幕間3 可憐少女ルゼルメイ
「はーい時間だよーほらみんな席につけー」
覇気の無い声が食堂にぼんやりと響き渡る。
声の先には、散らかった髪に眠そうな目の少女の姿。
気付けば食堂に来ていたユラエナが、会議開始時間を報せる号令をかけたのだった。
馬鹿騒ぎを繰り広げていた集団もすぐに静まり返りそれぞれ席につく。
こうして――『魔王軍』による会議が開始された。
「そんじゃそろそろ始め……ってあれ、メルとミアムは?」
否、開始されなかった。
食堂を見回したユラエナが、一部の参加者の不在に気付いたようだった。
「そういえば先程、ミアムが挨拶に向かうと言っていたが」
トープドールが心当たりを伝えるとユラエナは、
「そうなの? まぁいいや、勝手に始めるか」
と、さほど興味無さげに進行しようとする。
「いっ……いや良くないでしょう!? ミアム様がいないだけならともかく……」
カナヴェーヌが立ち上がり抗議の声を上げかけたところで、
「すっ……すみまっ……せん……! 遅れましたっ……!」
控えめな軋み音と共に開く扉。狭い隙間から体を滑り込ませて入室する小柄な少女。その様相にざわつく室内。
肩で息をしながら掠れた声をあげる様子からは、前髪で半分隠れて見えない表情を差し引いても、必死に急いで来たことが伺い知れた。
その背後から続いて扉をくぐったミアムが、荒い息をする少女に「大丈夫?」と心配そうに声をかける。
「だっ……大……はひゅー……大丈っ夫でっ……すっ……!」
「だいぶ大丈夫じゃなさそうだね~……。うん、落ち着くまで一旦座ってようか」
と彼女をユラエナの隣の席へ座らせ、周囲を見回しながら問いかける。
「水ないかな、メルちゃんに」
「あるよー。酔う方と酔わない方どっち?」
「方って何。酔わないよ水は普通」
サリュージアから受け取った酔わない方の水を数度に分けて飲み干すと、メルと呼ばれた少女はどうにかそれなりに落ち着いたらしい。少しふらつきつつ椅子から立ち上がり、周囲に頭を下げた。
「お待たせしてごめんなさい皆さん、もう大丈夫です。ルゼルメイ、これより参加させていただきます」
そう告げ顔を上げたメル――ルゼルメイは、着席しかけて、周囲の様子にふと違和感を抱く。
皆の視線が、自身の様子や発言だけでなく、服装の方に強く集中しているような。
静まり返った中、ユラエナがどこか戸惑ったようにルゼルメイに答えた。
「あー……、まだ始めてないからね。気にせず座っていいよ。……んで、その……」
言いづらそうに何やら口ごもるユラエナ。
首を傾げるルゼルメイ。
わずかな間を置いて、後を継ぎ問いかけたのはトープドールだった。
「ルゼルメイ殿。……その服装は、一体どうしたのだろうか?」
その疑問はこの場の総意。周囲のおよそ全員が、黙って答えを待っていた。
「…………えっ…………?」
自身の体を見下ろすルゼルメイ。
何かの冗談のようにひらひらふりふりとした、行き過ぎた少女趣味のような服。
何一つ会議の場にはふさわしくない、というよりその服がふさわしい場が想定できない、そんな格好。
似合わないわけではないが、普段のルゼルメイの地味で簡素な服装とは印象が何もかも違うため、皆の喫驚と困惑を買っていた。
「えっ……あれっ……? えっ……!?」
慌てて自身と他の人々の服装を見比べ、室内の様子を見回し、自分一人だけ異様に浮いた格好でいることに気付いて赤面するルゼルメイ。自身の体を抱くよう両手で服を隠しながら座り込む。
その反応に更に困惑を深め顔を見合わせるユラエナ達。
「いや~……妙に着替えに時間掛かってるな~って思ってたらこの格好で降りてきてね。メルちゃん、なんか今日の会議をトープドール君の帰還祝いだと勘違いしてたみたいなんだよね、なんでか」
ミアムが代弁するように経緯を語る。先程ミアムの部屋へ向かった時の話のようだ。
「ミアムさんっ……違うって知ってたなら早く教えてくださっても……!」
「う~ん……。教えたらメルちゃんまたあの梯子を登って着替えて降りることになるよね。ちょっとそんな時間無かったし、可愛いからまぁいいかな~って」
「よくないですっ! あぅ……とんだ辱めを……」
「仮に祝い的な会だったとしてもその服は違わない? ていうか純粋に何その服」
「ユラエナぁ……今その追い打ち要る……?」
恨みがましい涙目で抗議するルゼルメイの声を、ユラエナは軽く聞き流し、
「とまぁ、可愛い『魔王』も無事到着したことだし。いい加減始めようか」
改めて全員に声を掛ける。
こうして――魔王軍による会議が開始された。
「……着替えてきちゃ駄目……?」
「駄目」
魔王ルゼルメイの涙ながらの訴えは刹那で却下された。




