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聖臨異餐譚 ~台所でしか無双できないチート転生者の旅に暴食脳筋、病的迷子体質、常時酩酊者を添えて~  作者: 深酒佞
聖臨異餐譚 -記憶の欠片と海の花-

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第51話 摂理と無法

 この地における生物は、およそ例外無く、死を迎えると滓花(レシェル)だけを残し、肉体は消滅する。

 そしてその滓花(レシェル)も、特殊な処理をしない限り、ゆっくりと溶けるように消えてゆき、いずれは地に還る。


 無論、死んだ生物が跡形も無く消えるのでは、畜産業など成り立たない。


 この地には、死に瀕した生物から滓花(レシェル)を分離することにより肉体の消滅を防ぐ、『解命法(ファメネート)』という技術があった。

 この術を施すことにより人々は、食材や素材として動物の体を手にしてきた。

 しかし、この方法で分離した滓花(レシェル)は、肉体の代わりにその場で消滅する。


 食材や皮革製品などに欠かせない肉体と、術の媒体となることで人々の生活を豊かにする滓花(レシェル)

 これらは二者択一でしか得られないものだった。




 『理命(レファメナ)』。


 『裁儀(ディスプロディ)』、『乱禍(ルクツァイル)』と並ぶ、俺が持つ三つ目の無法(チート)


 効果は単純明快にして冒涜的。


 二者択一である体と滓花(レシェル)を両方残す。


 自然の摂理を堂々と無視する、ある意味では俺の持つ中で最大かつ最悪の能力かもしれなかった。


 が、それはそれとして、本来どちらかしか手に入らないはずのものを両方入手できるのだ。

 つまり俺だけ、単純計算で通常の倍の戦利品を得られる。

 肉は食べられるし滓花(レシェル)は消耗品なのでいくらあっても困らない。どちらも売ろうと思えば売れる。


 なんだかんだでありがたく、事あるごとに俺はこの無法(チート)能力を利用させてもらっていた。




 命湍(ヒューメナツィア)による『海蛇』の転送は無事成功した。


 アステルが『海蛇』を引きずり、部屋の入口側にある黒い床に乗せ終えると、来た時と同様に床が輝きを放ち始めた。

 そして一瞬の閃光の後、その場から消失する『海蛇』。

 その行方を追い、俺達はどうにか起き上がったクレウグと共に、本来の出入口である扉をくぐって上層、地上階へと歩いて戻ったのだった。


 余談ではあるが、上層までの経路、三階層分ほどの連なる部屋において、ふらつき足の遅いゼオ、定期的に姿を消すミュイユ、事あるごとに立ち止まり部屋に並ぶ資料やら何やらに興味を示すアステルに加え、クレウグまでもが何かと足を止めて部屋の観察と調査を始めようとするものだから、入口の大部屋に辿り着くまでに尋常ではない時間を要することとなった。

 まぁ遺跡探索家なんだし当然の反応ではあるんだろうけども。


 目を輝かせながら各部屋を調査して周るクレウグを、俺は急かすことができなかった。

 できれば転送の結果を確認してからにしてほしいところではあったが。




 そうしてどうにか辿り着いた、というか帰ってきた大部屋。

 その中央に鎮座する『海蛇』の巨体を外へ引っ張り出し、ちょうど昼時だしせっかくだから今から捌いて食べようか、と思ったところでふと気付く。


 導輿(カーフローツ)が無い。


 そうだった、今日は導輿(カーフローツ)は置いて、貸し切りの廻輿(シュクルカーフ)で来たんだった。


 しまったな。本格的な調理用具や食器類、調味料の類はほとんど導輿(カーフローツ)に積んだままだ。

 覆心鞘(ヤファーズス)にも、元々昼食にする予定だった保存食の他、最低限のものは用意してあるが……足りるだろうか?


 一旦『海小屋』前の地面にしゃがみ込み、胸の間に手を突っ込んで内部をまさぐってみる。


 出てきたのは、大小二つの包丁と金属製の長い串の束。

 そして板状の金属の網。

 洗い物用の洗剤と目の粗い布。

 使い捨ての薄い紙束。

 飲料水を詰めた大きな容器が数本。

 浅いものと深いもの、様々な形状と容量の鍋類がいくつか。

 数枚の皿。

 油で満たされた容器。

 何種類かの液体調味料の瓶。

 塩の瓶。


 ……塩?


 あ、思い出した。結構前にミュイユが勝手に買ってきたセラン・ユプセンの塩。

 家じゃもったいなくてちょびっとずつしか使えず盛大に余ったため、外出先で何か役に立つことがないかと小分けにしておいたんだった。

 素晴らしいモノを持ち運んでいたものだと過去の自分を絶賛する。


 決めた、これで行こう。

 屋外での昼食に、巨大な海蛇肉という豪快な食材。それにふさわしい簡素で贅沢な調理法。

 厚く切って塩振って焼く。ただそれだけの単純にして究極の一品だ。

 ついでに、多いと言われる骨も砕くなりして煮出して、汁物も作れるかもしれない。昨日の昼に頂いた荒天汁のような。


 目算は立った。

 さぁ後はあの『海蛇』を捌くだけ、と立ち上がりかけたところで、正面にいたクレウグと目が合った。


 いつからそこに立っていたのだろう。金網の上に広げた様々な物体に囲まれた俺を、なんだか珍獣でも見るような顔で見下ろしている。


 呆然とした様子で沈黙していたクレウグだったが、ややあって、ぽつりと呟く。


「…………なるほど」


 いや待って、何に納得したんだ今。

 俺が屋外調理用具に囲まれた様子がそんなに――あ、違う。そうじゃない。


 覆心鞘(ヤファーズス)だ。

 思い返せば今まで、俺はクレウグに胸の覆心鞘(ヤファーズス)から物を出し入れする様子をちゃんと見せたことは無かった。

 今初めて目の当たりにして、なんというか……呆気に取られていたのが今の表情だったのだろう。


 さもありなん、どこの世界に胸から食器やら調味料を引っ張り出す奴がいるというのか。

 そんな奇怪な光景を目の前で繰り広げられては、あのような反応になるのも致し方ないというものだ。


 ……いや、けど。


「その反応はちょっと心に来るんですけど……。いっそ笑い飛ばされる方が気が楽というか、なんか気を遣ってくれたような対応は、その……辛いです」


 先の一言だけを残しこの場を離れたクレウグに、俺の消え入りそうな声の懇願が届いたのかどうかは定かではなかった。

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