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聖臨異餐譚 ~台所でしか無双できないチート転生者の旅に暴食脳筋、病的迷子体質、常時酩酊者を添えて~  作者: 深酒佞
魔王軍会議

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幕間2 影踏み

 屋敷の中程にある大食堂へ足を踏み入れると、そこには既に彼の仲間の大半が集合していた。

 それぞれ軽食のようなものをつまみつつ談笑しながら時間を待っているようだったが、扉を開け入ってきたトープドールの姿を見つけると、そのうちの一人が手にしていた杯を机に置き、ニヤニヤ笑いながら寄ってきた。


「おやおや、誰かと思えば『聖王(スプリミオ)』に無様に大敗を喫し無様に逃げ帰ってきたトープドール氏ではありませんか。随分と遅くなったようですが、ついでにゆっくり南部観光でも楽しんできたのですか? 良いご身分ですね」


 細い体に礼装のような黒衣を纏ったその男は、嫌味たらしい笑みでトープドールに絡む。


「いや、単に遅くなっただけだ。聖王(スプリミオ)一行との戦いでの消耗が激しくてね」


 その悪意もまるで意に介さない、というより伝わっていない様子で答えるトープドールに、男は不愉快そうに顔をしかめる。


「彼女らは強いね。それにきっとまだ強くなれる。カナヴェーヌ、以前君が言っていた通りだ」


 晴れやかな笑顔で言うトープドール。

 カナヴェーヌはその神経質そうな顔を更に歪ませ、声を荒らげる。


「私の言葉を奇妙に曲解しないでいただきたい。私はただ……!」

「そこまでにしておけよぉカナンちゃーん」


 トープドールに食って掛かろうとするカナヴェーヌの肩に、背後からのしかかる赤ら顔の女性。


聖王(スプリミオ)に挑んで負けたのはあんたも同じだろぉ? トープドールをどうこう言える立場じゃなくない~?」

「サリュージア様……? いえ、私は負けたわけではなくこちらから見逃して……いや、ちょっ、酒臭っ! 離れてください!」


 もたれかかるサリュージアを必死に引き剥がそうとするカナヴェーヌ。


「いいだろぉ肩くらい貸せよぉ~減るもんじゃなしぃ」

「擦り減るんですよ私の精神だとか体力だとかが! いいから離れて、自分の足で立ってあ痛ぁ!!」


 そんなカナヴェーヌの脚を、小柄な人影が蹴りつけた。

 上体にのしかかられているところに足元への衝撃を受け、体勢を崩し倒れるカナヴェーヌ。一緒に崩れ落ちカナヴェーヌを押し潰すサリュージア。


「ぶへぁっ!!」


 サリュージアの下敷きになってもがくカナヴェーヌを見下ろす、蹴り倒した少年の視線。


「聞いていたぞ。貴様如き小物が大英雄トープドールに意見しようなどとは、増長も甚だしい。そのまま潰れていろ」


 幼い容姿だが、その言動は少年のものとは思えない程に冷徹かつ辛辣だった。

 カナヴェーヌを全身で潰しながら、サリュージアが少年を見上げて手を振る。


「おー、シュップーじゃんなんか久しぶりー。機嫌悪げだねぇいつも通り」

「シュプロイデンだ訳のわからん名前で気安く呼ぶな。そもそも声を出すな息を吐くな酒臭い。これから会議だということを知らない莫迦か、知っていて飲んでいる莫迦かどちらだ、貴様は」


 シュプロイデンと名乗る少年の雑言を一切聞き流し、からかうように返すサリュージア。


「なんか饒舌い? あ~そうか、久々にトープドールがいるからむしろ機嫌いいんだシュップー」

「なッ……何を意味不明な下らん言いがかりをっ!」


 否定するシュプロイデンの慌て様はしかし図星であることを殊更に強調するようで。


「? 私がどうかしたのかシュプロイデン殿」

「いっ!? ……いや、その、なんだ、よく無事で帰ってきたな、というだけの話だ。気にするなトープドール」


 問いかけると急におとなしくなり目を伏して答えるシュプロイデンに、首を傾げるトープドール。その様子をニヤニヤ眺めるサリュージア。


「……いい加減どいていただけませんかね」


 未だ敷物にされている状態に抗議をこぼすカナヴェーヌ。


 その一角の騒々しさに興味を惹かれたのか、周囲から更に集まってくる二人の女性。


「なんだか随分と盛り上がっているじゃない。これはカナヴェーヌを踏む会でもやって……あら、トープドール。いたのね」

「帰っていらしたのね。遠征の成果は如何でして?」


 共に名家の令嬢を思わせる華美な出立ちだが、二人の特徴は対照的。

 真っ直ぐに流れる白銀の髪に、簡素ながら瀟洒な意匠の白い衣服の少女。

 ふわりと広がる漆黒の髪、派手に煌めく紅色の衣服を纏った少女。


「フューフィル殿、ラヴァリッサ殿。首尾は上々だったよ。順調に負けてきた。まだ成長の余地を多分に残しているし、聖標器(ヴァイネライナ)も一つ持って行かれそうだね」

「上々要素が何一つ聞こえないのですけれど」

「ラヴァリッサ、わからない? トープドール、話してて随分嬉しそうだもの。つまりはそういうことよ」

「……どういうことですの?」

「……さぁ。どういうことトープドール?」

「フューフィル、適当に絡んで解ってる雰囲気だけ出すのやめてくださらない?」


 非難の目を向ける紅い少女――ラヴァリッサに、悪戯そうな含み笑いで返す白い少女――フューフィル。

 そこに、ようやくカナヴェーヌを解放したらしいサリュージアが、今度は二人に割り込むように両者の肩にもたれかかった。


「にはー」

「きゃっ! ちょ、サリュージア様!?」

「やっぱこっちのが寄り掛かり心地いいわぁ~。カナヴェーヌあいつ力かけるとどっか折れそうで怖いからねぇ~」

「さっき全体重でそのカナヴェーヌを押し潰していませんでした……?」

「サリュージア、もう呑んでいるの? ずるいわね、一人で。私の分は?」

「おー、フューフィルもやるぅ? こないだエイゼンがどっかから仕入れて来たやつが美味くってねぇ~」


 その様子を見て、ぽつりと漏らすトープドール。


聖王(スプリミオ)一行の青年といい、最近は昼飲みが流行っているのか……?」

「いえ、姉さんのは流行りとかではなくただ人として駄目なだけで……。……あの、聖王様(スプリミオ)の仲間にもいらっしゃるんですか、こういう方が」


 独り言のつもりだった言葉に何故か返ってくる返事。不思議に思ったトープドールが横を見ると、いつの間にか合流したノーヤが立っていた。その隣ではイフラが頭を掻いている。


「エイゼン様の仕入れた酒って……それ確実に料理用のヤツじゃねェか。どうすんだよ……」


 苛立ちと困惑の混ざったような表情でぼやくイフラ。


 当のエイゼンは、この馬鹿騒ぎには一切目をくれず、奥の方で着席したまま黙々と書類を読んでいるようだった。

 ひとまずサリュージアの声は届いていなさそうだ、と安心しかけたところで、エイゼンの目が手元の書類ではなくサリュージアを向いているのに気付くトープドール。

 寡黙で無愛想な武人、といったような人物のエイゼンがどんな心境の視線を飛ばしているのかは測りかねるが、少なくとも好意では無いだろうと判断する。


「……俺は知らねェぞ。何も聞いてねェ」


 イフラも気付いたようで、隣で露骨に目を逸らしていた。

 嘆息し、とにかく何かサリュージアに声をかけようとトープドールが口を開きかけたところで――、

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