幕間5 麦の香に弾む会議
「それについては! この僕、タルヴァノがお答えするのだ!」
トープドールの疑問に答えようとしたユラエナの声を遮り、一人の男が高らかな名乗りと共に立ち上がった。まとまりなく四方に跳ねた長い髪が踊る。
見計らったような――というか事実ずっと絶好の機を見計らっていたタルヴァノの突然の大音声に絶句する一同。
そんな周囲の様子を一切気にかけず、タルヴァノと名乗った長身痩躯の男は堂々とした――というかただ自分に酔ったような調子で語り始めた。
「そう、かねてより僕がアシェン氏と共に開発していた聖標器探知器が、先日ついに完成したのだ。トープドール氏、貴方が南部へと繰り出したその直後くらいの事なのだ。トープドール氏に持たせることができれば話は早かったのだろうが時既に遅かったのだ。仕方無いのでクレウグ氏に代わりに実験を頼んだところ、見事聖標器の反応を見つけたとの報せを受けたのでそのまま回収を頼んだところなのだ。順調円滑で素晴らしいのだな!」
流れるようにそう喋ると、タルヴァノは隣に座っている男を大仰に両手で指す。
「そして彼がそのアシェン――アッシェナブレ氏なのだ。彼の助力無しでは探知器の開発は成し得なかったのだ。皆さんお見知り置きと喝采を願うのだ」
「……あ、どうも……アシェンです……そこそこ協力しました」
タルヴァノの高揚に身を任せきったような調子とは対照的に、うつむきがちに小さく片手を挙げて小声で答えるアッシェナブレ。目を半分ほど覆う癖毛が自信無さげなその印象に拍車をかける。
猛烈な温度差で室内の空気を揺さぶるタルヴァノとアッシェナブレの二人に対し、
「いや知ってるし。初対面みたいな紹介されても」
「奇人三人衆よね。グライネロアでは有名だわ」
「妙に静かだと思ってたら、この瞬間を待ってたんだね……わざわざ」
「待って、三人って何。あたしを含めないで。有名にしないで」
周りの反応は冷たかった。
「奇人三人衆だって……ふふ……照れるね」
「我々の名声もいずれ大陸全土に轟くのだ」
妙な呼称に対しまんざらでもない反応を示す二人に、ユラエナが「なんで嬉しそうなの……」と嫌そうな顔でぼやいた。
「あー……まぁそういうわけよ。聖標器の調査に関しては、一旦クレウグが帰るまで置いとくことになるね。他に何か訊くことある?」
少し考え、「いや、大丈夫だ」とトープドールはユラエナに答えた。
ユラエナは頷き、資料を見て思い出したように言う。
「そういえばさ、なんか変な三人組いたよね。ミアムが捕まえてきたやつ。あれどうなったの?」
「あ~、あれね。なんかまだ詳しくは解ってないみたい。カナ君が調査するって言ってたけど……」
ミアムがちらりと目を向けると、カナヴェーヌが応えて言った。
「目下調査中ですが……彼らの背後には、イトゥスが絡んでいる可能性が浮上しました」
神妙な面持ちで答えるカナヴェーヌの言葉に、うげ、と漏らすユラエナ。
「イトゥスって……あの『捨てられた地』か。絶対面倒な話になるじゃんこれ。……もう掘らなくていいんじゃない?」
「正直なところ、私としてもそうしたくなってきた感はありますが」
「……任せるよ」
「では、そのうち投げ出します」
うん、と頷きで返すと、気を取り直すよう声を張ってユラエナは言う。
「……じゃ、次行こうか次。ここからが今回の本題なんだけど――」
カラーンと、そこに小さな鐘のような音が鳴り響いた。
隣の調理室からだ。一同の目がそちらに集まる。
「あ……すみません」
ノーヤが遠慮がちに手を挙げる。
「今日ちょっと火にかけるのが遅れてしまって……。アレ、今焼き上がったみたいなんですけど、取ってきていいでしょうか……?」
「あー、焚蜜麦だね。良かった、今回は無いのかと思ってたよ」
ノーヤの言葉に目を輝かせると、ユラエナは一同に向かって少し弾んだ声で言った。
「一旦ここで小休止しようか。再開は十分後、焚蜜麦をかじりながらだね」
反対する者はいなかった。それぞれが、椅子から立ち上がったり伸びをしつつ、心待ちにする声を上げている。
「それじゃあ僕、ちょっと行ってきますね」
席を立つノーヤに、浅黒い肌の青年と、筋肉質の大男が声を掛けた。
「あぁ、儂も手伝おう。難しい話を聞いているとどうにも疲れるんでな、少し体を動かしたい」
「俺も行きます。今回は蜜の分量を少し多めにしたのでしたね、出来上がりが楽しみです」
「ギナディオさん、ドゥーガーさん。すみません、ありがとうございます」
連れ立って、三人は調理室へ向かった。
彼らを見送るユラエナ。その奇怪な表情にふと気付き、ルゼルメイが訝しむ。
「……ユラエナ?」
「んふへ……今日もいい筋肉……いい筋肉に美しい髪が絡まって美しい……」
「…………ユラエナ?」
涎さえ垂らしそうな恍惚とした表情。ドゥーガーの上体に注がれた異様な熱量の視線。
呼びかけても全く耳に届いていない様子のユラエナを、ルゼルメイは怪訝そうな顔で見ていた。




