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聖臨異餐譚 ~台所でしか無双できないチート転生者の旅に暴食脳筋、病的迷子体質、常時酩酊者を添えて~  作者: 深酒佞
聖臨異餐譚 -記憶の欠片と海の花-

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第49話 玉のなかの蛇

 聞いたところ、あっちはあっちでそれなりに大変だったらしい。

 俺とクレウグが飛ばされた後、何故か俺の反応が地下方向に移動していることに気付いたゼオが二人を引き連れてこの場所を目指したらしいのだが……。


「いやー、思ったより面倒な造りしててねぇ、この建物」


 最初の大部屋の奥にあった、小さな扉。

 そこから奥へと向かった先には、狭い通路で連なった狭い部屋の数々。

 それらを通り抜け、下り階段を探す。


 そのような行程を三階層分ほど繰り返し、ここまで降りてきたとの事。

 とはいえ、そこまで複雑な経路というわけでも無かったようなのだが……、


「やっぱり掘る方が早くてまっすぐで正解だったのではっ?」

「崩れるでしょ、建物ごと下手すると。それよりこういうとこには大体秘密の隠し通路みたいなのがあるからね。それを見つければもっと早かった」


 事あるごとに力技で解決しようとするアステルと、正規の経路もわからないのに存在するかどうか不明な近道を探そうとして行方不明になるミュイユ。

 この二人をどうにか御して、ゼオがここまで連れてきたようだった。

 脚は一番長いのに一番歩く速度が遅いゼオが先導か。そりゃ時間もかかる。


 そしてどうにか辿り着いたこの部屋で俺とクレウグ、『海蛇』の姿を見つけ、とりあえず殴りかかった、というのが先程の話ということだった。

 一応彼らなりに急いでくれてはいたらしい。


「あーそうそう、ごめんフィーノ。アレ使ったけど別にいいよね」


 ふと思い出したように俺を見て言うミュイユ。

 アレ? ……ってああ、絶逢伉(クプラディク)か。


「大丈夫だよ、乱戦では極力使わないで欲しいってだけだから。むしろおかげで助かった」


 復元した武器の所有者情報を書き換えることで、顕鏡(ラナミレダ)で呼び出す幻影をミュイユ自身にする――そうすると何故か武器の存在する位置に瞬間的に転移するんだとかなんとか。

 何度聞いてもよくわからないし本人にも恐らくわかっていない原理の、転移術。


 つまりは投擲なり設置した武器の場所に瞬間移動できる、という術らしいのだが、何せほぼ前触れ無くミュイユの居場所が変わるものだから、事故のもとになるため複数人での戦闘時にはなるべく使わないで欲しいと頼んだのだった。


 実際、突如前線に現れてアステルの攻撃に巻き込まれたことが何度かあった。

 下手すると同士討ちで死者が出かねないため控えてもらったのだが、今はその転移術のおかげで間一髪助かった。咄嗟の判断に感謝しかない。


 頷き礼を言うと、「ん」とだけ短く答え、ミュイユは壁際の床へ首を向けた。

 部屋の隅で仰向けに横たわるクレウグ。なんとか無事ではあるようだが、顔色は悪く息も細い。

 意識を失ったわけではないものの、目は開けられず会話もできそうになかった。


 傍らには、輝きを失った拒葉剣(ベヌウィデン)

 水車のようだった羽根も手の平くらいの大きさまでしぼみ、先端に六つの飾りをぶら下げた棒のような姿になっていた。


 彼については未だ色々と不明なことも多いが、とにかく助けられたことに間違いは無い。

 最後の一分は、クレウグが体を張ってくれなければ確実に終わっていた。

 何故そこまでしてくれるのかはわからないが、これだけお世話になったのだ。あとは俺達に任せて休んでいてもらおう。


 と、そこにアステルがひょこりと寄ってきてクレウグを覗き込み言った。


「クレウグさん、体調が悪いなら私が治しましょうかっ?」

「それはやめてくれ」


 慌てて制止する俺。


 アステルの治癒術も、彼女の他の術と同様に奇妙な変質が起こっている。

 本来、術者本人の祈力(シェナ)を消費しながらじわりと外傷を治療するものらしい『聖歌・癒花(フォミエ・エルヘイル)』。しかしアステルが使用すると、異様に急速な治癒と引き換えに、何故か治療対象の体力を大幅に消費する。

 怪我などは一瞬で治るものの、術を掛けられた側が猛烈に疲労するのだ。


 恐らくは生命力を大きく消耗した状態のクレウグ。そこにあんな術を掛ければ、回復どころかとどめになりかねない。

 仕方無いが、自然に回復するのを待つしかないだろう。


 アステルには下がってもらい、俺は、何やらずっと静かな水槽に目をやる。


 あの『海蛇』を倒さないことには、クレウグの安全は確保できない。

 いや、このままもう出てこないようなら倒さずとも無視して帰ればいいのだが、下手に動いて背後を突かれても面倒だ。

 できれば、確実に全て撃破しておきたい。


 ……そう、全て。


 ここまで出てこない以上可能性は低いが、あの二匹で全員とも限らないのだ。

 もしあんなのが大量に水底に潜んでいたらと思うと、身震いする。

 頼むからこれ以上増えないでくれと願いつつ、俺は水槽を覗き込んだ。


「……ん?」


 水槽の奥に違和感。


 なんだか見通しが悪いというか、元々それ程澄んだ水ではないものの、今は殊更中が見えにくい。

 奥の方だけ水流がおかしいような、半透明の何かが沈んでいるような――、


「……っ!? みんな、水槽から離れて……!」


 仲間達へ指示しながら俺自身もその場を飛び退く。


 何か、不可解なモノが見えた気がした。

 大きく丸い何か。

 水底に見えた水の流れが、円のような形を描いているように見えた。


 それは、水槽から距離を取った俺達の前に、水面をゆっくりと持ち上げながら姿を現す。



 ――巨大な水球。


 水流を球状に押し固めたような、液体で満たした透明な丸い容器を回転させているような、球形を成す水の塊。


 そしてその中には、『海蛇』の姿。


 どういった意図か、何かの術か。

 全身を覆い隠すように巨大な水の球を纏い、『海蛇』が再び、ゆっくりと俺達の前に這い出てきた。


 これまでの急襲とは違う、静かな殺意を秘めたようなぬらりとした足取り――足無いけど――で迫ってくる『海蛇』。


 その異容と相対し、俺達は、


「なんかこういうお菓子なかったっけ、ぷるんとした」

「かじると中からとろりと蜜が垂れて机とか服が汚れるアレですねっ」

「どちらかというと擁滓玉(グルーツィエ)っぽく見えるかなぁ。棒のとこ持って回すとこんな感じになりそう」

「えっと……とりあえず構えて欲しいな。アステルとゼオはクレウグさんを守れる位置に。ミュイユ(姐さん)は俺と一緒にその後ろに」


 ……驚く程緊張感を持たないまま、布陣を展開し迎え撃つことになったのだった。



 ――締まらない空気の中、『海小屋』における最後の戦いが始まる。


 ――あとそういうお菓子は一口で食べる方がいいと思う。

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