第34話 奇を衒ってるつもりは無いんだけど
翌朝。
俺達四人は、セラン・ユプセン共壇による貸し切りの廻輿に乗り、海沿いの街道を北へ向かっていた。
導輿は使わなかった。依頼人とはいえ他人であるクレウグを、半ば自宅のような導輿に乗せるのは気が引けた……というかロティが妙に嫌がったためである。
かといって徒歩で行ける距離ではないし、特に目立つものがあるわけではないセラン・ユプセン以北への廻輿の便など走っていない。
なので、共壇で無理を言って、余っていた廻輿を一台お借りしたのだった。
絶賛休日出勤中の聖畜衆が牽く廻輿に揺られ、俺達は問題の遺跡、『海小屋』への少し荒れた道を行く。
……快く引き受けてくれたようだが、彼には申し訳ないことをした。街に帰ったら何か差し入れよう。
なお車だけ借りてアステルが牽く案も出たが、試してみたところ全くまっすぐに進まなかったため却下となった。どうやら力さえあれば動かせるようなものではないらしい。
やはり専門職というものが存在するのにはちゃんと意味があるんだな。……あれ、聖畜衆って戦闘も物凄く強いとか聞いた気がする。専門って何だ?
「フィーノ、聞いてんの?」
と、つい下らない思考に意識が持って行かれかけていたところを、ミュイユの声で引き戻される。
「あ……ごめん、ちょっと筋肉の事考えてた。なんの話だっけ?」
「筋肉……え、どうしたのフィーノ急に。肉体改造でもすんの」
思わず口をついて出た言い訳になんだか引いたような様子のミュイユ。
虚躯って筋肉増強とかできるのかな。脂肪で太ることがあるなら筋肉だって付きそうなものだが。
いや違う、そんな話じゃなくて……、
「それですっ!!」
慌てて言い繕おうと言葉を発する前に、何やら閃きを得たようなアステルの声が車内に響き渡った。
「筋肉を付けましょうクレウグさん! モリモリのゴリゴリに全身を鋼の如く鍛え上げて一目瞭然に輝く個性を装着しましょう!」
個性……あぁそうだ、そんな話をしていたんだった。
最終的な打ち合わせも一通り終わり、廻輿の座席でとりとめない歓談に花を咲かせていた折。
ふと、クレウグが言ったのだ。
「個性ってどうやったら身につくんだろうか」
なんだか深いようなそうでもないような呟きに固まる車内の空気。顔を見合わせる四人。
「……えっと……何ですって? 個性?」
イマイチ発言の意図がわからず聞き返す俺に、どこか自嘲する風に答えるクレウグ。
「あぁ。どうにも俺は地味で無個性だとよく周りから言われる。別に嫌なわけじゃないんだが、こうして今みんなと話していて、ふと気になった」
確かに、なんか色々尖った感じのが集まってるしな……。この中じゃ、クレウグも俺と同じように埋もれてしまうの無理はないのかもしれない。
「なので、失礼ながら……個性の強そうな皆さん四人に、少し意見を伺いたく思ったんだが」
なるほど、それは確かにいい考えかも……っていや待って待って。
「あの、クレウグさん……四人って言いました今? まさか俺も含まれてます?」
「それはそうだが。この面々を束ねる統聖国の聖王がその極度な低姿勢で、しかも奇妙に体を覆ったり露出したりした格好で表れたんだ。不躾ながら、ある意味あなたが一番濃い、と俺は思っている」
……やめようかなこの服装。
胸元は開いてる方が覆心鞘を扱いやすいし、脚も覆うものが少ない方が動きやすくていい。外套を羽織っているため露出過多で目立つこともない。咄嗟の戦闘にも対応できるし色々楽で便利な、俺なりに理に適った服装のつもりだったけど……どうも想定とは裏腹に、ひどく奇怪に見られるらしい。
指摘に落ち込む俺に首を傾げるクレウグ。
そこに飛ぶ、濃い三人の意外そうな声。
「いえ、私も私自身特に個性が強いとは思ってませんけどっ。むしろ地味な方なのではないかとっ」
と、甲高い大声と共に大槌を振り回す暴力と食欲の権化が否定する。
「アタシだって別にただの一般人だよ。小さくて逆に目立つって言うならそうかもだけど」
と、その矮躯に全く似合わない擁滓玉を常に咥えて一般人を驚かせる全く一般的ではない髪色の女が便乗する。
「僕なんて見るからに普通、というか地味寄りだよね。個性的なとこなんて特に、うーん……ちょっと背は高めで髪質に癖はあるかな? それくらいだと思うけどねぇ」
と、水代わりのような勢いで酒を飲む酒精の化身のような男がこの短い発言中に既に二回酒瓶を口に運びつつ首を捻る。
そんな様子に、クレウグは小さく笑い、
「それでも、俺よりは特徴的だと思う。何か案などがあれば挙げて欲しい」
と戯言をうまく受け流しながら、ひどく返答に困る問いを放った。
――かくして突発的に、『クレウグの個性を考える会』が始まったのだった。




