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聖臨異餐譚 ~台所でしか無双できないチート転生者の旅に暴食脳筋、病的迷子体質、常時酩酊者を添えて~  作者: 深酒佞
聖臨異餐譚 -記憶の欠片と海の花-

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第31話 それは吹かない風のような

 セラン・ユプセンは、半島を縦断する低い山と瑞央海(シャルオメイレ)の間に大きく発展した港湾都市だ。

 海岸と平行にまっすぐ、街を二分するように目抜き通りが伸びており、その両手に様々な店が立ち並ぶ。

 おおよそこの通りを境に海側区画、山側区画と別れているらしく、通りの東西で町並みの毛色が違う。


 西――海側には、色とりどりの石畳でできた路に、白基調に色を散らしたような石造りの建物が敷き詰められている。時折、通りの向こうに、建物の壁に切り取られた海が見える。


 東――山側は海側の雰囲気とは少し異なり、なだらかな斜面に寄り添うような、石に木材を組み合わせた造りの家屋が目立つ。海側の華やかさと対照的に、質実剛健といった風情だ。


 そして目抜き通りの向こう、街の中心部には巨大な白い塔。ユプス大灯台の威容が、潮風を受けながら街並みを見下ろしていた。



 セラン・ユプセン聖立共壇(ザフティーグ・セレン)

 海側区画の少し奥まった場所にあり、ローナセラのものより少々手狭ながら、歴史を感じる頑丈そうな石造りの建物。

 昼過ぎという時間帯からか閑散とした窓口で、俺は職員の人に到着の報告と、依頼内容の確認をしていた。


「おう、アンタが聖王様(スプリミオ)か。すっぽりと全身隠してるもんだからどこの不審者かと思ったぜ。思わず武器に手が伸びるとこだった」


 そう言って豪快に笑う職員さん。

 漁師気質、というと少々偏見が過ぎるだろうか。のっけから軽い冗談――冗談だと思いたい――を飛ばしてくる、浅黒く引き締まった体の壮年の男性に苦笑いで答え、俺は依頼主について尋ねる。

 わざわざ手紙まで添えて、聖王(スプリミオ)名指しで依頼をしてきた、クレウグという遺跡探索家について。


「あぁ、そいつならちょうど今来てるぜ。そこの席だ」


 と、職員が指した先。休憩や人待ち用だろうか、窓際に並べられたいくつかの椅子と机。

 その一角には今、一人しか座っていなかった。


 手元に開いた本に目を落とす、若そうな男性。横の壁には使い込まれた風な鞄と、鞘に包まれた剣らしきものが立て掛けられ、窓の陽光に照らされている。


「……あの方ですか?」

「おう。そろそろ来る時分じゃねぇかってちょっと前から待ってるみてぇだ。話してくるといい」


 職員に礼を言うと俺は窓口を離れ、男性の元へ向かった。

 俺に気付くと、男性は本を閉じて机に置き、立ち上がった。


「あなたが聖王(スプリミオ)か。来てくれてありがとう。俺がクレウグ、依頼を送った遺跡調査屋だ」


 そう言って軽く頭を下げるクレウグ氏。慌てて俺もお辞儀を返す。


 遺跡調査という言葉から、なんとなく高齢そうな想像をしていたのだが、目の前に立つのはむしろ若い男だった。二十代……後半まではいかない程度、といったところだろうか。

 身長は俺より少し高いくらい、特に細くも太くもない体格。長くはないが短くもない無造作な黒髪。端正ではあるが美形とまでは言い難い顔。


 失礼ながら、誠に失礼ながら、驚くほど捉えどころの無い……特徴の無い……有り体に言えばすっごく地味な人物だった。

 かなり意識して覚えておかないと、明日には顔を忘れてしまいそうだ。

 無作法でない程度にしっかりと顔や全身を見回して、容姿を記憶に刻みつけることにする。


「はじめまして、えっと……聖王(スプリミオ)、です。気軽にフィーノって呼んでくれる方がありがたいです」


 未だに慣れというものには程遠いたどたどしい名乗りに、クレウグは小さく笑って答えた。


「わかった、そうしよう。フィーノさん、今回の依頼についてなんだが……」


 と切り出したところで、言葉を止め辺りを見回すクレウグ。


「『聖王(スプリミオ)』は、三人の仲間と連れ立っていると聞いていたが……仲間の方達はいないのか?」

「あぁ、みんなには外で待ってもらっています。連れてきた方がいいでしょうか?」


 三人とも表の露店に興味津々だったためそのまま置いてきた、というのが正確なところだったが。

 尋ねると、クレウグは考えるような素振りを見せ、


「そうだな……情報はできれば全員に共有しておきたい」


 そう言うと、机に置いていた本を鞄に仕舞い、壁に立て掛けていた剣を手に取り担いだ。


「せっかくだ。何か食べながら、全員で話そう。フィーノさんも昼食はまだなんだろう?」

「あ、はい。是非。……クレウグさんは、お連れの方とかいないんですか?」


 見たところ、他に仲間らしきものがいる様子は無かった。

 尋ねると、クレウグはどこか自嘲した風に短く答えた。


「あぁ。俺は一人だ」


 一人って……遺跡調査って単独でなんとかなるものなのか? よくは知らないが、もっとこう……五、六人くらいで組んで行動するような想像をしていたのだが。

 疑問には思ったが、既に歩き出した彼を呼び止めてまで訊くようなことでもないか、と考え直す。


 クレウグの後について、俺は共壇の正面出入口へと向かった。

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