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聖臨異餐譚 ~台所でしか無双できないチート転生者の旅に暴食脳筋、病的迷子体質、常時酩酊者を添えて~  作者: 深酒佞
聖臨異餐譚 -記憶の欠片と海の花-

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第43話 そのまま海でも潜ってろ!

 それは、有り体に表現するならば、細い腕が生えた蛇、といった風な姿だった。


 この大きな水槽の一辺ほどはありそうな長い体。その表面全体を、照明を反射し煌めく無数の鱗が覆っている。

 体長との対比で細く見えるが、蛇のようなその円筒形の胴体は、細長い印象に反し存外に太い。人を四人ほど束ねたくらいの胴回りだろうか。


 体の先端には、胴よりわずかに膨らんだ円錐状の頭部。隙間から牙のようなものを覗かせる大きな口の上に、無機質な二つの眼。感情など読み取れるはずもないその両の眼はどこか、矮小な生物を見下しているようにも感じる。


 胴体の中央付近には、軽く渦巻いた硬質の塊。その巻き貝のような物体は、背負うような形で背中部に貼り付いているようだった。


 そして、頭部と背部の中間辺り、胸部とでも呼ぶべき位置からは、二本の腕が生えていた。

 骨と皮だけでできたような、枯れ枝のように細く長い腕。その先端からは、更に細い指のようなものが左右それぞれ三本ずつ伸びている。とても物を掴むためのものとは思えない、指というより鎌のような形状だ。


 腕と貝殻の付いた海蛇。そんな形容が似つかわしい巨大で奇妙なその生物が、水面を突き破るように飛び出し、俺とクレウグに襲いかかってきていた。


 水中で大きく加速しながら中空へ舞い上がり、その勢いのままこちらへ急接近、片腕を伸ばして鋭い爪をこちらへ放つ。

 その手の中に収まってしまえば、握り潰されるより先に輪切りになる――そんな想像が容易に浮かぶ、鋭い三本の(ゆび)による掌握攻撃。

 迂闊に剣などで防御すれば剣ごと寸断されかねないその攻撃に対し、俺とクレウグは大きく側方へ跳躍し、距離を取ることで回避する。


 爪による攻撃を避けられた『海蛇』は、うまくその柔軟性を活かしながら、床に吸い付くように体を滑らせて着地。腕を折りたたみながらぐるりと着地点の周囲一帯を舐めるように全身を這わせると、とぐろを巻いて上体だけを低く起こしこちらを見た。

 ……蛇の体に上体などという区分があるのかは知らないが、とにかく腕のついている辺りまでを持ち上げ、鎌首をもたげさせて俺達を見下ろしていた。


 しばし睨み合う形になる俺達と『海蛇』。

 隣ではクレウグが、剣を正面に構えたまま動く機を伺っている。


 その様子を横目で見ながら、俺は一歩前へ出た。


「フィーノさんっ……?」


 クレウグの声に、『海蛇』から目を離さないまま答える。


「クレウグさんは下がっていてください。俺がどうにかします」


 元よりそういう依頼だった。遺跡の脅威から、彼を護るのが今日の仕事。忘れないようにと念押ししたのは自分だったのに。


「さっきは先走ってしまってすみませんでした。依頼は、遂行します」


 聖標器(ヴァイネライナ)との邂逅に思わず我を忘れて飛び出してしまったが、あれは恥ずべき行為だった。深く自省する。

 ……別に、もっと恥ずべき過去を目の当たりにして熱意が冷めたとかそういう話ではない。


「どうにかって、フィーノさん……何か手立てはあるのか?」


 ちょっとした賭けのようなものにはなるが、無くはない。いや、無くてもやらなければならないのだが。

 クレウグの問いかけに頷きで答えると、俺は半身になって両手の抉界戟(ゼプシュラー)を構える。右手は後方へ、左手の抉界戟(ゼプシュラー)は牽制するよう穂先を『海蛇』へ向ける。


 見たことのない生物に襲われたことでつい焦ったが、冷静になって考えてみればただのデカいヘビだ。少し大柄で細長い枯羽牛(フブール)のようなもの。いつも通り《《討伐》》してしまえばいいだけのことだ。


「クレウグさんはなるべく下がっていてください。危ないので」


 端的にそう伝え、俺は更に一歩前へ。


「――『裁儀(ディスプロディ)』」


 そして再度能力値を改竄する。



  ――解析値(基礎値/⇒修正値/)――

  接式干渉力:130 /⇒ 150/*加算補正

  接式抵抗力:400 /⇒ 150/・減算補正

  術式干渉力:100 /⇒ 100/

  術式抵抗力:130 /⇒ 100/・減算補正

  速力   :240 /⇒ 600/*加算補正

  精度   :200 /⇒ 100/・減算補正

  計    :1200

  ―――――――――――――――――



 防御を更に高めることで相手の攻撃を一度受けて返すことも考えたが、掴まれて身動きが取れなくなる可能性を考慮し別手段を取る。

 いつものように、速度に大きく振って回避と接近性能を強化。隙を見て一撃を与え、まずは『解析』を成立させる。厳密な戦略を練るのはそれからだ。



 ……いつものように、か。

 この場にいない仲間達のことを思い出し、首を振る。


 ゼオが俺の居場所をそれとなく感知できる。三人一緒にいるというのなら、それを頼りにこちらへ向かってくれているはずなのだが……元の部屋とこの水槽部屋、どういった構造で繋がっているのかはわからない。

 まさかあの命湍ヒューメナツィアが唯一の入口ということはないだろう。何か別の通路が存在するとは思いたいが、とにかく、合流はまだ先になりそうだ。

 それまでは、俺一人でアレをどうにかしなくては。



 視認できた限りでは、地上での敵の動きはそこまで極端に俊敏なわけではなさそうだ。泳ぎを利用しての加速が絡まない限りは、恐らくこれで速度面において上回れる。

 当然、引き換えに防御力は大きく低下している。間違っても敵の攻撃に触れることがないようにだけ注意し――、


 ――俺は、床を蹴って『海蛇』に飛びかかった。


 想定外の速度で詰め寄ってくる目の前の生物に、しかし『海蛇』は冷静に、あるいは反射的にその身を翻して這いながら後退する。その判断は好都合。そして奴にとっては命取りだ。

 逃げる先は水槽。俺が目を覚ました時に姿が見えなかったのも、クレウグに追い払われた後だったのだろう。地上への出現と攻撃、水中への離脱を交互に繰り返されるのは確かに厄介そうだ。本来ならば。


 瞬く間にその体を水の中へ滑り込ませていく『海蛇』。しかしその動きは、今の俺にとっては追えない速度ではない。


 そしてその長い体が仇。

 どうしても最後まで地上に置いていかれる形になる尾の部分。そこをめがけて、俺は抉界戟(ゼプシュラー)を振り下ろす。


「『裁儀(ディスプロディ)』、――『(リエンセ)』ッ!」


 拒葉剣(ベヌウィデン)の光を受けて煌めく抉界戟(ゼプシュラー)の刃。それが風切り音と共に、床の上でぬらぬらとうねる蛇の尾を捉えた。


 鱗に弾かれたような、固く軽い手応え。ぴくりと尾が跳ねる。

 抉界戟(ゼプシュラー)の威力では、元より尾を寸断できるなどとは思っていないが……解析のための一撃は成ったのだろうか?

 『海蛇』の全身が水底へと消えてゆくのを見送りながら、少し不安になりつつ待つ数秒。


 果たして、『解析』は成立した。

 頭の中に展開される、『海蛇』の能力値。



  ―――解析値―――

  接式干渉力:1093

  接式抵抗力:418

  術式干渉力:675

  術式抵抗力:206

  速力   :430

  精度   :116

  計    :2938

  ―――――――――



 ……強いな、思ったより。

 枯羽牛(フブール)どころの騒ぎじゃないぞこれ。トープドールに迫るほどの総合値。


 特に目を引くのは、接式干渉力――物理攻撃力の飛び抜けた高さ。

 防御値で受ける選択を採らなくて良かった。下手すると耐えきれず潰されていたかもしれない。

 速度についてはおおよそ想定通り。高めを維持しておけば上を取れる。

 術式干渉力の妙な高さが気になるが……この生物、術を使うのだろうか? あまり考えられないが、意識しておく必要はありそうだ。



 さて、おおよその方針は決まった。

 こちらの能力値はこのまま、敵の攻撃を回避しながら抉界戟(ゼプシュラー)による二撃目を浴びせて攻撃力と速度を殺す。

 我ながら代わり映えしない戦略だな、などと自嘲しつつ、俺は武器を構え直して水面を睨む。

 理由はわからないが俺達を狙ってくるこの『海蛇』。ちょっと脅した程度で引っ込むとは思えない。


 再び浮上してくる瞬間を、今度は逃さない。


 俺は水槽の縁で身構えて待つ。


 そして十秒程が経過した時、水の奥に再び影が現れた。

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