールする…
暫く発信音鳴るも、…通じない。
万里:「しょうがない、待ち合わせ場所に戻るか、」
ふと見ると、コンビニ前のゴミ箱にもたれて眠る人影、
万里:ナニ、…行き倒れ!
いや、…見た事の有る赤い箒を抱えてる。
万里:「池内さん!?」
駆け寄って揺さぶる、反応がない。
が、確かに某アイドルにそっくりな容姿、青少年を誑かす不埒なボディ、間違いない、池内瑠奈だ。
万里:「池内さん! しっかりして下さい。」
意識が無い??
私、しょうがなくビンタ、
しょうがなく、もう一回ビンタ、
しょうがなく、だめ押しでもう一回ビンタ、
瑠奈:「ったい、…何?」
意識を吹き返す?
万里:「池内さん、何でこんな処で寝てるんですか?」
瑠奈:「誰? 私、今忙しいの…」
腕をとって引っぱり起こす。
池内、力なくぶら下がる…。
店員が店から出て来る。
店員:「あのぉ、お客さんの知り合いですか?」
万里:「あ、はい。」
店員、恐縮そうに…
店員:「この人昨日の12時過ぎから来て、何でも洪水被害で車が動けなくなっちゃって行き倒れてたらしいんですけど、迎えが来るから「軒下で待たせてくれって」、そのまま寝ちゃったんですよ。」
店員:「店の中で待ってても良いですよって言ったんですけど、びくとも動かなくって…。」
万里:「ご、ご迷惑おかけしました。」
店員:「いえ、寒くって風邪曳かないか心配したんですけどね…、ところで、この人ってテレビに出てる人ですか?」
万里:「いえ、他人のそら似ですぅ…。」
愛想笑い、愛想笑い。
最後の手段、
げんこつで池内の脳天をぶっ叩く!
瑠奈:「いったあ…。」
瑠奈、ようやく目を開ける。
万里:「池内さん、しっかりして下さい!」
瑠奈:「あっ、えーっと、誰さんだっけ…。」
池内、まだ目がトロロ…
万里:「濱平です。 あの、大阪から転送してもらった…。」
池内、まだ事情が掴めない…
瑠奈:「あぁ! 濱平さんか、元気? それにしても奇遇だね。 どうしてこんなトコに?」
万里:「貴方を迎えに来たんです!」
池内の財布で朝食を調達する。
サンドイッチにコーヒー牛乳、温かい肉まん。
物資の輸送が断たれているから在庫が切れかかっているらしい。 店員達が多少混乱している。 お弁当は既に品切れ状態だった。
池内がトイレから戻って来る。
スッピンに口紅だけでギリギリセーフの化粧直し。 …でも可愛い。
万里:「池内さんってスッピンでも全然綺麗ですね。」
瑠奈:「ありがとう! つい最近顔の皮膚全部焼け爛れちゃってさぁ、新しく作り直したから結構ハダツヤ良いんだよね!」
あんまりやりたくないピーリングだな…
そう言えば、私の身体も総作り直ししたんだっけ、 確か有った筈の手の傷とか虫歯の銀の詰め物とかが無くなっている。
いやそれ以前に、実際の元の自分はスコルに掴まった時に吾妻に消去されて、つまり殺されたわけだ。
今此処にいる私は、まるっきり新しく作られた私で、元の記憶は持っているけれど、本当に元のままの記憶なのかは今の私には知りようも無い。
今の自分には吾妻に対する恨みは無いのだけれど、きっと消去された方の自分は殺された事に恨み辛みを持っていた筈だ。
何だか複雑な気分…、
万里:「私ももしかして人外なのかな…」
源香澄が貸してくれた超小型CB無線に着信音!
香澄:「どう、池内は見つかった?」
万里:「はい、合流しました。 これから戻ります。」
香澄:「良かった、なるべく早く帰って来てね、次のイベントが始まっているわ。」
万里:「ニガヨモギ…ですか、」
香澄:「ええ、そろそろ肉眼でも確認出来るらしいわ、接触迄24時間を切ってる。」
万里:「ぶつかるんですか?」
香澄:「未だ解らないけど、直径500m級のこの小惑星が衝突した場合の衝撃力は500メガトンだそうよ。」
万里:「それって、どれくらいなんですか?」
香澄:「さあね、計算上は数千km四方が被害を被るレベルらしいけど。 実際には何が起きるのか想像もできないわ。」
万里:「何処に、堕ちるんでしょうか?」
香澄:「解らないらしい、と言うのは接近速度が異常なのよ。」
万里:「異常…?」
香澄:「太陽系を公転する惑星の速度は大体秒速30kmでバランスしているのだけれど、この小惑星は一時、秒速3000kmまで加速した可能性がある。 一部の科学者達は何かの間違いだと言っている様だけれど、地球から2億km離れた小惑星がこれまで観測される事も無くいきなり衝突24時間圏内に到達するなんて事は普通ありえない。」
万里、解ったフリ。
万里:「そうですね、直ぐに戻ります。」
コンビニの駐輪場で池内が何やらスクータをチェックしている。
瑠奈:「濱平さん、これにニケツするの?」
万里:「はい、ちょっと狭いですけど、我慢して下さい。」
瑠奈:「予備のヘルメットある?」
万里:「いえ、予備どころか私のメットもありません。」
池内の顔が膨れっ面になる…妙に可愛い。
瑠奈:「ノーヘルは違反、減点よ。」
万里:「いや、この際難しい事は抜きで…お願いします。」
このルックスで青少年を誑かしてるのね…
瑠奈:「ま、しょうがないか。 でも、余り見かけない型のバイクね。」
万里:「何でも、イタリア製のバイクをコピーしたって言ってました。」
瑠奈:「バイクは国産が一番良いわよ! 私最近made in Japanに目覚めちゃったかも…。」
しかも結構面倒くさい人だ…
万里:「はあ、でも作ったのは山猫なので、中身は純国産かと思いますよ。」
瑠奈:「山猫! あの変態が作ったの? これを…?」
万里:「知ってるんですか? 山猫の事。」
瑠奈:「ちょっと待って…、」
池内、バイクの此処其処を調べ出す。
万里:「あの、そろそろ急がないと…」
瑠奈:「見て! これ、」
フロントカウル乗員側中央、鞄をつり下げられるフックが付いている。
万里:「あっ、気付かなかった、便利そう…。」
瑠奈:「違うわ、よく見て、これ、隠しカメラよ!」
万里:「へっ?」
瑠奈:「ミニ履いて運転する女子の股間をバッチリ撮影出来る様になってるわ。」
万里:「うそっ…、」
確かに、さりげなく付けられたキラキラする物は不必要なレンズ…
そう言えば、タジキスタンからの帰り…私は訳有ってノーパン…だった。(回想)
なんだか、色々なモノが身体から抜け出て行く…
万里:「あいつ…オネエの癖に、なんで私のアソコなんか…。」
瑠奈:「奴は変態なのよ!」
万里:「殺す! 今度会ったら確実に殺す!」
瑠奈:「当然、私も手伝うわ!」
池内が何故か握手を求めて来る。
瑠奈:「貴女とは何だか気が合いそうね! 友達になりましょう!」
万里:「えっ、はあ、まあ…そですね。」
有耶無耶のうちに握手する、私
瑠奈:「よろしくね、私、池内瑠奈。 貴女は?」
万里:「濱平万里です。 よろしくお願いします。」
何だか、熱い人なのだろうか…
瑠奈:「取りあえず、サンドイッチの値札で目隠ししちゃいましょう!」
瑠奈、値札でカメラを塞ぐ
気を取り直して、二人乗り。
万里:「それじゃ行きます。 カバー掛かる迄 箒持ってて下さいね。」
瑠奈:「やーん、スクーターの二人乗りって、後ろ大股開きで何か変な感じ…。」
万里:「池内さん、変な声出さないで下さい。」
瑠奈:「分かった、我慢する…。」
飛行モードのスイッチを押し、左グリップの高度ダイヤルを回すと、アンダーカウル四隅からロケット噴射して、自動制御でバランスを取りながら、スクーターが浮かび上がる。
高度ダイヤルを回して上昇! でも、余り高くは飛べない。
瑠奈:「凄い、本当に飛ぶんだ、これ…。」
ナビの行き先を確認。
瑠奈が、やけにしがみついて来る。
万里:「池内さん、ちょっと危ない…」
瑠奈:「だって、何だか怖いんだもの…」
ステルスモードのスイッチを入れると、カタツムリの殻に似た透明な特殊外装が展開して搭乗者ごとスクータを包み込む。
背中に、瑠奈の大きな胸が押し付けられる。
この弾力、気持ちいいかも…
万里:羨ましくなんか…!!!
思いっきりハンドルのグリップを握り込むと、テール・リヤ・シートカウルにさりげなく取付けられたロケット噴射ノズルが爆発的な推力を発生する!
あっという間に超音速!
何かの壁にぶつかった様な音撃!
万里:「やだ!やり過ぎちゃった!」
瑠奈:「凄い…けど、怖い!」
安全の為、高度200mまで上昇。
瑠奈、何故か私の胸にしがみつく!
万里:「池内さん、くすぐったい。」
瑠奈:「万里ちゃん! 何だか私変な気分、多分怖くって変になってるぅ。」
万里:「ちょっと、危ない! 駄目ですって、池内さん!」
瑠奈:「瑠奈って呼んで! でないと…。」
万里:「わぁああ、やめろー、私はノーマルだぁああ…。」
瑠奈:「ゴメンなさい! 怖くって、おかしくなっちゃう…。」
右手、限界まで捻りきる…
万里:フルスロットルでマッハ2まで出るんだ…
「空飛ぶ靴」は僅か30分で第6師団作戦本部がある千歳の基地に到着する。
辛うじて、私の貞操は護られた…。




