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聖臨異餐譚 ~台所でしか無双できないチート転生者の旅に暴食脳筋、病的迷子体質、常時酩酊者を添えて~  作者: 深酒佞
聖臨異餐譚 -記憶の欠片と海の花-

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第37話 また星空を足元に

 俺が触れると、滓花(レシェル)が眩い光を放ち、響く駆動音、大きな振動と共に、大扉がゆっくりとこちらへ開け放たれる。


 ――というような事は特になく、なんか普通に静かにスッと開いた。内開きだった。


 滓花(レシェル)の取手はほんのりと光っていたような気がしないでもないが、まぁ少なくとも眩くはなかった。

 盛大に拍子抜けし、先程のまで緊張はどうしてくれるのかと見知らぬ設計者に心中で毒づいたところで、クレウグに声が掛けられる。


「無事開いたようだな。ありがとう」

「い、いえ。俺はただちょっと触っただけなので。開きましたね、ちゃんと」


 答えて、俺はクレウグと共に開け放たれた扉の奥、遺跡内部へと目を向けた。


 扉の奥、俺達を迎え入れるように開かれた両の大扉の先に広がっていたのは、一つの大きな部屋だった。


 壁にも床にも一切の飾り気が無く、調度品の類も何一つ置かれていない。

 窓も無いため、ただただ閉塞感に満ちた、だだっ広い殺風景な部屋。

 壁の上部に照明が埋め込まれているようだが、劣化が進んでいるのだろうか、どうにも薄暗い。

 辛うじて、部屋の隅、左右のそれぞれの角に、奥へのものと思われる扉が見えた。今いる入り口のようなものではなく一般的な大きさの扉のようだ。


 ひとまず、開けた途端に中から何かが飛び出してくるようなことは無かったようだ。

 警戒を緩めつつ、俺達はそろりと内部へ足を踏み入れた。


「なんでしょう……すっごく()しかありませんねっ」


 祝祀印(アミュレア)を構えて先陣を切ったアステルが、数歩進んだ先で部屋を見渡しながら言う。なんだか哲学的にも聞こえる感想だが、特に深い意味は無いだろう。


「そうだな。見たところ、特に危険を感じるものは無さそうだが……」


 アステルについて部屋に入ったクレウグが、注意深く周囲を観察しながら答える。


「それにしても暗いね。なんか明かりとか無いの、もう少し」

「足元が暗いとちょっと怖いよねぇ。踏み出すとなんだかふらつく気がするよ」


 ミュイユとゼオが続く。ゼオがふらついているのはいつもの事だと思うが。


「携帯照明出そうか。これ、室内じゃちょっと使うの怖いけど」


 最後尾から俺が扉をくぐる。それとなくクレウグに背を向けながら、覆心鞘(ヤファーズス)から手持ち式の照明具を取り出した。光源として火を使う種類のものなので、あまり屋内向きではないのが気がかりだが。



 俺達は今、クレウグを中心に四人で囲むような並びで大部屋に踏み込んでいる。

 俺を中心とする基本陣形の応用……という程でもないが、護衛対象であるクレウグの安全を確保するための案だった。

 陣形を維持しつつ、そろりと部屋中央へ進む。


「あぁ、すまない。携帯照明なら俺が出す。……しかし、確かに歩きにくいな」


 クレウグが、背負った鞄にぶら下げていた筒のような器具を取り外し手に取った。

 小声で何か呟くと、その先端に炎とは違う白い光が灯る。光式の携帯照明のようだ。いいなぁ。


 クレウグは一旦周囲を照らしたあと、照明を足元に向けて不思議そうに言った。


「ふらついて感じるのも無理はない。床が奇妙に柔らかいんだ。分厚い絨毯でも敷かれているみたいに」


 薄暗くてよくは見えなかったが、床の中央部、というより壁沿いの四辺を除く床全体が、黒く柔らかいものでできているようだった。最後尾を歩いている俺の足元はまだ硬い石造りの床だが。


「すまない、迂闊だった。あまりに何も無い部屋だから油断したが、これが罠の類でなくて良かった」


 黒い床を見下ろしながら自責するように言うクレウグに、俺は歩み寄りながら励ます声を掛けた。


「いえ、大丈夫ですよ。そのためにアステルが前にいますので」


 物理的な罠なら、並大抵のものではアステルを止めることは不可能だ。作動することで建物自体が崩壊するようなものでない限り、むしろどんどん掛かってもらった方が安全かもしれない。

 露払い、というか囮のような扱いだが、安全確保の面ではこれが最善だろう。

 仮に部屋全体が炎上したり呪いでも撒かれるような大規模な術系の罠なら、その時はゼオがなんとかしてくれる。死角は無い、はずだ。

 そう考えながら、黒い床に足を踏み入れる。

 確かに不思議な感触。柔らかいのに弾力は強く、沈んだ足を押し返してくる。……って、この感じ、いつかどこかで一度。……何だったっけ……?


 記憶を辿ろうとした、その瞬間。


 黒い床が光った。


「……え?」


 真っ黒だったその床に、星空のようにちらちらとまたたく光が灯る。


 同時に、遠くに聞こえる唸り声のような、何かの駆動音のような低い音が部屋に響く。


「わっ! ちょっ、何ですかこれ夜空に浮いてるみたいで綺麗で怖いんですがっ!?」

「なんかそういう趣向? 気の利いた出迎えとかだったりしないのこれ」

「危険は感じないけど……一応防御とかしといた方がいいのかなぁ」


 俺達五人の足元で、その床は次第に光を増してゆき――、


 ――あ、思い出した。


 俺がこの世界で目を覚ました後。北部から統聖国(リウネア)へ逃げてきた時。

 リュケオンからロテュメアへ移動するのに使った、なんか都合のいい転移装置。


《これ……大型の命湍(ヒューメナツィア)じゃないの。何故こんな所に……!?》


 ロティの慌てた声と共に、光が俺を飲み込んだ。


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