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聖臨異餐譚 ~台所でしか無双できないチート転生者の旅に暴食脳筋、病的迷子体質、常時酩酊者を添えて~  作者: 深酒佞
聖臨異餐譚 -記憶の欠片と海の花-

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第35話 個性を考える会

「といっても、個性ってどうやって身につけるんだろうねぇ」

「そもそも意図して身につけるもんじゃ無くないそういうの」


 クレウグによる難題に、俺達は顔を突き合わせ思索を始めた。

 期待を込めた目で俺達を見るクレウグと時折目が合う。


「まぁ、とりあえず思いつくまま挙げてみよう。……ってアステル、どうした?」


 ふと、アステルが難しい顔で俺の方を見ているのに気付く。

 それも、顔ではなく少し下、体の方を。


 問いかける声に返事するでもなくしばし黙って俺を凝視していたかと思うと、ふと顔を上げてクレウグに言った。


「やっぱり見た目、服装から変えるのが一番簡単で効率的で効果的じゃないですか?」


 待て、なんで俺を見てその案が出た。


「そうだな……確かに」


 クレウグも俺に目を向けて頷く。確かになんだっていうんだ。


「え、クレウグにフィーノみたいな服装させようっていうの? この半分常識人みたいな」 


 もう半分は何なんだよ。


「…………。それも有りかもしれませんけどっ。そういう事ではなくっ」


 何を一瞬考えた。無しだろ。俺が言うのもなんだが。


「でもまぁ、外見を変えるだけでも印象って結構変わるよね、多分。個性って呼ぶのかはわからないけど」


 そう言ってゼオがクレウグに目を向けるが、クレウグはどうにも乗り気でない様子。


「確かに、そうかもしれないが……俺にその格好は似合わないと思う」

「いや違います! こんなのを真似るんじゃなくてもっとお洒落な服装をしてみるのはどうかって話ですよ!」


 思わず立ち上がって突っ込んでしまう俺。クレウグ、真面目な大人のようでいて、思ったよりこう……こっち側かもしれない。


「こんなのって。フィーノ、半分アレな自覚はあったんだ」

「だから何だよその半分」


 椅子に座り直し、ミュイユに問い質すが回答は無かった。

 代わりにクレウグが答える。


「お洒落か……。そういうのは遺跡調査とは程遠い、不必要なものだからな。服には機能性しか求めていなかったけど、今度から少し考えてみようと思う」


 そう言うと、懐から取り出した手帳に何やら書き記した。

 そして顔を上げて言う。


「他には無いだろうか?」

「他に、ですか?」

「服装というのもいいけど、恐らくは感性が問われるものだろう。俺には難度が高い。もっとこう……単純で即物的な候補があると助かる」


 顔を見合わせる俺達。

 感性にとらわれない、単純で即物的な、個性の発揮方法。また難しいことを訊くな。

 そもそもそんな取って付けるようなもんなのか個性って。


「髪型……もちょっと難しいかなぁ」

「感性出そうですよね。染めるのはどうですか? フィーノ様やミュイユちゃんみたいに」

「これ染めてんじゃないけどね。フィーノのそれはどうなの? その先っぽだけ赤いの」

「知らないよ。最初からこうだった。多分『先代』の趣味とかなんじゃ……いや、俺達の話はいいからクレウグさんの案を挙げよう」

「いっそ全部剃るのはどうでしょうっ」

「……とりあえず髪以外の方向で行かないか」

「髪と服装以外かなぁ。何だろうね、あとは」

「普段の言動とかじゃない? 常に裏声で笑いながら後ろ向きに歩くとかそんなの」

「個性とかじゃなくてただ変なだけだからなそれは」

「常に逆立ちで本を読みながら……」

「だからさ」


 ……などと。

 思い思いに考えたものを挙げていくうちに、予想外に頭を使ったのか喋り疲れたのか、窓の外を見ながら少しぼうっとしてしまい――、


 ――何故か出てきてしまったのが筋肉の話だった。


「……筋肉?」


 突如現れた言葉に眉をひそめるクレウグ。


「そうです! 全身カッチカチでガッチガチに肉の鎧を纏えば誰もが羨む強烈無比な個性の完成ではっ!?」


 個性かそれ?

 聖畜衆(スプレイデス)並みの肉体を見せびらかせば、確かに強く人の目を惹くことは可能だろうけど。


「筋肉か……」


 突拍子も無いアステルの提案を受け、腕組みして考えるクレウグ。一考の余地あるんだそれ。


「……いや、やめておこう。魅力的な案ではあるけど、恐らく実現まで時間がかかり過ぎる」


 しばし考えて、残念そうに首を振った。時間の問題では無いと思うが。


「それに、その路線は俺の仲間と被る」


 あぁ、個性の話なのに被りは確かによろしくないな。……って、仲間?


「クレウグさん、その……仲間の方がいるんですか? 一人だと昨日はおっしゃってましたけど」


 そう尋ねる俺にクレウグは答える。


「ん? あぁ、すまない。仕事には俺一人で来ている、という意図のつもりだった。俺にも志を共にする仲間はいる」


 そう言うと、なんだか大きなものを示す手振りをして続けた。


「その仲間の中に、筋肉の塊のような大男がいるんだ。聖畜衆(スプレイデス)……だったか、彼らにも引けを取らないくらい、あるいは凌ぐ程の屈強さだ。筋肉路線を目指すと彼とぶつかる事になってしまう」

「な……なるほど。それは……とんでもないですね」


 相槌がなんだか個性被りの件ではなくその男の筋肉度に対してのようになってしまった。

 しかし、そんな強そうな人物、一緒に調査に来てもらえば助かるんじゃ? いや、単に筋力があればいいようなものではないのかもしれないが。


 ともかく、肉体改造案は却下になった。何か他に、別の案が浮かぶだろうか。


「じゃあやっぱり喋りで工夫するしか無いんじゃない? 語尾になんか付けるみたいなさ」

「なんか、って何を付けるんですか? なんとかにゃっぷー、とか言います? かわいくて素敵ではありますけどっ」

「いや、変な喋りも別の仲間と被る」

「……クレウグさんの仲間、なんか濃過ぎません?」


 断片的にしか伺えないが、クレウグの周囲には、どうも随分癖の強い人々が集まっているようだ。そんな中でクレウグが没個性に悩むのは仕方無い事なのかもしれない、などと思った。


 結局その後も色々と案は飛び交ったもののどうにもパッとせず、ただただ益体無いやり取りを繰り返しているうちに、およそ一定の速度で走っていた廻輿(シュクルカーフ)が減速を始めた。


「あ、あれ……まさか、もう着いたのか?」


 時間の経過を忘れるくらい、この議題に存外夢中になっていたらしい。

 思わず窓から前方を見やると、そこには灰色の大きな建物。


 気付けば、『海小屋』が目の前に迫っていた。

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